第208話 苦労の末のハッピーエンド
話は終わったとばかりにミトラ神が、シャーリーのお父さんを持ち上げていた手をパッと離した。
いきなり落とされて、シャーリーのお父さんが尻餅を付く。
本来なら尻餅をつくなんて失態はしないんだろうけど、目の前に神様がいるともなると、さすがの歴戦の冒険者であっても、尻餅をつくほど驚いてしまったのに違いない。
「さて、これで問題はなくなったであろう? 話を続けるがよい、愛しき我が子らよ」
ミトラ神から話を振られた俺は、
「えー、という訳なんです。これで全てのクエストは完了ということで、よろしいですよね?」
シャーリーのお父さんに手を貸して引っ張り上げながら、念押しするように問いかけた。
「うむ、認めよう。こうしてミトラ神が直々に顕現なされたのだから、もはやそれ以外の選択肢はあるまいて」
シャーリーのお父さんが、今度はとても素直に頷いた。
「ではシャーリーのお見合いも、なかったことにしてもらえますよね?」
「それも致し方なかろう。先方にはすぐに断りの連絡を入れておく。残念ではあるが、ワシは約束は守る人間だ」
「だってさ、シャーリー」
「やった!」
シャーリーが俺に飛び付くように抱きついてくる。
しかも頬をすりすりとしてくる。
「お、おいシャーリー、お父さんが見てる前だぞ」
俺は小声で指摘した。
ただでさえ俺は、シャーリーのお父さんに
そんな俺に最愛の娘が抱き着いて頬をすりすりしているとか、シャーリーのお父さんがブチ切れるのは火を見るよりも明らかだ。
怒り狂った史上最高パワーを持つらしいパワーファイターに、殴り殺されるのだけは勘弁して欲しい。
「そう? もう大丈夫そうよ? ね、お父さん」
俺が恐るおそる視線を向けると、
「仲がいいようでなによりだ」
シャーリーのお父さんはニコニコと笑みを浮かべながら、温かい視線で俺たちを見守っていた。
なんかシャーリーのお父さん、
娘の幸せを見守る、子煩悩なお父さんの顔になっちゃってるんですが。
「それで、いつまでくっついているんだよ?」
お父さんの方はとりあえず大丈夫そうということで、俺は改めてシャーリーに尋ねた。
「苦労の末のハッピーエンドなんだから、少しくらい長くたっていいじゃない」
シャーリーはそう言うと俺を離そうとしてくれない。
どころかよりいっそう、強く抱き着いてくる。
「まぁ、それはあるよな。ここまで頑張ったよな、俺たち」
「傭兵王グレタに、精霊の泉。そして極めつけが冒険の神ミトラ。思い起こせば、かなり大変なクエストの連続でしたもんね」
俺の言葉にアイセルもうんうんと頷く。
だけどその視線は少し羨ましそうにシャーリーを見つめていた。
シャーリーだけという不公平は良くないよな。
あとでアイセルもギュッとしてあげようかな、などとちょっと思った俺だった。
しばらく抱き着かれていると、シャーリーも満足したのか、俺を抱きしめるのを止めて離れていった。
なんだかんだで分別はある、大人の女性のシャーリーである。
「さてと。これで話は終わったな――って、そういやミトラ神がまだいるみたいだけど。ええっと、ミトラ神はいつまでいるんだ? 一応、話は終わったんだけど」
いつまで経っても神剣『リヴァイアス』の中に戻る素振りすら見せないミトラ神に、俺はおずおずと問いかけた。
すると奇妙な答えが返って来た。
「ありじゃな」
「ええと、なにが『あり』なんだ?」
「決めた。我は汝らとともに冒険することにする」
ミトラ神が突然そんなことを言い出した。
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