12. 洋蘭色のepilogue
12. 洋蘭色のepilogue
蘭のアタッシェケースに残っていたお金で、お墓を買った。それでも残ったお金は、“木漏れ日の里”に寄付をした。施設長は植物の蘭を育て、施設に飾ることを決めたらしかった。施設長から聞いた話によると、守衛さんは1週間くらいずっと泣いていたようだった。子ども達も突然のことに頭が追いつかなくて、未だに「らんねえはどこ?」と尋ねる子もいるらしかった。それを聞いて、僕の胸は張り裂けそうだった。それだけ蘭は愛されていて、必要とされていて、大切にされていた…………彼らからは。
月命日には必ず墓を訪れた。雨が降っても、雪が降っても。高校を卒業して、無事に大学生になってからも、必ず。
そして僕はもう、24歳になった。大学院をこの前卒業して、研究施設で働き始めたばかりだ。研究テーマは学部の卒業論文の頃から一貫して、ガン治療薬の開発について。父が開発したのは主に高齢者がかかりやすいガン向けだった。僕は女性患者の多いガンにも注目して、研究を続けている。女性にもこだわるのは、多分今もすぐ近くに蘭を感じているからだ。理系は本当に男ばかりな上に忙しく、恋愛のれの字もなかった。多分これからは蘭以外の人を愛して、家庭を持つと思う。でも彼女への想いに変わりはないし、未来の奥さんを彼女と同じくらいに愛せる人間になりたい。
今日も僕は、蘭の墓前に手を合わせる。春らしい、柔らかく暖かい風が吹く。木々や花々が優しく揺れる。
それはまるで、彼女の髪がなびいているようで。今にもあの笑顔が見られそうで。響也、って呼ぶ声が聞こえてきそうで。彼女の感触は、未だに僕の目や耳や手に強く残っている。目を閉じれば、まぶたの裏に淡い藍色が見える。
目を開けてピンク色の胡蝶蘭を添え、僕は深呼吸をした。
「うーん、なかなか良い天気だね」
返事はないけれど、話しかける。
もう、7年も過ぎたんだね。……でも覚えているよ、ちゃんと。
あの騒動のほとぼりはもう冷めた。でもまだ、蘭の存在自体を批判する者達がいる。
けれど、僕はきちんと分かってるから。1番近くで見てきたつもりだもの。
……君は悪くないよ。世界を敵に回しても、僕は君を信じ続けるよ。
目を瞑り、墓石に触れる。水で清められてキラキラと光る墓石は、まだ少し濡れてひんやりしている。その冷たさを味わいながら、今後も祈り、僕の人生を君に捧げようと誓う。きっと、それが運命だと思うんだ。
どんなに時間がかかっても良い。今までの短い人生を受け入れられなくても良い。ほんの少しでも、背負った苦しみが和らぐように。僕の想いが伝わるように。
ただただ、彼女に、永遠の
「愛してるよ、蘭」
軽くお辞儀をして、また来るね、と告げて背を向ける。
咲き誇る花々の向こうに、ずっと会いたかった2人が見えた。
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