身支度を整え、18番にやってきた仄は地上に出てすぐ、瞳を閉じてその場に立ちすくんだ。

 たった3日ほど地上に出てなかっただけだと思っていたが、沈みかけの夕日の明るさは必要以上に瞳の中に鈍痛を巻き起こしてくる。

 痛みに顔をしかめていると、右肩を軽く叩かれ、薄めを開けてみてみれば、麗鈴が随分とグラス部分の大きな、一昔前に流行ったようなデザインのサングラスを差し出していた。

「どうぞ」

 見れば麗鈴も、少し小洒落た小さなグラスだがそのフレームに装飾がついて落ち着いた雰囲気を出すサングラスをかけている。

「ありがとうございます」

「私のお古ですがないよりはましでしょう」

「嫌がらせでないなら嬉しいですが、そうでもなさそうなので素直に喜べないですね」

「ククク、貴女も言うようになりましたね。ともあれ、我々はあまり地上に用事はないし、出ることは少ない」

「出られないの間違いでは?」

「まぁ、そうともいいます。上がってくる場合も建物内のことが多いですしね。本の為とは言え、地下での生活はお世辞にも明るいとはいえない。故に出なければならない時には、それ相応の準備をしてから出ないと困ることになります。気に入ったサングラスがないというのであれば、帽子なり髪の毛なりで隠さないと目が使い物にならなくなりますよ」

「そういうことは出る前に教えてほしかったです」

「何事も経験です」

「はぁ、こんなときまで体験学習はいりません。……あ! だから、ウォールさんはどちらが後頭部かわからないほどの髪の毛になっているんですか?」

「それも有るでしょう。あれはお洒落よりも効率を取りますからね。サングラスの持ち歩き、更には付け外しが面倒なのでしょう。それと、髪の毛を切りに出るのが面倒だというのもあるでしょうね。2つを合わせて効率がいいのは伸ばしっぱなしだと判断した、というところですかね」

「なるほど。真似したくはありませんが、たしかに効率的では有るような気がします」

「私はあれの考え方は非常に好きですね。なかなかに変人で面白い」

 満面の笑みを浮かべる麗鈴に苦笑いを浮かべた仄は、サングラスをかけて先を行く麗鈴を追いかける。

 食堂や飲食出来る場所がある界隈を横目に、仄の地上での部屋がある場所も抜けて先へ進んでいく麗鈴。

 地上の地形は各施設のある場所を中心に覚えていた仄。

 地図上では人工の森の奥に施設など無く、覚える必要はないだろうとあまり注意してみていない。故にこの先にある物など検討もつかない。当然のことながらこんな所に食べる場所があるのかと不安になってきていた。

「あ、あの。こんな所に食事ができるような場所、あるんですか?」

「えぇ、ありますよ」

 こちらを振り向くこと無く麗鈴はそう言う。

 仄は不安ながらも、地表の地理をあまり理解していない自分がここから引き返して帰れる補償はないと渋々麗鈴についていった。

 そうして暫く麗鈴について歩き続けると、突然目の前に居たはずの麗鈴が消え、仄は驚いて辺りを見渡す。麗鈴から離れていたのほんの数歩であり、目を離したのも僅かな間。

「一体何処に? というか、私一人じゃ帰れないしどうすれば」

 困って焦っていると、仄の少し先にある空間から突如麗鈴が現れため息をつく。

「なるべく早くセキュリティを起動させたいのでさっさと入ってくれませんか?」

「は、入る?」

 辺りを見回したがドアらしきものは見当たらず、入れと言われている入り口が何処なのかもわからない。

きょろきょろと見回すばかりの仄の手を握って、呆れながら麗鈴が歩いて行けば、何も無かったはずの森の中に小さな四角い建物が見えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る