デスゲームを求めて

@G_EALAZ

1話

曇天が広場を包んでいた。

ゲームエンジンがとんでもなくリアルに再現したじめじめした空気、プレイヤーたちの反応は様々だ。突然転移させられて・・・・・・・・・驚く者、何となくこれから起こること・・・・・・・・・を察していそうな者、腕を組んで余裕アピールをしている者……なんだこいつらキモッ、いやキモッ!!!何カッコつけて腕組みしてんだよテメェ~~~等ァ!!!!!!俺は腕を組んで余裕アピールをしながら嫌悪感を覚えた。


手で模様を描き、システムメニューを開く。ログアウトボタンはまだ残っていた。閉じる。5秒待つ。また開く。まだ残っている。このゲームはなかなか遅い・・な……場合によっちゃァタイミングとか無しにログアウトボタンがそもそも実装されてない、みたいなゴミのようなユーザビリティのゲームもあるから念の為にトイレを済ませておいたが……どうやら杞憂だったようだ。そんなことを考えながらリアルな・・・・肌寒さに震えつつ、再びシステムメニューを開く―――――


―――――来た。ログアウトボタンが消えている。俺は新たなデスゲーム・・・・・の幕開けに歓声を上げた。さっき腕を組んで余裕アピールをしていたゴミ共も歓声を上げる。あ、さっき驚いてた初見さん達ニュービー――――今日は結構多いな、十数人はいる――――がこっちを見てキモがっている。しまった、ゴミ共と同列視された。俺はあえて歓声を上げることをやめることでゴミ共とは違うことをアピールして名誉挽回を試みたが、ゴミ共もあえて歓声を上げることをやめることでゴミ共とは違うことをアピールして名誉挽回を試みたため無駄だった。ニュービー達は困惑し、ミドル達は「またかよ…」みたいな顔をし、ゴミ共は無駄を悟りもう一回歓声を上げた。やれやれ。


俺がやれやれしていると、なんかめっちゃ強そうなアバターに入ったGMゲームマスターがブゥンというSEと共に禍々しいエフェクトを撒き散らしながら広場の中心に出現した。このゲームは広場にプレイヤーを集めたうえでGMがわざわざ開催を告知するタイプか。こういうのは自己顕示欲の強い開発者に多い。個人的には特にアナウンスもなしに唐突にログアウトボタンが消えるタイプの方が好きだが、人には好みってものがある。曇天がより一層明度を下げ、ニュービーが不安に身を縮こまらせ、ゴミ共が期待に胸を膨らませる中、ゲームマスターの口が開かれた。


「この『ブレイドロード・オンライン』が、只今よりデスゲーム・・・・・と化したことをお知らせする」


ゴミ共がさっきにも増してわぁっと沸いた。俺も負けじとわぁっと沸く。一方、一部のニュービーは驚いている。例えば、俺の隣に立っている一人なんかはこっちに話し掛けてきた。


「え、あ、あの……デスゲームって、あの・・ですか……???」


「そう、あの・・だよ―――君は見たところ初めて・・・のようだね、不安かい?」


「え、そりゃ、ふ、不安ですけど……そもそも、なんで皆さんは、その―――歓声を?」


「ああ、それは―――」


その時、ゲームマスターが口を開き、俺の発言を遮った。


「信じられない、という方もいらっしゃるでしょう―――しかし事実なのです。例えば―――そう、そこの貴方!貴方で実演して差し上げますよ―――"死"をね」


ゲームマスターは俺を指差し、何やらコンソールの操作を始め―――


「何やってんだテメェェッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!」


―――俺の怒号にびっくりして止めた。


「何、とは?」


「とぼけてんじゃねーよクソが」


俺はキレた。ゴミ共もキレていた。心無い罵声がゲームマスターへ飛ぶ。


「無能!」「何もわかってない!」「近頃の開発者はまったく!」「お前なんかGMはGMでもGMゴミだよバカ!」「無能!」「金返せ!」


俺は穏健派だから、普段なら折角デスゲームを提供してくれるGM様にそんな口を聞いてはいけませんよ~~~~とかいって説得しただろうが、今の俺は違う。怒っているからだ。俺は言った。


「そのコンソールで俺を殺そうと・・・・・・したんだろ?」


「え、えっと」


「そう、殺そうとしたんだろ?そんでもって心拍数のデータなりVRシステムの量子波観測機能で再現した俺の死体なりを映して、このゲームでは死んだら死ぬ・・・・・・ってことを示そうとしたんだろ?」


「あー……」


「吐いちまえよ!」「楽になるぜ!」「無能!」「頭おかしいだろお前!」「消費者庁に通報するぞ!」「いや通報は不可能だろ」「なんかVRシステムに脳弄られてるしな」「無能!」「脳弄って通報禁止するの冷静に考えて犯罪では?」「利用規約に書いてあるのでセーフ」「無能!」罵声が飛ぶ。


「…………ええ、認めましょう」


GMは罵声に耐えかねたのか自分の行為を認めた。俺はより一層キレた。


「ッッッッッッハァ~~~~~~~~~~~~お前マジでさぁ、デスゲームってのを何も理解してねーよな、っつー。いや別にお前に限らねーよ、お前みたいな奴はどいつもこいつも何つーか「とりあえず人が死ねばいいんでしょ?」みたいにデスゲームを甘く見てるフシがあるよ。そういうんじゃないんだよね、そういうんじゃ………お前さぁ、「デスゲームを始めます!!!!」ってその無駄にデカいアバターで言うのはいいよ、それはいい。デスゲームだもんな、実際の所。でもそのなんだよね、なんで特に理由も無く俺を殺そうとすんの?っていう。ごく稀にお前みたいなことする奴いるけどさぁ、それ去年のデスゲームGM地雷行動ランキングでは第7位だかんな?わかる?7位。自分がデスゲーム・・・を主宰してるってことをほんとに理解してんのかお前ェ????????OPムービーを見た途端乱数で死ぬ場合があるのがゲーム・・・ゥゥゥ????乱数で死ぬことのどこにゲーム性があるんだ、っつー話なんだよなァ~~~~~!!!!いやほんとお前、ゲームってのはあくまでも人が遊ぶためにあるんだってことをそもそも理解してんの?????あんまこういう老害っぽい事は言いたくないんだけど、最近のデスゲーム開発者には信念・・っつーもんを理解してない奴が増えたよなァ、マジで。俺は悲しいよ、たった一つの乱数で人を殺すなよ、という。もう殺すならせめて全員殺してくれよほんと……例えば先週発売された『ドラゴニック・パンデモル・オンライン』っつーゲームさぁ、ちょうどこのゲームみたく広場に集めてGMが「デスゲーム開始します!!!!!!」って言うんだけど、このゲームと違う点として、その後に「このLv999999アースグランドマテライズゴーレムを前に絶望してもらいましょう」っつって召喚魔法使ってポーン、みたいな感じでゴーレム出してくんのよ。俺はビビったね、は?っていう。このゴーレムどう考えても倒せる設計してないじゃん?っていう。もう実質的に大量殺戮なんだからわざわざゲームとして公開する必要なくね?っていう。まぁゴミの誰かが安置を発見したから1日くらいそこでゴロゴロしてたらGMが寝落ちしたからその隙にアバターを操ってコンソールからゲーム終わらせたんだけどさぁ。まぁとにかく、Lv999999アースグランドマテライズゴーレムはあんまりいい試みだったとは言えないよ。でもさっきお前がやろうとしてたことよりは確実にマシなんだよね。そういう事よ、そういう事。みんなで一緒に死ぬ方が、一人で死ぬよりもまだ平等・・だもん。なぁ聞いてる???オイお前ェ。まだ話は続くんだかんな!!!!!!」


俺がここまで言ったところでちょっと頭が冷えたので休憩ついでに辺りを見回してみると、ゴミ共全員が思い思いの罵声をGMに投げつけていた。


「そもそもの話、演出に工夫がなさすぎない?」「マジで完成度が低すぎる」「アーリーアクセスタグ付けないのは控えめに言って詐欺だろ」「お前ほんとにデスゲームやったことあんの?実はエアプじゃねーのかよオイ」「詐欺師!!!!」「クソゲー」「オラァこれでも食らえェ!!」「いやGMに石投げても意味ないだろ……ん?」「あれ、ダメージ入ってるじゃん」「まさかこれダメージ無効付けてないの?クオリティ低すぎて笑えて来たわ」「お前HP99999しかないのかよオイオイオイオイオイオイ~~~~~~~ストーンコレクターなるわ」「っつーかそのアバターどっかで見たことあるんだけどひょっとしてアセット?」「マジか、このゲームで唯一褒められるところだと思ったのに」「地雷だったわ……早く解放されてレビュー書きてぇ~~~~」「これ宙返りしたときに若干右腕がずれてる感覚があるんだけど壁抜けできる?」「無能!」


本格的に混沌としてきたな……俺はなんかめんどくさくなってきたので罵声を浴びせるのをやめてWebブラウザを開いてネットサーフィンを始めた。というかデスゲーム中でもブラウザ開けるの地味に欠陥では?ウケる。俺がウケていると、GMが40分ぶりに口を開いた。


「……皆さんのご意見、真摯に受け止めさせて頂きます」


俺とゴミ共は頷いた。分かればいいんだ。


「ですので、今回のリリースは……その、中止ということで、宜しいでしょうか」


全然いいとも!!!!!俺とゴミ共は笑顔で受け入れた。お前のゲームが改めてストアに上がる日を、待ってるぜ。そんな爽やかメンバーズを、寝っ転がっておもしろサイトを見ているミドルたちがキモがり、座って虚ろな目をしているニュービー達もキモがった。しかし俺は気にしなかった。GMの新たな門出を心の底から祝福していたからだ。

いつしか曇天は消え、夕焼けが空を染めていた。それを背景に、GMは付け加えた。


「あぁあとさっき私が殺そうとしてしまった方……申し訳ありません、お言葉、大変参考になりました。またお話を伺いたいのですが、フレンドになっていただいてもよろしいでしょうか……???」


いいぜ。俺は快諾した。GMは俺にフレコの書かれたtxtデータを渡すとコンソールに何やら入力し、30秒足らずで世界はポリゴンに分解され消滅していった。なぜか空に「GAME CLEAR!!」という文字表示が出現した。若干影を落とすそれは、夕焼けの空と非常にマッチしていた。

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