【勇者カカカの冒険Ⅰ】はじめから ▷つづきから

第三章

第61話 ダンとダフの見立て

 店の奥から、ダンが一本の剣を持って出てきた。


「武器はこれだ」


 出された剣を手に取った。青銅の剣だ。だが短い。普通の剣は1mぐらいだが、これは六割程度の短さだった。


「メイルには慣れたはずだ。次はこれだな」

「短くないか? これ」

「おめえはな、この短さが丁度いい。というより、この先、これより長い剣は使わねえほうがいい」

「おれには使いこなせないってか?」

「そうじゃねえ。こいつだ」


 ダンは黒犬をアゴで指した。


「ハウンド?」

「仲間だろう。長い剣を使えば、乱戦になった時に当たっちまうかもしれねえ」


 そこまで考えるか。いや、正しいのか。


 ハウンドは基本、右側の足元にいる。今日はナイフだったから良かったが、長いと当たる危険はあるかもしれない。これからは盾を持つ左側に立たせたほうが良いのか。


「それに、自分の腕の長さと一緒の剣は、実は一番扱いやすい」


 腕の長さと一緒? おれは腕を伸ばし剣と並べてみた。肩の付け根から指先まで、ぴったり一致する。


「すげえ、ぴったりだ」

「あたりめえだ。俺が見れば、身体の大きさや長さはわかる」

「ほんとか?」

「試してみろ」

「腕の長さは?」

「62だ」

「足の長さ?」

「79」

「足の大きさ?」

「26」

「ティアの胸は?」

「78」


 どんぴしゃだ。そしてやっぱり変態だ。


 おそらく、これはダンの特殊スキルだ。人を見る時に右の眉を吊り上げる。あれがスキルの引き金なんだろう。


「あん? ティアの事、聞いたか? あの子はな」

「いや、いい。もうパーティーは解消したんだ」


 少し気分を沈ませていると、次男の防具屋、ダフが来た。


「俺が考える、次の防具はこれだ」


 ダフはカウンターに盾を置いた。小さい。直径40cmほどだろうか。今持っている長い楕円形のタワーシールドに比べれば、面積は半分以下。


 いやそれよりも、気になる事がある。おれは盾の表面を拳でコンコンと叩いた。


「木の盾?」


 表面に赤い塗料が塗られ、黒色の十字線が描かれているが、材質は木だ。


「南蛮の国で使われるバックラーという円盾だ」

「嘘だろう、防御力、低くないか?」


 防具屋はニヤッと笑った。


「ここまで長盾を使い、お前は盾を使った戦い方に慣れてきた。次は攻撃をかわすこと、受け流す使い方を身につけるべきだ」

「だとしても、木は」

「これはな、大事に使わなくていい。叩いてもいいし、ぶん投げてもいい。傷ついたら新しいのをやる」


 おれは、バックラーと呼ばれる盾を持ってみた。軽い。それはたしかだ。


「あと、こいつだ」


 ダフは灰色の上着を出してきた。着てみると厚手の布で、ちょっと重い。すそはロングコートのように長く、前で止めるボタンはない。薄汚れたトレンチコート。そんな感じだ。


「これは、帆船の帆に使われていた頑丈な布だ。剣に対して意味はないが、小さな妖獣の爪なら防げるだろう。これも消耗品だ。やぶれたら、また来い」


 なるほどな。ダフはおれの腕にある引っかき傷を見逃さなかったようだ。


「期待してるぜ」


 そう言ってダフは自分の店に帰っていった。


 これで、治療院だけでなく、ネヴィス三兄弟にまで借りができるのか。おれはこの世界で長く過ごすほど、マイナスが増えている。大丈夫なんだろうか?


 ため息をついて店を出ようとしたら、ダンに呼び止められた。


「ガレンガイルに装備を見せとけよ。あいつ、新しい武器にうるせえからな」

「憲兵隊長に?」

「ああ、俺は憲兵本部に行くのは好かん」


 おれも好きではないが、借りを作った手前、引き受けざるを得なかった。

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