第59話 老人のおつかい

 西の港町に着いた。


「もはや目をつむっても行けるんじゃないか?」と思われるルーティンワーク。両替所に行き水晶を金に替えた。二十匹も倒したのに40G。


 次にギルドへ。二階に行き、レベル上げをする。自分の魔法欄を確認した。


  魔法:ファイア・ショット


 黒犬の魔法を確認する。


  魔法:ファイア・ブレス


 おれのファイア・ショットをこいつが吐き、こいつのファイア・ブレスをおれが撃つ。なんとも奇妙でややこしい。


「お前、おれと一心同体みたいになっちゃったけど、良かったのかよ」


 しゃがんで黒犬に言ってみた。こいつは以前、ケガをしてても人間になびかなかったやつだ。孤高、そんな雰囲気すら感じた。それが、おれのせいでややこしい間柄になっている。こいつにとって良かったのか。


 黒犬が見つめ返してくる。あくびをした。そりゃそうだな。チックはハサミを振り上げる。「おい、早く行こうぜ」そんな感じだ。おれの仲間二匹にはツンデレのデレは微塵みじんもない。


 一階に降り「幸運の窓口」こと、マクラフ婦人から報酬50Gを貰う。合わせて90G。向こうの世界では九千円だ。


 時給の良いバイトとも言えるが、治療院の借金を返せる目処もつかない。これは本気で人探しをして、一攫千金を狙うしかないのかも。


 そんな事を思っていると、マクラフ婦人が新たな依頼書を出した。


「伝言代わりに使われると、困るんだけど」


 婦人の言葉は依頼書を見てわかった。


  依頼内容:老人のおつかい

  報酬:10G

  敵:なし

  緊急度:不急

  依頼者:ダネル・ネヴィス


 依頼者がネヴィス兄弟の三男坊、道具屋のダネルだ。思わず吹き出した。


「受けるの?」


 婦人が面倒臭そうに聞いてくる。


「受けます」


 婦人はハンコを押し、その場で10G出した。サインは要らないらしい。


 ダネルの言う「老人のおつかい」って、何を買えばいいんだろう。まあ、おれを呼びつけるためのジョークだろう。


 道端に出ていた露店でエールを一瓶買った。ダネルの道具屋に行く。


「おい、ダネル、おれが怒られるだろ」


 カウンターのダネルは笑って振り返った。


「おめえが言ってた窓口の女がわかったぜ。たしかに、愛想のカケラもねえ」


 ダネルが、杖をついてカウンターから出てくる。おれの買ったエールを受け取ると、そのままカウンターに置いた。


「ちょっと、付き合えよ」


 ダネルに連れられた先は意外にも、ダンの武器屋だった。


「兄貴! 兄貴!」


 ダンはカウンターの奥で剣を磨いでいた手を止めた。


「ちょっと話がある」


 ダンが不思議そうな顔で出てきた。


「おう、カカカか。何の用だ?」

「こいつの武器は、この前の戦闘で壊れちまった。新しいのが欲しい」

「同じものか?」


 長兄のダンがおれに聞く。


「いや、兄貴が考える最適な物を。ただし、出世払いで」

「ああ? だめだ。ウチはツケはしねえ方針だ」

「おい、ダネル」

「おめえ、カネねえだろ?」


 おれは返答に困った。


「あるわけねえよな。駆け出しの冒険者が、一週間も入院してりゃ」


 至極ごもっとも。


「まあ、ちょっと待っててくれ」


 ダネルはそう言って店を出ると、隣の防具屋に次男のダフを呼びに行った。なにする気だ?


 残ったダンがぎょろっと、おれを見た。おれもわからないから肩をすくめる。ほんと、おれのまわりって「デレ」がないよね。

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