第102話 罠

「松明を細かくバラして」


 そうマクラフ婦人に言われた。


 松明は細木を集めて縛っているので、一本一本にはバラせる。分かれ道に来た時、婦人は、その先端に火をつけた。


 来た道の壁に立て掛ける。なるほど、これで帰り道がわかる。


 しかも、しばらくは小さな火が点いている。目印として、遠くからでも見えるだろう。


 何度かの分かれ道だった。ハウンドの鼻を頼りに進むと、そのハウンドがぴたりと止まった。


 おれは列の先頭に行き、前方を注視した。道は曲がっていて、その曲がるところに黒い霧が薄っすら見える。死霊だ。


 おれは、気になっていたことをマクラフ婦人に聞いた。


「魔力を回復させる、そんな魔法は持ってなかったですよね?」


 アナライザーで見た中に、それらしいのはなかった。だが、婦人から出た言葉は意外だった。


「魔力は回復させれないけど、自分の魔力を渡すことはできるわ」


 えっ、まじで? それ、すごい便利かも。


「チックに攻撃してもらって、そのあと、お願いしていいですか? 1だけなんで」

「1しかないの? もちろんいいけど」


 おれはチックを手のひらに乗せて進んだ。黒い霧が人の形になる。


「チック、魔法だ」


 チックがぶるぶる! と震えた。ニードル・ブリーズが放たれる。死霊に刺さった。


 マクラフ婦人の前に戻る。婦人は、ちょん、とチックにさわった。


「行きましょう」


 おれの言葉でハウンドが歩き出す。おれたち人間も続いた。


 またハウンドが止まった。

 前方に黒い霧。

 チックの魔法。

 婦人がちょん。


 またまた進むと黒い霧。


「はいはーい」


 おれはチックを手に乗せて前に出た。バシュ! っとニードル・ブリーズ。引き返して婦人の前へ。


「なんか、すごいズルしてる気分」


 ティアが笑いながら言った。たしかに。


「婦人、ペンダントの感じはどうです?」

「これね」


 マクラフ婦人が首にさげたペンダントを持ち上げた。


「このサソリくんにあげる1ぐらいだと、すぐ回復するわね」


 わお! そうなると、無限の弾薬があるみたいなもんだ。マクラフ婦人とチック、この二人って、すごい相性いいんじゃなかろうか? そう思ったのは、おれだけではないようだ。


「カカカに捨てられたら、わたしの所にいっらしゃい」


 婦人はそう言ってチックをちょんと触った。


 チックは片方のハサミを振り上げた。「おう、そんときゃヨロシク」ってなもんだ。おいおい。


「えー、じゃあ、あたしはクロちゃん」


 ティアの声にクロちゃん呼ばわりされた黒犬が、おれを見上げた。ドヤ顔に見えたのは気のせいだろうか?


 初等学校でも思ったけど、なんか、おれ以外モテてない?

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