第7話 色仕掛け作戦と誤解
「ご主人…あ、あんまりにゃ!あの従者が可哀想にゃ…」
とミラが言う。
「はあ?なんでよ?あんな所に紅をつけて見せびらかしてんのよ!私モテるんですとかそういうのいいから!!」
「だって…ご主人がガード堅くて許しがないと触れにゃいのにそれは従者もきっと鬱憤が溜まるにゃ?それに浮気してないと思うにゃ?」
「いや、してるね!ていうかそもそも浮気じゃないからね!!知らないわよ!!私被害者ですから!!」
「その割には怒りが凄いにゃ?何でそんにゃに怒ってるにゃ?」
「うっ…そ、それはだからあれよ!誘拐しといて他の女とイチャイチャして帰ってくるとかおかしいから!!それはそれ、これはこれでで、けじめとかつけるべきよ!犯人として!」
「ご主人も大概訳がわからないにゃ。プリプリして嫉妬してるんにゃ!」
「嫉妬じゃないわー!」
「嫉妬にゃ!!」
「違うって言ってんでしょ!」
と言うとミラはブーブー反論するが、
「どうせ私の気を引こうとしているのよ!!男なんてやらしいからね!!見てなさいミラ!!思い切り私はあの姿絵の令嬢より綺麗になって奴を惑わせてやるわ!!そしておねだりして防寒具ゲットしてこんな所からとんずらよ!!」
「まだ、逃げようとしていたにゃ?ある意味で凄いにゃ…」
当たり前よ!
自由を求めて私は前へ進むのよ!!
見てなさい!変態!!
私の【黒蝶の月】の威力でお前をメロメロにして油断させ、防寒具を買わせてやる!!
*
ヴィオラお嬢様が何故か怒ってしまわれた。今朝から機嫌が悪かったと思っていたが帰ったらまた機嫌は最悪になっていた。何故だ!?
しかも鞄から落としてしまった、この令嬢達の姿絵…
流石にルンドステーン家のゴミ箱とかにそのまま入れておくこともできず、持ち帰りこっそり焼くつもりだったのですが、どこから話していいのか言葉に詰まってしまいました。
だから怒りを買ったのでしょうか??
怒って私を鞭でぶっ叩かれても全然嬉しいからいいんですけど、お嬢様は鞭すら使ってくれないお優しい慈悲をお持ちなのです!
お嬢様に罵られたいですが、やはり
原因がよく判りませんので、とりあえずお嬢様ご希望のメニュー…野菜や魚中心でバランスの良い栄養のある夕食を作りましょうか。
*
それから私は気合を入れてすっごいお洒落をしてみた。姿見で綺麗に化粧して買ってもらったドレスワンピースで一番いいのを着て、更にアクセサリーを身につけ髪は…とりあえず自分で出来ないから香油をつけ頭にリボンを巻いておいた。おっと香水も忘れちゃならない!
すると夕食が出来たからとノックしてノアさんが知らせた。
よし!行くわよ!!
【お色気大作戦】開始よ!!
と私はカチャリと鍵を開けてノアさんの前に立つと彼は息を呑み固まりかけていた。
ふふふ!私の美しさに驚いているわね?
「お、お…お嬢様!?な、何故…着飾っているのですか!?」
そりゃいきなり着飾ると驚くだろう。
「変かしら?別にいいでしょ?私、ここに来てお洒落を怠けていたみたいだから!それよりテーブルまでエスコートしてよ!特別に触ってもいいわ」
と言うとノアさんは赤くなり
「い、一体どうしてしまわれたのだろう?い、いや落ち着かねば…」
と動揺している。
ひひひ!見たか!やはり私はあんな姿絵の小娘共より美しいわ!!惜しいことをしたわね!変態執事!
ともあれぎこちなくノアさんは私に触っていいと許可が出たので手を差し出して私の腰を片手で回してとても赤い頰で綺麗に微笑みながら
「こちらです、お嬢様…足元に気を付けて」
と誘導され、不覚にもときめいた。
なにこの仕草!完璧!!
くっ!この男!他の令嬢にも同じようにこうして導いている!導き慣れてる!!
おのれえええ!!
はっ!ダメよ!防寒具ゲットするまでは誘惑するのはこちらよ!こんな笑顔なんかに負けるもんですか!私も微笑み返しを発動するのよ!!
「ありがとうノアさん…とても紳士ね…素敵よ」
と言って微笑むとノアさんは…
「ヴィオラお嬢様こそ…とてもお美しいです…。このようなお姿を目にする日が来ようとは…私はなんと幸せ者でしょうか…」
とうっとりしている。
おーほほほほ!当たり前よ!!
しかしノアさんはまだあの紅のついたシャツを着ているのでちょっとイラッとした。
「そうだわ!お食事の前にちょっと踊りませんこと?ほら、痩せないといけないしね!」
と言うとノアさんはまた赤くなり
「え?あ…あのここで?し、しかも私などとダンスをしていただけると??そんな!ゆ、夢では!?」
「夢じゃないわ…嫌ならいいのだけど」
するとノアさんはガシと手を握ると
「嫌なわけありません!!大変光栄でございます!!…では音楽と少し景色を…」
とノアさんは魔力を放出し、どこからか音楽が流れ、小屋のリビングは宮廷のダンスホールみたいになった。もちろん魔法だから一曲踊る頃には消えるだろうけど。
「ちゃんとしたドレスじゃないけど…」
「すみません!こんなことなら今度ドレスを買って来ます!」
「いや、あのいいわよ…」
「いえ!買いますとも!!」
ノアさんは大興奮だ!いいぞ!!防寒具おねだりまで着実に近付いているわ!
手を取り
「それではお嬢様…私と一曲…踊っていただけますか?」
と蒼い瞳で見つめられた。
「え…ええもちろん…」
と私達は曲に合わせて踊り出す。社交界ではよく踊ったわ。懐かしい。
まぁ相手はこんな美形じゃなくて鼻の下が伸びた男ばかりだったけどね!!
ノアさんは私を上手く誘導して踊った。彼の銀の髪が揺れて私の黒い髪も靡きくるりと回ったり、離れては近寄ったりした。
な、なんか楽しいわ…。ノアさん…ダンス上手くない?あ、元貴族だったわね…。没落したとは言え踊れて当然…。この綺麗な手でこの男もいろいろな令嬢と?時折視界に入る紅のシミを見て思うのだ。
曲が終わり身体も温まりいい運動になる。
「お嬢様…とても素敵な時間でした。時を止めたくなるくらいです…」
と恍惚な表情だ。よし!こ、ここよ!
「わ、私もノアさんと踊れて楽しかったわ!ありがとう…ところで…私ノアさんにお願いがあるの…」
と私は一歩踏み込み彼に抱きつく様に耳元に口を寄せた。案の定ノアさんの耳は真っ赤になりビクリとした。
ふっ!これが私の武器よ!!
お前の心は貰った!!と悪女のような自分が出てきてニヤリとほくそ笑む。
「ノアさん…ヴィオラのお願い…聞いてくださる?」
少し離れて上目遣いで見上げて可愛くしてみるとノアさんは顔面が真っ赤になり
「あ…あ…お、お嬢様…な、なな何ですか!?」
へっ!かかりやがったな!!
男なんてこれでイチコロよ!!
と思考が悪女になり、
「ヴィオラ…防寒具が欲しいのっ…。フカフカの毛触りのコートとかぁ…。女の子は…冷えたらダメでしょ?可愛い冬用のブーツも…手袋とマフラーと帽子もぉ!!」
「………はい…何でもご用意しますよ…お、お嬢様…の…為なら…」
やった!!もはやイチコロじゃーん!良くやったわ私!!
「お、お嬢様…」
すると魔法が解け、元のリビングに戻る。ノアさんは赤い顔で近寄りなんと私を抱き上げた!!
「えっ!!!??」
ちょっと、な、何!?
するとノアさんはソファーに私を下ろして押し倒してしまった!!
えっ!!?
赤い顔のノアさんが恍惚に私を見下ろした。
あれ?これヤバくね?
なんか火ぃつけちまったみたいな?
「お、お嬢様…とても綺麗で美しい私のお嬢様…。そんな…。煽られると私はもう…もう!!」
「ひっ!!」
顔が近づく!!不味いいい!!このまま犯されるううううう!するとチラリとシャツの紅が目に入り私は渾身の力でノアさんを突き飛ばした!!
そして目に涙を溜めて
「なっ!何よ!!調子に乗らないで!!ひ、昼間女とイチャイチャしてきたその身体で私を穢す気!?」
ノアさんは私の涙を見て我に帰り
「えっ!?な、何のことですか?」
ととぼけるので私は言った。
「証拠ならそこにあるじゃない!!シャツに紅がついてるわ!!この前だって洗面所の洗濯籠から同じ様な紅付きのシャツが出てきたし!!」
「なっ、こ、これは…」
「女とイチャイチャしてきた証拠よ!穢らわしい!!仕事に行ってイチャイチャして帰ってくるなんて最低!私のことを好きじゃないならさっさと解放して!!」
と言うとノアさんは悲しい顔をして…
「違います…お嬢様…、私にはお嬢様しかいません…恐れ多いですがこんなに愛しているのに…。よもや私が他の女性と関係してると思われるなんて!そんなこと…絶対にありえません!」
「口では何とでも言えるわ!!」
「…あのこれ…木苺のジャムなんですよ。職場に汚い食べ方をする庭師の男がいて、その男が食べる際にこちらにかかって…擦ったらこのようになったんですよ。先日もです」
と言った。
な、な…なんだと!?木苺のジャム!?
んはあああああ!??
いや確かに匂い木苺みたいな…というか木苺じゃん!!
私は一気に青くなった。
「いやあ…でも…あの姿絵の令嬢の絵は…」
と聞くと
「あれは…アクセル様の婚約者候補達でしたが、アクセル様はかなり女好きなので、あの方達とお見合いして…なんというかお手付きをされた後、飽きて私に押し付けようとしているのでお断りして流石にあの家のゴミに捨てるのもどうかと思い、持ち帰りこっそり燃やそうとしていました」
と言うノアさん。
は?
つまり…ノアさんは…どこぞの女とイチャイチャなんてしていないの!?
う、嘘??わ、私の勘違い!!?
こうなると恥ずかしい勘違いをしてしまったのはこちらである!
こんな服まで来て気を引き防寒具が欲しいとねだった。一連の自分のしでかしたことに顔から火が出る勢いだわ!!
「私は誓ってヴィオラお嬢様一筋の下僕ですから…この私の気持ちだけはどうか解ってください!」
真剣にそう言うとノアさんは私の手を取り手の甲にキスを落とした。
それからなんだか心臓がドキドキと鳴り出した!!な、なななな!何!?
「ヴィオラお嬢様を世界で一番愛しています!」
と微笑まれ鼻血吹きそうになった!!
くっっ!ここで流されちゃダメだわ。
「ああ、そ、そうなの?とにかくお腹も空いたし夕飯にしましょう!!」
と言い、席に着く。
もはや告白をさらりと流す酷い女の私!!勘違い甚だしい痛い女の私!!
向かいに座るノアさんの顔が何故か見ていられなくて私は下を向いてモソモソと食事を取った…。ノアさんの視線を感じて堪らず先程の告白が頭を駆け上り恥ずかしくて仕方がない!
や、やだ!わ、私一体どうしたの?
こんな変態執事に絆されてはダメよ!
逃げなきゃいけないんだからね!!
「お嬢様……防寒具が欲しいと言うことはやはりこちらを出たいと言う事ですよね?」
それまで静かだったノアさんは冷静になり言った。
うぐ!しまった!バレてる!?
くそっ!色仕掛け作戦もダメだったか!!
「わ、私はお嬢様を閉じ込めている罪は自覚しています。死罪も免れないと…。それでも…許されないくらい私はお嬢様を好きで愛しております…。何年も見てきたのですから。変な男に渡したくなくて拐ってしまいました」
うん、変な男に拐われたわ…。
「今宵のお嬢様の着飾った美しい姿に見惚れつい、勘違い致しました。私の為にヴィオラお嬢様がお洒落してくださったと…そんなおこがましい気持ちが暴走して下僕にあるまじき恥た事をしてしまい申し訳ありません!……あまりに可愛くおねだりされるので…つい」
とノアさんは謝る。
な、何か騙して悪い事したのこっちの気分。いや実際騙したわけですけどね?こっちも勘違いしたし…。
「こんな所にいたら息が詰まりますよね…。今度のお休み長期休暇を取りますので他国へ旅行に行きませんか?」
「えっ!!?りょ、旅行ですって!!?」
思わずガタンと私は席を立つ。
外に出れる!!
「そうです。他国ならばお嬢様と出歩いてもまだ見つからないと思いますし………その際にお嬢様がお逃げになっても…私は…もう追いません。これ以上、お嬢様を閉じ込めて置いていいはずがありませんので」
「えっ!?はっ!!?ど、どういうこと!!?」
「最後の思い出です。お嬢様…。お嬢様と旅行に行ったら…最終日…逃げても構いません。もちろん最終日でなくともいいですが、できるだけ楽しんでいただければと思いますので。私からの最後のプレゼントとして。その後、逃げたり通報したりはご自由にどうぞ」
とノアさんはにこりと微笑んだ。
私の監禁生活の終わりが迫っている?
私の心にツキリと痛みが走った。
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