第110話 神になる

「シゲルの子供はどこだ」

「こちらにはいません」


 聖域をデュラ国の騎士が我が物顔に歩く。

 俺は懇願力で姿を隠し情報収集に努めた。

 ピピデの民で中年の女が引きずり出される。


「子供はどこだ、言え」

「大精霊様が連れて行きました」

「大精霊はどこだ?」


 尋問する騎士を別の騎士が止めた。


「聞かなくても分かるさ。精霊の樹だろう」

「ふん、精霊の樹など倒してしまえ」


 こいつらなんて事を。

 許せない。


 俺は精霊の樹へ急いだ。

 精霊の樹の前にはデュラ国の国王のマーティンがいた。


「来たか。ピピデ王よ。前は逃がしたが、止めを刺してくれるわ」


 来たのがばれている。

 仕方ない。

 俺は姿を現した。


 こいつの力は受け流しの力。

 受け流せない攻撃ならいけるはずだ。


「懇願力よ空気を抜け」

「ふっ、柳風魔衣」


 空気は抜けたが、風の向きが変わりマーティンに空気を運んだ。

 受け流しで風を呼び込むか。


 そして気がかりなのは、もう一つの能力の循環術か。

 これを封じるのはどうしたら。

 この世界に来て今までの事が頭に浮かんだ。

 妻達の思い出や野菜作り。

 そういえば肥料やりすぎで失敗した事もあったよな。

 野菜の肥料やりすぎると、作物に奇形が出る。


 そうかやりすぎは駄目なんだ。

 勝つ方策は循環を速めれば良い。


「懇願力よ。マーティンの循環を早めろ」

「ぐはっ」


 マーティンは血を吐いた。


「柳風魔衣。この得体のしれない力を受け流せ」


 駄目か。

 対策されてしまった。

 受け流せない力。

 あるぞ。

 受け流せない力。

 人間なら時間の変化とは無縁でいられないはずだ。

 食べて消化するのも時間が流れているからだ。


「懇願力よ。マーティンの時間を遡行させろ」


 マーティンが若返っていく。

 そして赤ん坊になった。

 殺すか。

 みんなごめん、赤ん坊は殺せない。


「国王様がやられたぞ。撤退だ。撤退」


 デュラ国の兵士が聖域から逃げて行く。


「それで、良いんですの。赤ちゃんを殺していたら離婚ですの」

「デュラ国の国王を今度は平和主義に育てよう」


 戦争は終わった。

 俺は5国の大地を浄化する事ができた。

 残るはデュラ国の南の不浄な者が多数いる荒野だ。

 戦いはもうたくさんだ。


 懇願力の全てを使って負の魔力を全て消し去ってしまおう。


「懇願力よ。世界の法則を書き換え、負の魔力を消し去れ」

「苦しいですの。息が出来ないですの」


「世界の法則に手をだしたら不味いのか。俺はなんて事を」


「大変な事になっとるようじゃな。負の魔力よ産まれろ」


 爺さんが俺の前に立っていた。

 エーヴリンが正常に戻ったようだ。

 穏やかな息をして眠っている。


「誰かは知らないがありがとう。俺が失敗したようだ」

「ふむ、神が自然発生したのか。この世界の神は何をしているのじゃ。世界の記憶を見るとしようかの」


 爺さんはしばらく目をつぶっていた。


「ファルティナ、出て来るのじゃ」

「お呼びですか。創造神様」


 この爺さんは創造神だったのか。


「罪を犯したのう」

「すいません」

「分かっておるのか。さぼった罪、神器を与えた罪、異世界召喚をさせた罪、神の発生を報告しなかった罪。重罪じゃぞ」


「なにとぞご容赦ください」

「俺からも減刑をお願いします」

「優しい男じゃのう。しかし、これを聞いてもそう言えるか。デュラ国の国王をそそのかしたのはこやつじゃ。その罪も追加してこうかのう」

「きっちり罪を償わせてやって下さい」

「お前が、余計な事をしなければ」


 女神から殺気のような感じられた。


「懇願力よ、守れ」

「八つ裂きにしろ。あれっ死なない。ぎゃー」


 女神はバラバラになった。

 俺がやったのではない。

 俺は守っただけだ。

 たぶん創造神様が何かしたのだろう。


「あれほど、神同士で争うなと言っておいたのに、自業自得じゃ。ほれっ、罰を受けてもらわんとな」


 バラバラになった女神は元通りに繋がった。

 だが、おかしい。

 生気が感じられない。


「何をしたんですか」

「女神には不浄な者になって、負の魔力を管理してもらう。女神よ、罰は神力没収の上、魔力だけで荒野の不浄を全て狩るのじゃ。汚物にまみれて生きるが良い」

「うー、いやぁ。負の魔力と戯れるのは嫌ぁ。絶対、嫌ぁ。どぶさらいみたいな仕事を延々とするのは嫌ぁ」


 不浄な者となっても意識はあるみたいだ。


「行くのじゃ。ほれ」


 女神が消えた。


「ちと、負の魔力について説明してやろう。負の魔力はいわば生ごみじゃ。これを浄化すると世界にとって肥料になる。そして清浄な魔力を生むのじゃ」

「俺はそのサイクルを壊してしまったんですね」

「教育を受けてない神なら仕方あるまい」


「俺はこれからどうしたら」

「この世界を管理する神が居なくなった事だしのう。この世界の神をやってみんか」

「神の仕事って何をするんですか」


「人間に神託を出して警告を与える事じゃな。神力の行使はよっぽどの事がないと許されておらん。神力はお主が懇願力と呼んでいるあれじゃ」

「じゃあ、懇願力を使わずに暮らせば良いんですね」

「そうじゃな」


 畑を耕して暮らす日々がこれからも送れそうだ。

 そうだ子供を連れて里帰りしたいな。


「いいじゃろ。特別に許す」


 心を読まれてしまった。

 里帰りできるんだな。

 これで全て終わったような気がする。


「ではな。何かあれば報告するのじゃ」

「はい、創造神様」


 とりあえずピピデの王はもう辞めよう。

 元々王の器じゃなかった。

 神様もちょっと違うけど。

 管理する神様ならゲームマスターみたいな物だろう。

 なんとかなるさ。

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