【警備開始その3】

「はぁぁぁぁぁ……」

「だ、大丈夫ですか? ヴィットさん」

「……全然」


ショックから立ち直れん。

一応警戒はしているが全然身が入らない。


まだあの場にいて歌手アイドルチームの歌を遠くからでも聞いて居たかったが、仕事もあり人もさらに増えた所為で居続けるのが難しくなった。


それで渋々諦めて移動したが、まだ立ち去った方から歌声が聞こえてくるから心が染みる。マジックアイテムのマイクを使っているから、離れててもこの広場であれば音がここまで聞こえてくる。


───! ───!


……あ、今の知ってる曲だ…………グスンっ、もっと近くで聞きたかった。


「凄い落ち込みぶりね、見てるとなんか闘争心が萎えそうになるんだけど」

「それだけヴィットさんが無害な人だって、ミオさんが理解し始めている証拠ですよ。せっかく一緒のチームになったんですから、ちゃんと話して見てもいいんじゃないですか?」


現在は俺たち2チームに分かれて移動している。

もともと全員で一同に見回るのは効率が悪いという意見があったので、前から決まっていたことだったが、


「それだけは絶対イヤ。組むのはとりあえず我慢するけど、馴れ合うつもりはないから」

「はぁ、そうですか」


その分かれて俺と一緒になったメンバーの1人がミオだったのが驚きだった。

リアナちゃんから話を勧められるが、きっぱり拒否している辺りを見ると別にこっちに対する態度も全然変わっていない。


最初はカイン不在ということもあって、分けずに全員で見回りをするか考えたそうだが、急遽俺が加わることになり人数的にも分けてみようと思ったらしい。


しかし、その組み合わせにはいささか悩むものがあった。


簡単にいうなら俺をどこに加えるかだ。

まず男性嫌いが強いミオやルリたちの3人というのは論外であり、さらに2人だけにするものトラブルに対する危険リスクが高いと考えて、2人を分けるかあるいは副リーダーマリアさんを加えた3人チームにするか検討された。……だが、その場合2人を抑えるためにマリアさんが大変苦労するのは明らかだったので、この案は最後の選択だった。


他にも俺とマリアさんの2人チームにして残りを3人で見回りをさせるかという意見もあったが、この場合もあまり強く言えないリアナちゃんでは暴走した2人を抑えれないだろうと外された。

同時にこの2人のいづれかと組ませて見回りをするものなしになった。

どっちにしても強く言いにくいリアナちゃんでは片方だけでも重荷すぎる。本人は頑張ると言っていたが、まだ加わったばかりの彼女には難しいだろうと早々に却下された。


一応俺が1人で移動するというのも考えたんだが、それもミオが信用できないと反発。話に参加だけしていたカインも可能なら誰か連れて見てくれないかとお願いされてなしになってしまった。

個人的には単独行動の方が楽だったんだが、どうやらその手は使えないようだ。


なので残った方法は限られた。


俺がマリアさんとリアナちゃん以外の2人のうちのどちらと組むか、もしくはマリアさん以外でリアナちゃんを加えて、残った2人のうちどちらを選ぶかだった。


で、さっき話したように俺はリアナちゃんとミオと組んでマリアさんたちとは逆方向の区間を見ている。


「それでも意外には思うがな。あれだけ嫌がってたのに組み分ける際に自分から提案するなんてさ」


いつまでも歌声に心を奪われてもしょうがないので、リアナちゃんとミオの会話に乗ることにする。

提案された際、闇討ちでも狙っているのかと思ったが、どうやら別の理由があるようだ。


「あたしだって嫌よ、けどそうしないとルリがこっちに来てたでしょ? ……それはさすがに止めないとマズイから」

「マズイ?」


彼女以上に男嫌いな仲間のルリを思って変わったことはなんとなく理解していたが、そのなんともいえない困ったような表情を見ると理由はそれだけではないようだ。


「あの子はあたし以上にカイン以外の男を避けてるの」


知っている。出会った時からそんな節があった。

能力で見てたけど、凄い拒絶ぶりだった


「けどそれは嫌いだからって理由だけじゃない」


なに?


「あの子はあたし以上に容赦ないの───男に対しての暴力が」

「待って、なんだそれは」


口挟むと刺激してしまうかもしれないと黙って聞いていたが、思わぬミオの発言に口が開いてしまった。


だが、これは仕方ないと分かってほしい。

暴力がって……まさか、


「昔色々あって男に対して警戒心が異常なほど強くて、その所為でナンパ男とかを追い出す時に魔法を使うんだけど……それが」


過剰だと?

聞こうとはせず目で尋ねるとコクリと頷かれてしまった。


目と目で通じ合って関係が良好になったと普通なら思いたいところだが、今回に限っていうならそれはないと切り捨て通じ合ったことに悔いそうにもなった。


だから、なんでカインの周りの女性って毎回こんな危ないのしかいないのさ!

何度か面子が変わったことがあったが、その度に面倒な女がいるぞ!


もう引き受けたことに嘆くしかない。もしくは嘆くのも忘れるか。


くたびれたようなため息をついて話を終えると、俺とミオの話を聞いて苦笑いしていたリアナちゃんと共に見回りを続けることにした。





「ふぅにゃ〜〜! やっと休憩だにゃぁーー!」

「ちょっとだらしないわよリリィ!」


とある歌手兼冒険者チームの休憩中の時である。

会場である舞台上の裏に用意していたテント内で彼女たちは休憩している。


もちろんそのテントもただのテントではなく、中は魔法で広くして飲み物や食べ物、ソファーやベットなどが設置してあるマジックアイテムのテントだ。


当然機能はそれだけではなく、外からは中は見えず音も漏れない。

見張りの憲兵が入り口付近で見張っているが、覗くことも聞くことも当然できない。(全員女性であるが)


「ぶーーいいでしょう、別に誰も見てないんだから」


そう言ってリリィと呼ばれる女の子は上着を脱ぎ始める。


「よ、い……しょっ、と!」


本来は戦闘服である動き易い軽装型の甲冑の帽子を取って、心臓を守る胸元部分覆うようにできた上の鎧を剥ぎ取った。


「はぁ〜〜いくら軽装でもやっぱり重いぃ」


堂々した様子で羞恥心がないのか、それともメンバー以外がいないからか上は下着だけでソファーに寝転がり用意してある果物ジュースに手を伸ばした。


「ふぅ〜〜ごくらくっ!」


見た目はまだ幼く10〜3ほどにしか見えず、露出した胸元も乏しいと言えるレベル。

背丈はほどほどにあるので幼女とは言えないが、だらしのない緩んだ顔も童顔で子供に近いスタイルであった。


「はぁーー、まったくもぉ」


そしてそんな彼女の残念な姿も見飽きている仲間の1人が諦めたように嘆息する。

言ったところで直るとは思っていないが、自分たちの拠点ではない提供された場所でそうされるのはやはり相手に悪いので直してほしかったのだ。


「そのぐらいにしなさいメディ。この子のことは私が責任を取るから」

「うっ、リーダー」

「あ、ルー姉っ!」


とそこへ遅れて休憩用のテントに入ってきた女性の声に全員が振り向く。

ソファーでだらしなく寝転がっていたリリィもバッと猫のように俊敏に起き上がると、その女性に向かって一直線に飛び移った。


「!?」


急な接近に驚いた顔する女性であるが、それがリリィと呼ばれる女の子だと分かると両手を伸ばして抱擁するように受け止め───


「にゃ!」

「っ──」


───切れず、予想よりも高く飛んだことで勢いが強く、リリィのお腹の部分で彼女の顔に当たって口を塞がり、呼吸がしづらくなってしまった。


「「「……」」」


その一連の流れをポカーンとした顔で見ていた面々だが、一番最初に正気に戻ったメディが慌てたように声を出してリリィを彼女から引き剥がした。


「リーダーに何しているの!? ってリーダーしっかり!」

「ぅ、凄いダイブねリリィ」

「えへへ!」


一時的に呼吸がしづらく引き剥がされた際は苦しそうにしていたが、すぐに微笑を浮かべて後ろメディと呼ばれる女性に猫掴みされているリリィの頭を撫でる。


そして撫でられて嬉しそうに笑うリリィの姿に皆、微笑ましそうに眺めていた。


「もうぉ、すぐそうやって甘やかして……」


ただ1人、疲れたように息をつくメディを除いては。


これがAランクチーム【ヴァルキリー】の日常である。

楽しそうに歌やダンスを披露して観客を沸かせて盛り上がり、プライベートの時間ではこうして微笑ましくも楽しそうにしていた。


だが、そんな彼女たちにはもう一つの日常も存在する。

そしてそれは軽装にも見える甲冑姿も似合う、チーム名である【ヴァルキリー】の通り戦神のように気高く凛々しい姿を。

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