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ここトラスパレンツァ図書館は他の国々にある図書館とは少し違っていた。貸し出し可能である書物、紙媒体であれデジタル媒体であれ、返却期間というものは無く、唯一あるのは消滅回収処理期間。紙媒体の本は専用のゴミ箱に投函する、デジタル媒体は期間後そのデータは自然に消滅する。貸出期限を過ぎてもこの世界に本が存在してれば、図書館員が抹消に向かうのだ。
「では、なぜそのようになるか考えたことはあるか?」
「なぜって、情報の流出を防ぐためじゃないんですか? せっかく集めて翻訳までしたのに簡単に借りられてそのままになればまずいとか」
「情報などというものはどんなに防ごうと思っても出るときは漏れ出るものだ。それに例え借りたものがなくなったとしても、自分で勝手にコピーを取っていれば本体が消滅したところで情報というのは手元に残る。本来酷く重要な情報源である本は貸出スペースにはあるはずもない。貸し出し可能な書物は流れたところで取るに足らない情報しかないものばかりだ」
「それは、そうですが……」
仄がこの話にいったい何の意味があるのだろうと首をかしげたとき、ちょうど先ほどウォールにつれてきてもらった広い空間にたどり着いた。
「ふむ、良いタイミングだ。では職場に案内しよう」
質問の答えも話の重要な部分は何一つ告げることなく勝手に歩き始める千珠咲を仄は慌てて追いかける。
広く大きな円形の部屋に無数に存在する入口の一つに足を踏み入れれば、そこは何処までが天井で何処まで奥行きがあるのか分からない本の山。迫りくる本の間、人一人やっと通れるほどの幅の通路が存在する。
「これ、全部本ですか?」
「当然だろ。ここは図書館だぞ」
「それはそうですが、こんなにあるうえに上も横も前も、先が見えないと流石に確認したくなるじゃないですか」
「ここはまだ職員を配置していない、作業されていない区画だからな。本を運んできた奴以外誰もここには足を踏み入れていない。当然整理整頓している奴なんて居ない。本だけがここにあるんだ」
圧倒される仄に、足元ある本を蹴飛ばさないようにと注意しろと言いさらに奥へと進んでいく千珠咲。
気をつけろというならもっとちゃんと整理しておけばいいのにと仄は文句を頭の中に浮かばせつつ、慎重に気をつけながら進んでいく。
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