美形執事(仮)に監禁されましたが変態で困っています!

黒月白華

プロローグ

 私はヴィオラ・ロニヤ・ハーグストランド伯爵令嬢。歳は17歳。顔…綺麗な方なんじゃないの?知らない。


 この世界では忌み嫌われる黒い腰まである長い艶髪に翡翠の様な瞳を持っている。体型は…まぁ普通。

 私は今…質素な作りの山小屋?みたいな所に拉致されている。そして銀髪で蒼い瞳の綺麗な顔の執事服の男が私に迫り言う。


「お嬢様…キスしてもいいですか?」


「ダメに決まってんでしょ?」

 しかし目の前の男は私に拒絶され頰を赤らめて嬉しそうに近付いてくる。

 その執事の自らの手には長い鎖の枷が嵌められている。


 おっと、ここで勘違いしないで欲しい!

 監禁されているのは私であってそして監禁しているのはこの目の前の執事の男であるのだ。


 執事と言っても私の執事じゃない!!ていうかこいつはただの顔の綺麗な賊で私は誘拐された!そして私には拘束具がない!しかしこの部屋に魔法がかかっていて自力で出ることも叫ぼうにも防音されていて不可能!


「あんた一体誰なのよ!?」

 私はこいつを知らなかった!


「私ですか?私は…貴方様に恋する賊めです。名はノア・リンドブルムと申します。お嬢様…貴方は何という名前なのでしょう?これからご奉仕致すご主人様なので是非お教えください!」


 私は頭を抱えた。何だこの変態はよ!?

 顔が美形だけに何だこの変態はよ!?


「いや、いろいろ待って?ノアさん、貴方私を訳の分からない所に誘拐してきてちょっと何言ってるのか全然解らないわ?ていうか家に帰して!」

 すると美形執事風ノアさんは赤くなり


「はい、お嬢様…あ、貴方があまりにも美しいので外を通りかかって毎日貴方様のお部屋を眺めて1人いけない妄想をしていたのですが、いきつけの酒場で貴方様が来週お見合いすると聞いてこれはいてもたってもおれず、お救いしなくてはとここにお連れして私が貴方様のお世話をしようとした次第です!」


 待てこらおい!それ私の名前知ってるよね?完全に知ってるし、気持ち悪い!外から見てたって!?双眼鏡とか使わないと部屋の中見えないし、後、魔法で覗き見しないと無理!


「もちろん魔法で日夜ヴィオラお嬢様の美しい姿を拝見させていただき大変眼福でした。今目の前にいることが信じられない!…ところでもうキスしていいですか?」


 おい!やっぱり知ってた!しかも魔法で覗き見されてた!!最悪だわ!着替えからなにから見られてたに違いない!憲兵さん助けて!!


「あの…名前知ってるじゃない…何なの!?しかも自分に鎖付けて何のつもり?普通逆じゃない!?私に鎖つけるでしょう?」

 するとじゃらんと鎖を持ち上げて


「は?美しいお嬢様に鎖なんてつける訳ありませんし!!それに私は貴方のペットですから鎖をつけるのは私に決まっていますよ!?」


「……………」


 何だこいつ!?顔が美形過ぎるのにやっぱり変態だわ!!どうしよう!?逃げないと!

 と思考を巡らせていると影が落ちた。

 いつの間にか超美形顔が目と鼻の先に迫り


「ヴィオラ様…貴方はこれまでご両親以外で男性とキスをしたことは?」


「えっ!?あ、あの…何でそんなこと?関係なくてよ?」

 実はある!

 あるんかい!って思ったかもしれないけどある!

 しかし小さな頃である。顔も知らない少年に家の池で溺れかけて死にかけた私は人工呼吸されたらしい。しかしあれをキスといっていいか?しかも意識ないから覚えてない。どうしたもんかな?


 しかも少年は直ぐにいなくなりお礼を言わず仕舞い。素性も判らないらしい。


「まぁ、お嬢様の初めてを奪ったの私なんですけどね?ああ、貴方が溺れて死ななくて本当に良かったです!それから時々様子を見てこんなお綺麗に成長なさって嬉しいです!見守っていてよかった!」

 と吐いた。


 お前かよおおおおおおお!!!!

 えええええええ!!!


「えっ…あの…その節は助けていただきありがとうございました…。いや、ここで言うのもあれですけど…」

 するとバッと口を押さえてノアさんはプルプルと赤い顔で震えて


「お、お嬢様の口から…私にありがとう等と!!勿体のう御座います!!逆にありがとうございますっ!!」

 と薄ら涙まで浮かべて喜んでいるではないか!!何だこいつっ!?変態すぎる!!

 私どうなるの!?


 しかし涙を拭くと尚も私に近寄るから自然と壁際まで追い詰められる。因みに彼は鎖をつけているが何処かに繋いでいるという訳ではない!

 完全に鎖はアクセサリー化している。

 ジャラジャラしていて煩いだけだ。


 私はキッと睨み


「小さい頃助けていただいたご恩はありますが、今の状況は違うと思います。これ誘拐ですから!犯罪ですから!」


「お嬢様はあのお見合いに乗り気でしたか?」


 うっ、そう言われても…。特に何も考えてなかった。会って良い人そうなら別に結婚してもいいくらいのその程度だったから。私も年頃だし両親を安心させる為にも身を固めて普通に暮らしたいと思うし。別に相手の人も変な噂を聞かず普通みたいだし…。


「まぁ、その見合い相手のアクセル・ラーシュ・ルンドステーン様の従者が私なんですけどね」


「はっ!?」


 なあにいいいいいいいいい!!!?

 何だこいつ!?見合い相手の従者だったのかよ!!?うっわ!どうしよう!!

 いよいよヤバイよヤバイよ!!


「そ、それが事実なら貴方ご主人様を裏切っているし、こんなことがバレたら殺されても文句言えないわよ!?」

 すると美形は首を振り


「私の本当の主人は貴方です!ヴィオラ様!それに貴方といっ時でも過ごせるなら私は殺されてもいい覚悟でここにお連れしました!ここは外からは全く不可視になり風景に溶け込む魔法をかけてありますので!!」


「あ、貴方を私の執事にした覚えはないわ!」


 ひぎいいいいい!!不可視の魔法!?何してくれとんじゃこいつはあああ!!通りで誰も助けに来れない訳だよ!!


「それでもいいんです。ここで貴方のお世話が出来れば…私は…幸せの極みです!ずっと夢を見てきたんです!貴方のお世話をするのを!………なのに…アクセル様の婚約者に貴方が決まった時の絶望と言ったら無かったです!何度も何人もアクセル様にはもっとナイスバディのご令嬢やメイドをけしかけて夜のお供をさせたりいろいろとご奉仕させていたのにも関わらず貴方を諦めなくてしつこくて暗殺しようか迷っていましたが」


 うへええええええ!!!

 見合い相手もなんじゃそいつ!!ふしだらすぎんだろ!!誠実な坊ちゃんとか聞いてたのにヤリまくってたわけ!?しかもけしかけたのお前かよおおおおお!!暗殺されなくて良かったな!見合い相手!!


 なんなんだろこいつ!?私を閉じ込めていやらしいことする気なの!?さっきからキスしてもいいかとか聞くし!


 そりゃお前美形だけども、私初めて会ったんだからちょっとは自重しろよ!!お前は小さい頃から覗き見てるかもしれねーけど、こっちは初めて会ったんだよ!ボケが!!


 ああ、うちなる暴力的な自分がまた雄叫びをあげていますわ。時々私は内面でこうなりますの。


「そんなわけで説明は致しましたのでキスしていいですか?お嬢様…」


「いや、ダメです」


 また言ってるよ!!何回目だよ!!やべえよこいつ!!だんだんはぁはぁ呼吸してるし!もう襲われるの時間の問題だ!!


「くっ!!お、お預けですね、そ、そういうことですか!?私を散々煽っておいてお預けプレイ!!」

 おいやめろ変態!お前が勝手になんかはぁはぁしてるだけだ!!煽ってねぇよ!!お預けプレイってなんだよ!?やめてくれ!!お願いだから!!


「あ、私は18歳です。よろしくお願いします」

 と急ににこりと天使みたいに微笑み年齢を告げてきた。


「あ、そ、そうなんですか…へえ…」

 ど、どうでもいい!!


 この世界では16歳から結婚できる歳である。

 気の早い親たちは早く後継を残そうとする。この世界の人間は魔力持ちとそうでない人間に別れ、魔力持ちの寿命は余り長くないようだ。しかも貴族に魔力持ちは多いと聞く。


「あ、貴方はどこかの貴族ですか?あの…魔力持ちでしょう?私は微量しか持ってないけど…」


 すると美形はまたプルプルして


「お嬢様が私のことに興味を持ってくれたぞおおおおお!!やったああああ!!嬉しい!なんて最良の日だ!!」


 いや、お前みたいな変態から解放されたいだけなんだよ!こっちは!!


「確かに私は元貴族ですが没落したので今はほとんど庶民に近いものですから、私とお嬢様の間には高い愛の障壁があります。ですが、元貴族で魔力も並より豊富だったのでルンドステーン家に拾われたのです」


 と彼は一応包み隠さず何でも話すんだなと思った。すると美形野郎はもじもじしながら


「あの…ヴィオラ様…肝心なことをお伝えしていませんでした!!」

 と彼は右手に魔力を集めて魔法の花を作り出した!

 もちろん魔法なので5分もすれば消える。

 それを私に差し出し蒼い瞳で見つめ


「貴方をお慕いしてます!愛してます!これからご奉仕させてください!お世話させてください!もちろん私をどれだけ痛めつけても構いません!どれだけ口汚く罵っても構いません!!だから私と一緒にいてください!!」

 と告白した。


 流石の私も変態と言えど…いや、後半かなりヤバイ事言ってるけど、こんな美形に告白されてグラっときた。社交界でまぁ何度か軽い男に口説かれたりしたことはあったけどキッパリ断りさっさと切り上げ帰ったから男との関係など持ってない!


 ならこいつはどうなのか?男ってそういうの我慢できるもんなの?


「あ、あの…何というか私が見たところノアさんは女性におモテになるのではないですか?今まで沢山の方を虜にしてきたのではないですか?」


 口ではどうのこうの言えるからね、特に美形なんて!


「あ…ああ…お嬢様が私なんかのことを気になって!?あ、安心してください!あの時から…貴方を助けた時から私の心は貴方で沢山です!他の女!?そんなもの…犬の糞に等しいでしょう!!もしくは雑菌です!私未経験です!貴方様の為にこの身体ピカピカにしてます!」

 と言った。

 私以外の女が犬の糞か雑菌とまで言い出したよ!こいつぁ頭がだいぶいかれているな。


「こ、ここは何処なんですか?」

 ダメ元で聞いてみると


「私の秘密の隠れ家で私しか知らない所で、外に出た所で吹雪で一面真っ白で魔力の少ない者は凍死でしょう。

 でも私が転移魔法で食べ物なんかは調達しますし心配しないでください!ちゃんとお料理もしますしここにはバスとトイレもキッチンも完璧揃っていて誰も私達を邪魔できません!」

 にこにことそう言い私は絶望した。

 外に出ても吹雪って。魔力の少ない私が生き残れる可能性はない。民家も当然無さそうだしこれは外出ても助からない。


「私は時々外出しますが、ヴィオラ様が退屈しないよう各種の本も揃えていますし必要あるもの…手紙以外なら揃えます。服もドレスも宝石も下着も…あ、侍女とかは無理です!全て私がお世話致しますから!」


 と言う。


「なら、貴方を殺す毒が欲しいわ」

 と私はニヤリと言ってみた。まぁそれは無理だろうけどね?わざわざ自分が死ぬような毒を入手してくるはずがない!


「…判りました!ちょっとお待ちを」

 と言い、彼は転移魔法でシュッと消えて数分後に戻ってくると手に小瓶を従えてきた。


「毒です!!1日あれば死にます!!私が飲みますか?」


「えっ!?」


 流石に本当に毒を持ってくるとは想定していなかった!!こいつはバカなのかっ!?


 ジッと私を見つめ


「貴方の側で死ねるなら本望ですよ…。お世話ができなくてすみませんが、一通りこの小屋にはここ何年か暮らせる食材もあります。腐らないよう私が魔法のマジックポケットに入れてあります。


 と空中からマジックポケットを取り出して私に渡すと


「それではお元気で」

 と毒を飲もうとしたので


「まっ!待って死なないでよ!こんなとこに1人残されて!!私はどうすればいいのよ!」

 思わず体当たりして小瓶が床に落ちて中身が溢れるとジュッと音がして紫の液体が流れた。

 げっ!本物の毒!


「あ…ああ、それでは私が必要と言ってくれるのですね!?ヴィオラ様!!」

 感極まりそのまま私は美形に抱きしめられた。


 ひっ!!


 ドキドキした。だって私だって女の子だし、こんな美形に抱きしめられたりしたらだ、ダメ…。


「ああ…なんて芳しい…。ヴィオラ様…私如きが触れて申し訳ありません!罪を作ってしまいましたね。でも私は幸せです!」

 そして私の顎を持ち、


「……これ以降はご命令がない限りけして貴方に自分から触れませんから…許してくださいね?これは誓いのキスです」

 と言い残すとノアさんは赤い顔を近づけてゆっくり唇を重ねたのだ…。

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