第104話 戦士と武闘家

 洞窟どうくつ棺桶かんおけ

 

 おどろおどろしい事、この上ない。


 開けたらバーン! と何か出てきても心臓に悪い。


 おれは名案が浮かび、ポンッと手を打った。そっと近づいて、松明をひつぎの上に乗せ、戻る。


「道具屋が言う通りだ」

「えっ、ダネルが何て?」

「カカカは怖いもの知らずだと」


 たしかに。現実の世界で死霊だゾンビだとなると、腰を抜かすだろう。だが、そういうのがいるとわかった世界だと、意外に怖くない。


「俺も見習おう」


 そう言ってガレンガイルも忍び足で棺に近づき、手にした松明を乗せた。


 松明の火が棺に移る。


「このまま、焼けちゃえばいいんだけどなぁ」


 その時、棺がガタッ! と動いた。ガレンガイルが剣を抜く。


「ガレンガイル、出てきたらアナライザー・スコープをする時間をかせいでくれ」

「心得た」


 おれは数歩下がった。師匠が剣を構える。


 待てよ、これ、まだ人間で、人質だったらどうしよう?


 駆け寄ろうとした時、棺が弾け飛んだ!


「アナライザー・スコープ!」


  名前:デス・アンデッド

  体力:500

  魔力:0

  攻撃力:200

  防御力:0

  魔法:なし

  特殊スキル:なし

  エメラルド:1


 アンデッドの上級か! いや、デス・アンデッドって言葉が二重。黒い白熊、みたいになってる。でも、それどころじゃない。


「魔法はないぞ! でも、攻撃200だ」

「カカカ殿、あの服装!」


 アンデッドの服を見た。背広に蝶ネクタイ。執事だ! バルマーはもはや、誰ひとりとして仲間は要らないのか!


 アンデッド化した執事の後ろから、黒い霧が立ち上る。もう一度、腕を交差した。


「アナライザー・スコープ!」


  名前:悪霊

  体力:50

  魔力:200

  攻撃力:0

  防御力:0(物理攻撃不可)

  魔法:コールド・ブラスト

  エメラルド:1


 うお、悪霊とな。死霊や怨霊より強え。


「ガレンガイルはアンデッドを! おれは霊をやる!」


 ガレンガイルから離れ、横にまわった。ポケットから火炎石を出す。悪霊に向けて強く握った。石から火の玉が悪霊に飛ぶ。


 当たった! と思った瞬間、悪霊は素早く上に移動した。


「あいつ、動けるのか!」


 さらにポケットから火炎石を出す。悪霊は完全に人の形になり、上空を素早く移動する。


 しまった! チックを連れてくれば良かったか!


 おれは火炎石の反対に持っていた盾を地面に置き、ポケットから反射石を出す。悪霊を追いかけた。悪霊が、くるりとおれを振り返る。


 魔法が来る! 反射石を握りしめた。


 怒涛の霊気が身体を打ちつける寸前、おれのまわりの空気が揺らいだ。その揺らいだ空気に霊気が当たり、消えていく。


 手の中の反射石が割れた。そうだった。この石は一回しか効果がない。


 火炎石を構える。火の玉を飛ばした。悪霊は素早く移動した。火の玉は壁にぶつかる。くそっ!


 おれの服はいたる所に小さな隠しポケットがある。石は二つずつ各所に入れていた。右腕のポケットから火炎石を出す。


 反射石の予備はズボンの後ろポケットに入れたはず。


 あれ? ない! お尻のポケットに入れた反射石がない。


 マントをめくり身体をひねってケツを見た。小さく破れている。


 ああっ! 前の戦闘でハウンドが噛んだ時か。バカ犬!


「カカカ!」


 呼び声に前を向く。悪霊がおれの目の前にいた。やべえ!


 その時、「ドン!」と床を強く踏む音とともに、悪霊が左にふっとんだ。


 右を向くと手を突き出したティアがいる。


 嘘でしょ? 今、悪霊を殴った?


 霊系のモンスターに、物理攻撃は効かないはずだ。


 ふっとんだ悪霊に向かい、ティアはさらに距離を詰める。は、速え!


 悪霊の手前で急停止すると、一度、右拳を引いた。そして「ドン!」と右足を床に踏みつけた。同時に身体をねじる。


「はっ!」という短い気合とともに、ピンと開いた手のひらを悪霊にぶつけた!


 喰らった悪霊はさらに壁まで吹き飛び、飛び散るように消えた。


 これ、なに! なんで霊を殴れるの?


 いや、その前にガレンガイルのほうだ。デス・アンデッッドと交戦中のガレンガイルを見た。デス・アンデッドは火の点いた棺の破片をつかんで振り回している。


 ガレンガイルは少し距離を取り、それをかわしていた。


 ふいにガレンガイルは剣を下に構え、デス・アンデッドに踏み込んだ。デス・アンデッドは重そうな木の板を軽々と持ち上げ、ガレンガイルの頭に振り下ろす。危ねえ!


 ガレンガイルは、わずか半歩、身体の軸をずらした。黒い服にかすった跡が残る。


 わお、すっげえギリでよけた! そうか、特殊スキルで見た「見切り」か!


 次に半歩引いたかと思うと、剣を上段に構える。踏み込むと同時に縦一直線に斬った。おそらく特殊スキル「一刀両断」だ。


 デス・アンデッドは崩れ落ちた。


 強え、さすが師匠。おれは同じ「剣を使う者」になるわけだが、ここまでレベルが違うと、憧れも嫉妬もない。ただ「すげえ」の一言だ。

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