第2話:決意

 私は本気で真剣に愛人の候補者を探しました。

 ピエールは自分が愛人とよろしくやっているので、私も自由にしていいと考えているようで、行動を制限する事はありません。

 それはピエールの家臣も同じで、私が領内のどこに行きたいと言っても、いえ、それこそ領外に出たいと言っても、王都に帰りたいと言っても、止めたりしません。

 止めるのは常に私の家臣と使用人です。

 いえ、王家と実家が私に付けている監視人達です。


「侯爵夫人、そのような所に行かれてはいけません。

 そのような真似をされては、王家も御実家も困られます」


 これが監視人達の口癖なのです。

 特に王家が派遣した教師という名目の護衛達は、眼を三角にして、真っ赤になった顔から、それこを泡を吐くような強い勢いで止めるのです。

 彼らから愛人候補を選ぶなど論外です。

 彼らが誘いに乗らない以前の問題で、絶対に誘いたくありません。

 ピエールに比べられる男などいないのは分かっていますが、それにしても魅力がなさ過ぎて、誘ったら自分が惨めになってしまいます。


 王家が派遣してきた者達に比べれば、実家から付いてきてくれた者達は遥かに優しいですが、それでも私の願いをかなえてはくれませんでした。

「王都に帰りたい、どこでもいいから領地を出ていきたい、領内でもいいから、せめてこの城から出て行かせて」私がそう願うたびに、情けなさそうに顔を伏せて「申し訳ありませんができません」と哀しそうに言うのです。

 そんな態度と口調で言われたら、私が身勝手を言っているようではありませんか。

 全てピエールが悪いのに!


 私の実家から付いてきてくれた者達は、一人を除いて女ばかりです。

 その一人も神に誓約した私の守護騎士ですから、愛人候補に選ぶ事はできません。

 そうなると愛人に選べる者がいなくなってしまいます。

 今まではそう考えていましたが、この城には私の家臣だけがいるのではなく、もっと多くの家臣がいるのです。

 そうです、圧倒的に大勢いる、ピエールの家臣です。

 彼らなら私の誘いに乗ってくれるかもしれません。


 ピエールの家臣達は、ピエールが鍛え上げた一騎当千の騎士がほとんどです。

 ピエールに比べれば見劣りしますが、普通な貴族婦人や令嬢なら、恋焦がれてもおかしくない武丈夫ばかりです。

 私が愛人に選んだとしてもおかしくない相手です。

 ですか、ここに一つ大きな問題があります。

 建前上の事だけではありますが、私がピエールの正室とされている事です。

 忠烈無比と称えられているピエールの家臣団が、正室との不義をよしとするか?


 もし断られたら、私は大恥をかいてしまいます。

 それこそ自害するしかないほどの大恥です。

 自害してしまえば、私を蔑ろにしたピエールと両親と国王と王妃に、意趣返しできるでしょうが、同時にピエールに愚かな女だと思われてしまいます。

 それだけは絶対に耐えられません!

 何か他にいい方法はないでしょうか?

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