第193話 サクラ、満足顔でドヤる。

「前から思ってたんだけど、ケイスケって損して得取れっていうか、ちょっとくらい損しても最終的に勝てばいいみたいなセンスを持ってるから、冒険者じゃなくて商人のほうが向いてそうだよね、あはっ!」


 サクラが半分褒めたように、残り半分は呆れたように言ってくる。


「そんな小難しい話じゃないさ。人は見たいものを見て、聞きたいものを聞く生き物だからな。後衛不遇職っていう存在からしてパッとしないバッファーの話より、美しいエルフの魔法戦士の冒険譚の方がはるかに需要は高い。それだけだよ」


「ふぅん。ま、ケイスケの考えは分かったわ。じゃあアイセルさんはどう? 女王様になりたくはない?」


「わたしはケースケ様と一緒でなければ、遠慮させていただきますね」


 アイセルが一辺の迷いも見せずにノータイムで即答した。


「アイセルはまぁそう言うよな。じゃあシャーリーは王様になりたいか? どうだ?」

 俺は残る最後の一人シャーリーへと話を振った。


「アタシもあんまりなりたくはないかなぁ。今よりしがらみが多くなりそうだし。冒険者ギルド本部のギルドマスターの一人娘ってだけで、アタシもうお腹いっぱいだから」


 シャーリーが大仰に肩をすくめてみせる。

 こっちもまぁそうだよな。


 そもそも今このクエストに挑戦していることからして、その面倒なしがらみでお見合いすることになったのが発端なんだし。

 さてと。


「じゃあどうするかな……」

「どうしましょうか」

「困ったわね」


「お金とか財宝が一番手っ取り早いけど、神様にお願いできるのにそういう即物的すぎるお願いはなぁ……」

「それこそもったいない気がしますよね」

「有意義に使いたいわよね」


 俺、アイセル、シャーリーが願いごとを決めるために頭を悩ませていると、


「じゃあ保留で!」

 サクラがそれはもうあっけらかんと言った。


「いや保留はダメだろ? 願いごとを叶えてくれるっていう神様相手に返事を保留して先延ばしにするとか、俺ちょっと想像がつかないんだけど」


 さすがにそれは失礼過ぎないか?

 だけどサクラは特にそういう感覚は無いようだ。


「そんなの聞いてみないと分かんないじゃん。そもそも『いつまで』って言われてないでしょ?」

「いや、トンチ勝負をしているわけじゃないんだからさ――」


「ねーねー、神様ぁ? 急に言われても決まらないから、いったん保留にしてもいい?」


 こ、こいつマジで聞きやがった!?

 下手なことを言って神様を怒らせでもしたら、どうするつもりだよ!?

 ここからさらにもう一戦とかシャレにならないぞ!?

 最近の若者ってほんと恐れ知らずだよな!


 あと「最近の若者」って事あるごとに思ってしまう俺の思考がなんとも悲しい!(涙


 俺は恐るおそる、冒険の神ミトラへと視線を向けた。

 もちろんその顔は光るのっぺらぼうなので、そこからは何の感情も読み取れはしない。


 ご、ごくり……。

 しかし俺の心配は杞憂に終わった。


【なるほど、一理ある】


 一理あるのか!

 冒険の神ミトラ、思った以上に懐が深いな!


「さすが神様、話わかるじゃん! じゃあ、いったん保留ってことでよろしくねー。なるべく早めに、だけどじっくり考えてから決めるから」


 そしてサクラ。

 相も変わらず言葉が軽すぎる……!

 相手は神様であって、気心の知れた近所のおっちゃんじゃないんだぞ?


【よかろう。当面は保留ということで、願いごとが決まるまでは待つとしよう】


「神様は存外に気前がいいんだな?」

 俺もう居ても立ってもいられなくて、思わず聞いてしまったよ。


【なに、人の言葉で言うところの数千年ぶりに目覚めたのだ。それと比べたら人の一生程度の時間など、たいした待ち時間ではなかろうて】


「なるほど、さすが神様だ。人間とはスケールが違いすぎた」


 悠久の時を生きる神様の時間間隔だと、俺たちが悩んでいる時間なんて気にするようなものでもないってわけか。


「じゃあ冒険の神ミトラのご厚意に甘えて、いったん保留にさせてもらうとするか」


「ですね」

「異議なし」


「ほらねケイスケ。何でも聞いてみるもんじゃん。ケイスケは頭いいけど、考えすぎることがあるのが玉に瑕よねー」

「ああ、いい勉強になったよ」


 満足顔でドヤるサクラに、俺は苦笑しながらうなずいたのだった。

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