第131話『七色のブレスを喰らいつくせ! 魔法戦士アイセルのレインボードラゴン討伐記念弁当』

「多分だけど、アイセルさんは力を全て『斬る』ことだけに伝えたの」

 そんなよく分かってない俺に、サクラが解説を始めてくれた。


 さすがだなサクラ。

 アイセルといつも連携戦闘しているパートナーだけあって、サクラは何が起こったのかを正しく理解しているみたいだ。


「『斬る』ことだけに力を伝えた?」

 だけど後衛の俺ではそれだけだとイマイチ分からなくて、オウム返しに聞き返した。


「普通は、斬ると同時に衝撃があるものなの。でもアイセルさんは斬る時の余波や衝撃を限りなくゼロにして、斬るってことただそれだけに全ての力を乗っけてみせたの」


「な、なんじゃそりゃ……」


「綺麗に斬り過ぎたってのは多分そういうこと。もし少しでも衝撃が伝わってれば、大岩の上の部分は勝手に落ちたはずだから」


「お、おう……」


「これって生きた相手にやったら、相手はきっと斬られたことが分からないんじゃないかな」


「ひえぇぇ……」


 常識という枠を完全に越えちゃってるアイセルの剣技に、俺はただただ感心するしかなかったのだった。


「この前戦った傭兵王グレタって、剣神って言われたんでしょ?」

 と、突然サクラがそんな質問をしてきた。


「え? ああそうだよ。でもそれがどうしたんだ?」


「グレタとの戦いで史上最強クラスのすごい剣技を目の前で見せられて、アイセルさんはちょっとコツを掴んだんじゃないかな。戦闘の途中からアイセルさんの動きがどんどん洗練されていったから」


「つまりかつて剣神と呼ばれた圧倒的な強敵との戦いの中で、アイセルはさらなる成長を遂げたってわけか……」


 サクラの解説に、俺は改めてSランクパーティのエースとして名を馳せるアイセルのすごさを認識させられたのだった。


 とまぁそんなこんなしている間にお昼になって、俺たちはご飯を食べることにしたんだけど。

 観光協会の人がイチオシのお弁当を全員分、無料で差し入れしてくれたので、みんなでそれを食べることになった。


「『七色のブレスを喰らいつくせ! 魔法戦士アイセルのレインボードラゴン討伐記念弁当』だって!」

 サクラが弁当の名前を読み上げる。


「すごい煽り文句だな……いったいどんな中身なんだ?」


 さっそくお弁当のふたを開けてみると、中にはカラフルなおかずが詰まっていた。

 お品書きによると、


白:ふっくらつやつや白米

黒:特選アルケイン牛のジューシー焼肉

紫:紫芋のポテトサラダ

緑:ほうれん草のおひたし

金:ふんわり甘い卵焼き

赤:旨辛エビチリ

青:わらびもち


 ということらしい。


「美味しそうだけど、なんていうか割と普通ね。つまり焼肉弁当なのよね?」

 シャーリーが率直な感想を言った。


「あ、7色だからレインボーなんですね。納得です」

 アイセルが納得し、


「透明のわらび餅を青っていうのが若干きついかな」

 俺が気になった点を指摘し、


「うん、お肉おいしい! さすが特選!」

 サクラは既にもぐもぐと食べ始めていた。


「おまえはほんと、いつも好き勝手生きてるなぁ……」

 俺もそれくらいメンタルが強くなりたいよ。


「ねえアイセル、ちょっと疑問なんだけど、この辺りって畜産業が有名なの? 特選アルケイン牛ってあるけど、ここに来るまで牛を飼ってるようには見えなかったかなって思って」


「アルケイン地方ってすごく広いんですよね。南部大森林とその周辺全部ひっくるめてアルケイン地方ですから」


「あらそうなのね」


「なので大森林の外の地域では、牛を育ててるところもあるみたいです。まぁこの辺りではやってないんですけど。森で牛を大量に育てるのは難しいですから」


「あはは、つまり嘘ではないってことね」

 シャーリーが苦笑した。


「じゃあま、せっかくだし俺たちもいただくとするか」

「はい、レインボードラゴンと再戦です!」


「アタシは初めてだけどね」

「ああそっか、シャーリーはあの時はまだ『アルケイン』にはいなかったもんな」


「ねえケイスケ、飲み物ないんだけど。そこの売店でお茶かなんか買ってきてよ?」

「へいへいお嬢さま、すぐに4人分の飲み物を買ってこさせていただきますよ」


 飲み物を用意すると、俺たちは改めていただきますをして、『七色のブレスを喰らいつくせ! 魔法戦士アイセルのレインボードラゴン討伐記念弁当』を完食したのだった。


 イチオシと言うだけあって、味はとても美味しかった。

 なんでも村人たちとの契約で、アイセルの名前を冠する以上は材料から味付けまで手抜きは許されないのだそうな。


 ごちそうさまと言いに行ったときに、観光協会の人がそう説明してくれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る