第77話 黒幕は誰か
「誰か、敵の根城に心当たりがありそうな者はおらぬか?」
アドラダワー院長は、ギルド職員に向かって言った。
「院長、職員の人に聞いても」
「なんじゃ? お主、ここまで来て、黒幕が誰かわからんのか?」
おれはまわりを見た。シーンとしてる所を見ると、おれだけ全容が掴めてないみたいだ。
「カカカ様、さきほどダネル様は、犯人は冒険者の格好だと言いました」
「ええ。言いました」
「冒険者と繋がりがあると言えば、ここギルドです」
「たしかに。でも、みんな関係ないんでしょ?」
「ひとりだけ、ここにいない職員がおります」
ひとり? おれは考えた。あっ!
「バルマー局長?」
「はい。私は何かの間違いだと思いますが」
「あの局長ってジモティ?」
「カカカ様、ジモティとは何です?」
そうでした。ここは異世界でした。
「ああ、地元民。この島の生まれですか?」
「いえ、十年ほど前、島に来られました。大陸のほうの生まれだそうです」
大陸、本州ってことだな。なら岡山県民か。うちの死んだじいちゃん、岡山県民は信用するなって言ってた。
「地元民でもないのに、局長?」
「大変に優秀な方でして、当時のギルドはろくな職員がいなかったのですが、あっという間に生まれ変わりました。その功績もあり、二年前からギルド局長に抜擢されております」
ただの職員が、途中からネクロマンサーになったとは考えにくい。小さな島なら牛耳れる。そんな狙いでやって来たのだろうか。
おれは、ガレンガイルのほうを向いた。
「隊長、バルマーの家に行こう」
「待てよ。相変わらず気が早え」
ダネルが仰向けのまま口を開いた。
「冒険者じゃねえ格好のやつが、ひとりいたぜ。おめえから過去の戦闘を聞いといて良かった。じゃねえと見過ごすとこだった」
おれの戦闘? 意味がわからなかった。
「どんな格好だ?」
「仕立てのいい背広に、蝶ネクタイ」
「執事! ヨーフォーク邸か!」
「おれは、その執事の顔は知らん。だが、おめえの話を聞いた時に変な話だとも思った」
「カカカ殿、ヨーフォーク邸とは?」
横からガレンガイル隊長が聞いてくる。
「ほら、二回目の酒場で話したやつです。二度にわたる死霊退治の」
「あそこか!」
おれは立ち上がろうとしてふらついた。ガレンガイルが手を貸してくれる。
「すぐに部下を集める。カカカは、ひとりで行くな。いいな?」
「道具屋の言う通り、せっかちじゃの。お主ら、せっかく治療師がおるのに、その身体で出かけるつもりか」
振り返ると、アドラダワー院長が数珠の首飾りを持っていた。
おれらに向けて手をかざす。全身から筋肉痛のような疲れが消えた。隣のガレンガイルは、包帯を巻いていた腕を動かす。
おれとガレンガイルは、うなずき合って駆け出した。
「これじゃ。困る患者は、往々にして治した途端に走り出す」
アドラダワー院長の声が後ろから聞こえ、おれは手を振って感謝を伝えた。
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