第44話 領主様は魔法が苦手

 ああ、なんとかギリギリ間に合った。良かった。助けにきたかいがあった。これで、テスラが余裕綽々にスピネイルを圧倒していたのであれば、たぶん俺の方が半殺しにされただろう。職務怠慢とか言われて。


 それにしても凄いな。図鑑でしか見たことのないSクラスの魔物ばかりが集まっている。町のひとつやふたつ簡単に滅ぼせるんじゃないか。さすがは魔侯爵ってわけか。けど、俺の土のダミーも負けてはいない。


 魔物と同サイズの人形を土で大量につくった。さすがに、ドラゴンのように炎は吐けないが。パワーだけなら再現できてるはずだ。いや、俺が炎魔法を覚えれば、上手く組み合わせてもっとリアルなドラゴンもつくれそうだな。今度練習してみるか。


「随分と派手にやられましたね、テスラ様」


 ボロボロだ。けどまあ、これだけの魔物相手なら仕方がないだろう。っていうか、腕力だけでよく戦えるよな、この人。


「リーク……」


 感動に打ち震えているようだ。ほのかな笑みを浮かべて、俺の顔を見つめている。――と、思ったら、いきなり拳骨を食らった。


「あいだッ!?」


 俺、何か悪いことをした? 絶好のタイミングで助けたと思ったんですけど! 町に行ったらスピネイルもテスラもいないから、クランバルジュ全土に砂を散布して、ソナーみたいに感触を探って、そしたらすっげー慌ただしい地域があったから、全力で駆けつけたんですけど!


「な、何するんですか?」


「町を任せると言ったはずだ。なぜ、町から出た」


 怖い。マジ怖い。ゴゴゴゴゴとか怒りが擬音で聞こえてくる。っていうか、手負いなのに、なんでこんなに堂々とできるの?


「スピネイルの部下から聞いたんですよ。テスラ様が危ないって。ミトリも町の皆も心配してます。俺以外に、誰が助けられるって言うんですか」


「ふん。いらぬ心配だ。私が負けるわけがない」


「いや、負けそうだっ――あいだッ」


 また拳骨。親父にも殴られたことがないのに!


「――お、おのれッ! 邪魔をしおってぇえぇぇッ!」


 憤慨するスピネイル。たぶんスピネイル。バケモノの形をしているけど、たぶんそう。


「下がっていろ、リーク。巻き込まれんようにな」


「いや、せっかくなんで手伝いますよ」


「おまえのことを心配して言ってるのだぞ? これから、我が民を脅かす無礼者に捌きの鉄槌を食らわせねばならん」


 会話を飛ばしていると、スピネイルがさらに怒り狂う。


「なにを舐めたことをッ! この魔法も使えん落ちこぼれ貴族がぁあぁぁッ! 貴様が如きがッ! このスピネイルに勝てるわけがないのだ! 我は王! 闇の王! 国王陛下を陰から支えるために生を受けた、魔王なのであぁあぁぁぁぁるッ」


 荒ぶるスピネイルに、テスラは冷静に言葉を落とす。


「――スピネイル。おまえはひとつ勘違いをしている」


「は?」


「魔法が使えんと言ったが……そんなことはない。――私は、魔法が苦手なだけだ」


「なん……だと……?」


 テスラが、人差し指と中指をピッと跳ね上げる。その瞬間、周囲にいたSクラスの魔物たちが、大地へと一斉に叩きつけられ、巨大なクレーターを生み出した。俺の土人形も、完全に崩壊してしまう。せっかくつくったのに!


「ぐ、グガァ……アアァ……」


 雄叫びも上げられないほど苦しそうに呻く魔物たち。なにもない空間で、ミシミシと押しつぶされていく。スピネイルも苦しそうだった。


「グ……こ、これはいったい!」


「――重力魔法だ」


 凄まじいレベルだ。この周囲一帯に、とんでもない重力が発生している。俺もスピネイルも影響を受けている。普通の人間では立っていられないだろう。


「ほう、まだ余裕がありそうだな。どれ――」


 テスラはさらに指を動かす。さらに重力が強くなった。ドラゴンたちが泡を吹き始める。


「リーク。おまえは大丈夫か?」


「え……? ああ、平気です」


 まあまあ重いけど、これぐらいなら問題ない。


「き、貴様ッ! ぐ……これほどの魔法を隠していたとはッ! 魔法が苦手だと、この大嘘つきがッ――」


「いいや、苦手だよ。魔力の方は自信があるのだがな。調整がてんでダメなのだ。手加減ができん。範囲も調節できん。リークも巻き込んでしまっているし、そもそも私自身にも影響がある。――ここがクレルハラートじゃなくてよかったな。そうでなければ、町ごと潰していたところだ――」



 


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