第164話 古代神殿遺跡(1)
俺がサクラに背負われた以降は山登りが極めて順調に進み、当初のクエスト計画通り俺たちは7日をかけて頂上付近にある神殿へとたどり着いた。
「ここが目的の古代神殿遺跡ね。山の中をくりぬいた洞窟状になっているのね。おかげでかなりはっきりと構造物が残っているみたいだわ」
「それに山頂付近なのに思っていたより大きいです」
「着いたわよ! ほら下りてケイスケ!」
サクラに促されて、俺もリュックの上に取り付けられた俺運搬用のイスから飛び降りた。
「ありがとなサクラ、おかげで楽ができたよ。体力もしっかり回復したし」
「どういたしまして! 帰りも任せてね!」
人一倍重い荷物と俺を背負ってきたのに、さすがは力自慢で疲れ知らずのバーサーカー。
サクラはまだまだ元気いっぱいの様子だ。
「さて、と。見た感じはいかにも古代神殿遺跡だな」
俺は入り口付近を見ながらパッと見の素人感想を口にした。
大きな岩で入り口の半分くらいが埋まっているので、あくまで見える範囲でだけど。
「そうね、取り立てて特徴がないのが特徴って感じかしら。でも柱の様式とか刻まれている文様なんかは、ちょっと見たことないかも。いつの時代かな?」
シャーリーは古代研究の専門家らしく、入り口の柱に刻まれた文様に注目している。
「シャーリーさんでも見たことないってことは相当古いんでしょうね」
そんなシャーリーを見て、アイセルがちょっとワクワクって感じでつぶやいた。
アイセルは古代のロマンに憧れる少女なのだ。
「よしサクラ、入り口を半分塞いでる大きな岩をどかしてくれるか?」
「はーい! 怒りの精霊『フラストレ』よ!」
サクラの瞳が一瞬赤く染まるとすぐに黒色に戻り、その直後、サクラの身体に怒りの精霊『フラストレ』の膨大な力がみなぎっていく。
バーサーカーの力を完全にコントロールしたサクラは、入り口にあった数メートルはあろう大岩をいとも簡単に持ち上げて撤去してくれた。
俺たちはサクラが片付けてくれてすっきりした入り口から早速、中を覗き込む。
「どれどれ……ふぅん、中も綺麗なもんだな。特にトラップもなさそうな感じだし。あとやけに広いな、天井もかなり高いし。この中で戦闘訓練でもできそうだぞ?」
入り口を入ってすぐから大きな広間になっていて、奥の方に祭壇みたいなのがうっすらと見えている。
「通路も何もなく入ってすぐ大きな広間になっていて、奥に祭壇らしきものがある。何かを祭るための施設で間違いないわね。それとこの遺跡、やっぱり相当古いわよ」
「それは古代研究の専門家としての見立てだよな?」
「ええそうよ。アタシも古代の神殿遺跡は色々見てきたけど、ほら見て。すぐそこの大きな横柱に刻まれている文様」
「なんて言うか、縄を押し付けたみたいな模様だな?」
「ええ、これは多分、文字がまだない時代に縄目の形にいろんな意味を持たせて伝えていた縄文っていう方式ね。でもその様式がアタシが今まで見て知っているのとは全然違っているの」
「へぇ、文字がない時代はそんな風にして文字の代わりにしてたのか」
「面白いですね!」
「だから今残っている古代遺跡よりももっと古い時代――おそらく先史時代のかなり古い時期の物だと思うわ」
「なるほど、超がつく大昔ということは分かった」
ほんと、俺のような素人とは違って古代研究の専門家であるシャーリーの視点はやはりとても的確だ。
こんなもんシャーリーが居なかったら、ここまで来ても攻略するなんてことは不可能だったことだろう。
さすがシャーリーのお父さん、何が何でも攻略させる気がなかったな?
「でもでも、そんな大昔にこんな辺鄙な場所にこれだけの神殿を作るだなんて、古代文明って本当に凄いですよね!」
俺とシャーリーのやり取りを興味深そうに聞いていたアイセルが、鼻息も荒く話に加わってくる。
「そういうことなら、やっぱりそれなりに警戒して入らないとな。なにが出てくるか分かったもんじゃない」
「あ、話は終わった? じゃあ早く入ってみようよ?」
いつの時代のどんな遺跡なのかについては、全くちっともこれっぽっちも興味がないのか。
俺とシャーリーの話を聞くでもなく、遠くの空を雄大に飛んでいる大型の猛禽類を興味深そうに眺めていたサクラが振り向いた。
「そうね、とりあえず外から分かるのはこれくらいだし、早速中に入って調査してみましょうか」
「じゃあ、レッツゴー!」
「おいサクラ、勝手に行くんじゃない。さっきの話は一応聞いてただろ? かなり古い遺跡で何が起こるか分からないから用心するんだ。物陰に高ランクの魔獣や、古代遺跡でよく出現するゴーレムなんかが潜んでいるかもしれないからな」
「はーい」
「ではいつも通りわたしが先頭で、次にシャーリーさんとケースケ様。
俺たちはいつもの戦闘隊列を組むと、古代神殿遺跡の中へと踏み入った。
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