【悲報】異世界を知らない勇者さん、うっかり何度も異世界を滅ぼしてしまう

ウロノロムロ

【悲報】新米女神さん、ブラックな職場に配属される

新たに転生の女神に選ばれた

アリエーネは困惑していた。


希望を出していた部署とは全く違う

転生の間に配属が決まったからだ。


なんでも聞くところによると、

前任者である転移の女神は

突然失踪して行方不明になっているらしい。


  ――女神が行方不明なんて

  有り得るのかしら……


前代未聞の出来事が起こった

不穏な職場に動揺が隠せない。


  ――きっと、

  職場があまりにブラック過ぎて、嫌気が差して

  自ら行方をくらましたに違いないわ


神々であるにも関わらず

何故か人事部という名称の、そこの上司に

移動を取り消し欲しいと

泣いて頼んだアリエーネ。


だが、一度決まった

人事(?)移動が覆される筈もなく、

死んだ人間達を転生させるという

アリエーネの新しいお仕事がはじまる。



「思っていたのと違う……。」


アリエーネの初仕事、

記念すべき最初の転生者第一号は

顔に大きな傷のある強面こわもていかつい男、

どう見ても堅気かたぎの人間とは思えない。


「ねえちゃん、

今何か言ったか?」


ドスの効いた低い声にビビる女神。


「い、いえ……」


  ――ちょ、ちょっと、

  どうしてくれるのよっ、これ

  絶対におっかない人でしょ、この人


  転生の間って

  異世界に転生したがっている

  高校生とか大学生ぐらいの

  若い人達が来るところじゃあないの?


  前任者が失踪って、

  まさかこういうおっかない人達に

  何かされたんじゃないでしょうね?


  まさか、あたし

  拉致とか、監禁とかされちゃうの?

  女神なのに?


ちょっとおっかなびっくり

びくびくおどおどしながら、

上から回って来た書類、

前世の履歴書と指示書に目を通す。


  ――ほらぁ、この人やっぱり

  前世ヤクザじゃないのよ


  しかもなんで勇者に転生なのよ


  ヤクザが転生して異世界で勇者になるとか

  うちの人事部って馬鹿なの?

  頭おかしいの?


「早くしろや、ねえちゃん

しばくぞ、ボケェ」


「は、はいーっ!」


初っ端からおっかない人に脅されて

涙目の女神アリエーネ。


  ――私本当にここでやっていけるのかしら



それからもアリエーネが働く転生の間には

珍客ばかりが訪れて来た。


ヤンキーやチンピラ、超高齢者に幼女などなど

ここには変わった人達しかやって来ない。


  ――うん、そっか

  あれなんだねぇ


  ここの転生の間は

  特殊な人専用ってことだったんだね


  それで前任者も病んで

  失踪しちゃったのかなー

  なるほどねー


さらには、みんなどう見ても

相応しくなさそうなのに

揃いも揃って勇者に転生という指示。


  ――あたし、勇者のこと

  勘違いしてたのかなあ?


  勇者って変わり者しかなれないとか

  そんな特殊な条件でもあるのかしら?


無数に同時並行して存在する異世界、

それを管理している神々。


だがあまりに異世界の数が多くなり過ぎて、

今は深刻な勇者不足が起きている。


なので、今は

人間なら誰でもいいというレベルで

勇者が次々と誕生する緊急事態。


その内、ここに

猫や犬までもがやって来るかもしれない。


まだ下っ端女神のアリエーネは

そんな内部事情を

知らされていないだけではあった。



それでもアリエーネは

転生させ様々な異世界に送り出した人々を

陰ながら見守ったり、相談に乗ったりと、

与えられた仕事には真面目に取り組んでいた。


「ねえちゃん、

これまですまんかったのう


ワシが勇者としてここまでやれてるのも

ねえちゃんのお陰や」


  ――やだぁ

  おっかない人だと思ってたけど

  この人本当は

  めちゃめちゃいい人じゃないですかぁ


そもそも人を外見で判断するのは

女神としてどうなのか。


「すべては女神様のお陰じゃて、ほほほ」

老人のまま異世界に転生して行った高齢者。


「おねえちゃん、いつもありがとう」

幼女のまま異世界転生した女の子。


「あんた最高だぜっ!」

調子のいいヤンキー。


「どうだい、あんた俺の女にならねえか?」

ちょっと優しくされて

勘違いしてしまったチンピラ。


こんな調子で、

転生させて異世界に送り出した人間達からは、

面倒見のいい女神として

いつしか感謝されるようになっていた。


  ――ちょ、ちょっと待って、

  この仕事って案外いいんじゃないの?


  ちゃんと人の役に立ってて

  やり甲斐もあるし

  女神としての存在価値があるって

  必要とされてるって実感出来るわ


ブラックだと思っていた職場が

思いの他いい仕事で、気を良くしたアリエーネ。


この先、そう思ったことを

激しく後悔することになるのだが……。



そんな満更でもない日々を送っていた

アリエーネの前に現れる一人の少年。


大人みたいな体格をしているが、

あどけない顔立ちからして

まだ高校生ぐらいだと思われる。


  ――キタ、キタ、キタ

  これよ、こういう普通っぽい

  若者が来るのを待ってたのよ


  ついている、ついているわ


  ようやく本来あるべき

  転移の女神らしくなって来たわ


むしろこの少年こそが実は

最凶最悪の勇者であることを

アリエーネはまだ知らなかった。





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