第206話 あまりにハイレベルすぎる攻防
「冒険の神ミトラですか!? ふえぇっ!?」
「まさかこんな短時間で再降臨したってこと?」
「あの時と同じ波長だって、怒りの精霊『フラストレ』が言ってる。この子、ミトラ神だよ。間違いない。ウケるー!」
アイセルとシャーリーが驚きの声を上げ、精霊を通すことで神秘に対して特に感度の高いサクラが納得の声を上げた。
どうやら『そういうこと』で間違いないようだ。
「だけど、どうしてミトラ神がまた現れたんだ? 神剣『リヴァイアス』の中でしばらく眠っている、みたいなことを言っていなかったか?」
「なに、話がこじれておるようだったのでな。実際に神である我が出てくれば、話も早かろうと思って、顔を出したというわけじゃよ」
「それは助かるよ。でもあれ? 今度の声は、さっきまでと違って、普通に人がしゃべっているように聞こえてくるぞ? 姿も人間の女の子だし」
古代神殿遺跡で戦った時の光輝く姿と違って、今のミトラ神は見た目も人間の少女の姿をしている。
もしかして人間の身体を模しているのだろうか?
「あの姿で顕現すると、愛しき我が子らの力を、ついつい試してみたくなってしまうのでな。自重するためにも、敢えて人の姿を模しておる。これはかつてのお気に入りの巫女の姿なのじゃ。どうだ、美しいであろう?」
「心遣い、感謝するよ」
今からミトラ神ともう一戦とか、考えるだけで恐ろしい。
俺がミトラ神と対話をしていると、
「きさま、いったいどこから現れた!」
突然現れた乱入者に向かって、シャーリーのお父さんが往年の冒険者時代を思わせるようなファイティングポーズを取り、
「ここは南部諸国連合・冒険者ギルド本部のギルドマスターの執務室です。ご用の場合はあらかじめアポイントメントをお取りください」
ここまでずっと静かに脇に控えていた秘書の人も、殺気を帯びた鋭い視線でもってミトラ神を睨みつけていた。
「どこから? そこなハーフエルフの持つ神剣『リヴァイアス』に決まっておろう。神たる我が身を封じるには、神を封じるにふさわしい神器でなければならぬからな」
しかしミトラ神は、それらを特に気にした様子もなく平然と受け流しながら、
初めて会話した時にも思ったんだけど、ミトラ神って質問したら割と何でもあっさり教えてくれるよな。
神様ってもっと気難しいもんだと思っていたけど、ミトラ神はかなりフレンドリーに感じる。
今回もこうやって俺たちを手助けするために、わざわざ顕現してくれたんだし。
「ふん! そんなわけがあるか。どうせ特殊な隠形スキルで室内に隠れていたのだろう。職業は
「姿や気配を隠す程度のことなら、別段できなくはないが。そうではない。ふむ……汝はパワーファイターか。ならばこうしよう」
ミトラはおもむろにシャーリーのお父さんに近づくと、その首にのど輪で右手をかけて、その巨体を軽々と持ち上げた。
「なっ、いつの間にワシの懐に!?」
「これくらいのこと、造作もない」
「踏み込みが鋭いです! 全く隙のない構えをしていたシャーリーさんのお父さんの懐に、ああも簡単に入り込むなんて……!」
さらに、一連のやり取りを見たアイセルが驚愕の声を上げる。
「そうか? 割と無造作に近づいたように見えたけど」
「シャーリーさんのお父さんが、まばたきをした一瞬のタイミングに合わせて、予備動作無しで踏み込んだんです。おそらくシャーリーさんのお父さんは、懐に入ってくるミトラ神の動きが、全く見えなかったはずです」
「今のって、そんなすごい攻防だったのか……」
「瞬きした瞬間を狙ってのステップインは、わたしもある程度狙ってやるんです。ですが、こんな完璧なタイミングでできたことはありません」
「なるほどなぁ」
後衛の俺は特に何も感じなかったのだが、アイセルが言うにはどうもそういうことらしかった。
伝説のトップ冒険者だったシャーリーのお父さん。
現役最強フロントアタッカーと名高いアイセル。
神様である超越存在のミトラ神。
全員が全員、超が付くほどの達人レベルだからこそ通じ合う、ものすごくハイレベルな攻防だったようだ。
あまりにハイレベルすぎて、後衛不遇職のバッファーの俺にはもはや『すごい』としか言えないです。
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