第46話 おれに合った装備とは
おれも帰ろうかと出口に足を向けると、ダンがぼそりと言った。
「おめえも、自分に何が合うのか、よく考えろ」
足を止め振り返った。
「おれが?」
「そうだ。剣なのか、槍なのか。剣は片刃なのか、両刃なのか」
たしかに。考えると色々ある。
「棍棒なんて、一番合わねえぞ」
買って帰ったのを覚えているようだ。
「おれなら、何が合いそう?」
ダンがじろっとおれを見た。
「力はそれほどねえ。腕の長さも普通。魔法を使うふうにも見えねえ。おそらく剣も未熟」
さんざんな言われようだ。
「これだな」
ダンは、細いフェンシングのような剣を出した。
「メイルだ」
おれは出された剣を取った。
「これで、切れるのか?」
「切るんじゃねえ、刺すんだ。剣の腕がねえうちはな、刺すだけに集中したほうが、手っ取り早え。盾で防ぎ、急所を刺す。これだけ考えたほうが上手くいきやすい」
なるほどな。戦闘ってな、やっぱり頭を使うんだな。
「ただし、メイルは折れやすい。ナイフも持っておくのがいい手だ」
「値段は?」
「メイルが300、ナイフが100だ」
「買った」
カウンターに戻り、代金を払う。これも専用の鞘があり、10ずつ余計にかかった。
おれは右利きなので、メイルは左の腰に下げた。メイル用の鞘についたベルトを腰に巻く。
ナイフは右だ。これは腰に刺すのではなく、太ももにぴったりつくような造りだった。上下に二つのベルトがついている。上のベルトを腰に巻き、下のベルトは太ももに巻く。
麻のズボンを止めるベルトと合わせると、これで三本のベルトをするハメになった。三本のベルト。おれの外見はなかなか個性的だ。
「しかし、おれに親切だな」
ダンは嫌そうに顔をしかめた。
「ダネルの野郎が、次に来たら教えてやってくれって、うるさくてな」
三男のダネル。あいつ、なかなかおせっかいだな。
「ダフのとこにも寄ってけ。見繕ってくれる」
「ダフ?」
「ああ、弟の防具屋だ」
ダフは兄より早かった。おれの武器を見るなり、盾の棚から取りだした。
楕円形で細長い盾だ。
「革と木のタワーシールドだ。この長い盾なら足元の攻撃も防ぎやすい」
「鋼のタワーシールドはないのか?」
「お前の武器はメイルだろう、少し動けるほうがいい。槍なら間合いが遠いぶん、重い鋼の盾でも相性いいがな」
ご解説、ごもっとも。
「もらいます」
「300だ」
ここまでくると、ダネルの道具屋に寄らないわけにはいかない。ダネルは、おれの装備を見るなり、にやっと笑った。
「兄貴たちが見繕ってくれたようだな」
「おせっかいなヤツだな」
「まあな、弱っちいヤツを見ると、ついな」
「まったくだ。弱くて困るよ」
「自分で、そう言える。おめえは強えよ」
おれは首をすくめた。
「さて、今までの戦闘を教えてくれ。俺も道具を考える」
ダネルにそう言われ、おれは今までの戦闘を話した。何が重要になるかもわからない。時間をかけ、なるべく細かく正確に伝える。
話を最後まで聞いたダネルは、あきれた顔をした。
「おめえ、よく生きてるな」
「それは、おれも思う」
「魔力石頼り、は辛いな。魔力石だけじゃなく、火炎石も持つべきだ」
「火炎石?」
「火の魔法を閉じ込めた物だ。中に入っている魔法の強さで値段が変わる」
「一番弱いのは、いくらだ?」
「20だな」
思ったより安い!
「早く言えよ」
「聞かねえからだろ」
「まったくだ。弱い上にバカときてる」
ダネルが笑った。
「あとは、回復石と煙玉、これは一個だけでいい。おめえはまだ、何個も回復石を使い続けるような長い戦闘は無理だ」
「煙玉ってなんだ?」
「そのまんまだ。煙を出して、その隙に逃げる」
「早く言えよ」
「聞かねえからだろ」
「いや、お前に会う前だよ」
あん? とダネルが首をひねった。
「どうやって会う前に言うんだよ」
「じゃあ、会うと同時か。おれはロクデナシだから、これを持っとけって」
二人で笑った。
「じゃあ、ダネルが思う組み合わせで。ただ700Gまでしか買えない」
「それだけありゃ、上等だ」
ダネルが物を取りに席を立った。おれは思わず、ため息をついて頭の上で手を組んだ。無知ってのは怖いね。おれは勢いだけでここまできたようなものだ。もっともっと考えて戦おう。
「こりゃ、ちょっと古いな。新しいのにするか」
ダネルは回復石が山のように入った木箱をあさっている。箱を向いたまま、またつぶやいた。
「そういやあ……」
「うん?」
「殴って悪かったな」
こいつ最高だな。そう思ったが、それは言わないでおく。
「ああ、じゃあ、一個貸しで」
「おう」
ダネルは短く答えて、まだ木箱の中をあさっていた。
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