冒険者ギルド 登録
──数日後
仮称:細胞スライムをたくさんつくり、実験して様々にいじくり倒した2人の魔術師は「サンプルが足りない」問題に直面していた。
興味深い実験対象、細胞スライムの生産量はアルバートの魔力量に依存する。
ゆえ、アルバートは本格的な魔力量のアップに努めなくてはいけなくなっていた。
魔力の上昇。
それは基本的にはレベルアップを行うことで得られる。
いくつか特殊な手段はあるが、その多くは魔術のなかでも秘術に類する分野の魔術であることが多い。
あいにくとアダン家の怪物使役術は、魔術師本人を神秘のチカラで強化したり、エンチャントを施したり、バフをかけたりする事を得意とはしていない。
そういうわけで、2人はギルドへ参上するべく朝早くからアダン屋敷を飛び出して来ていた。
やって来たのは近郊のジャヴォーダンだ。
ジャヴォーダン市民たちの視線をこれでもか、と集めながら少年少女は、冒険者ギルド前の通りを歩いていく。
「アルバート。ずいぶんと目立っているようですね」
「さして気になどなりません。僕は平気ですよ」
「……も、もちろん、わたしも気になりませんよ」
「? そうですか」
アルバートとアイリスは和やかな空気感をかもしだしつつ、人混みがわけていく道の先を見すえる。
2人はそのまま、騎乗生物たちを手前にとめて、両開き扉を押し開いて、冒険者ギルドのなかへはいった。
窓から外をのぞいていた冒険者たちが「な、なんだアレ…っ」「まさか、スーパーの先、ハイパーファング……?」と口々に懐疑的な声あげている。
アルバートは特に気にしない。
彼は誇り高き貴族だ。
粗野な冒険者という者が好きではないのだ。
ゆえ彼は顔をしかめつつ、子供だからとどうからかってやろうか、と舐めた視線をむけてくる荒くれ者をさけてカウンターまで行く。
「おいおい、ギルドはガキの来るところじゃねーぞ、っと」
チンピラ風の男が道をふさぐように立ちはだかってきた。
強化魔術をつかって腕の密封された高密度の筋肉に活動命令をだす。
「愚かだな。救いようがない」
「あ? クソガキがあんまりなめた口を聞くなよ、っと」
粗野な冒険者は、昼食に食べていたシチューの木皿を手に持ち、アルバートにかけようと傾けた。
素早く手首を弾いて、木皿の傾きを修正するように受け取った。
瞠目する冒険者。
目を白黒させるその男へ、アルバートはひどく冷酷な視線をむける。
「舐めた事をしてくれるなよ」
アルバートはひとつの家を治める者として堂々たる声でつげ、足払いして冒険者を床にころがした。
彼はバランスよく保っていたシチューの木皿を、倒れた冒険者の顔に叩きつけ、一発拳を直上から叩きこんだ。
粗野な冒険者はビチャって白液と、出血で汚れた顔をさらして撃沈した。
「アイリス様、失礼いたしました」
「構いませんよ。礼節を欠いたものに教育を施すのは当然のことです」
アイリスはニコッと微笑む。
その後、ギルド内の注目をあつめながらアルバートは、冒険者ライセンスの登録をすませていった。
「そこは書きませんよ、アルバート」
「ここは?
「そこは書きます」
「こっちはどうですか?」
「そこは……ど、どうだったでしょうか……ええと…」
カウンターの向こう側の皆に温かく見守れながら、アイリスは率先してアルバートの手続きを指導してあげた。
途中、よくわかんなくなると、すこし涙ぐんだ目を受付嬢にむけ、苦笑いするお姉さんに助けてもらいながら──。
「これでよし」
登録が完了した頃。
受付の奥からギルドマスターが出てきて「申し訳ございません……っ、アルバート様!」と小声で謝ってきた。
彼の落ち度ではないので、アルバートは鷹揚に対応したが、それでもなぜか媚びへつらってくる。
アダン家の没落は聞き及んでいるだろうに。……いや、あるいは、この先の将来性をみこんで俺に恩を売ろうとしてるのか?
アルバートは頭を働かせる。
アーケストレスという国のなかでは、一般論としてアダンは、終わった家、として認識されてる。
しかし、アダン屋敷から地理的に近く、情報のはやいジャヴォーダンでは逆の見方をする者たちがチラホラいる。
アルバートはギルド長の瞳の奥にかがやく、計算高い思考を読みきった。
彼が再起を計画しているアダンと厚意にしたがっていることを看破したのだ。
ならば話ははやい。
こういう男は使える。
アルバートは行きかけの駄賃として、ギルド長に目をかけてやることにした。
「そうか。ならば今後モンスターでギルドに乗入れして注目される手間をはぶきたい」
「はは、それはもちろん。失礼な思いをさせたことは我がギルドの落ち度です!」
「であるならば、俺のモンスターをギルドに駐留させるられるよう、冒険者ギルドの所有する馬小屋を一つ買わせてもらおうか」
アルバートは小声でやりとりしていく。
結果、ギルド長に金貨を数枚握らせるだけで、ギルドの馬小屋を買えた。
汚い賄賂を渡したことに後悔はない。
むしろ、アイリスは見直してくれただろうか。
アルバートはそう思いながら、謀略の魔女であるアイリスへのアピール成功を確信していた。
「アルバート……まさか、すでにギルドマスターを抱え込んでいたなんて……っ!」
「…………? ええ、まあ」
おや?
ただの偶然みたいな取引だったのに、もしかして、俺が手を回してたと勘違いしてらっしゃるのか?
アルバートは自分の至らなさのせいで、嘘をつくことを悔いいる。
「流石は10手先を読むと言われる天才ですね」
「あはは……10手……」
「凄いです。アルバートは、本物の魔術師なのですね」
「まあ…これくらいは数日前から…プランに…入れてましたよ。ほら、アイリス様もよくやるでしょう?」
「いや、全然………よくやりますよ!」
「ですよね」
ふたりはお互いを知略の主としてたたえながら、10歳の少年少女がするには不敵すぎる笑いを交わした。
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