第129話 木を目立たせたいなら、他の木を伐採すればいい。

「ケースケはアイセルのお父さんからすごく気に入られてたもんね。孫の話まで出てたじゃない」


 シャーリーが羨ましそうにつぶやいた。

 シャーリーのお父さんは俺のことを蛇蝎だかつのごとく嫌っているから、俺と両親との関係が良好なアイセルのことを羨ましく思っているんだろうな。


「でもあれにはちょっと困ったけどな。改善傾向とはいえ、性的不能なことも言い出せないしさ」

「そんなこと言って、満更でもなかったくせに」


 シャーリーがちょっと拗ねたように言ってくる。


「少なくとももうしばらくは、冒険者一本でやっていこうと思ってるよ」


「あら、そのうち孫を作ることは否定しないのね?」


「いやまぁそのな? 病気が治れば、その後はそういうことも往々にしてあるのかな、と思わなくもないというか……まぁその時のことはその時だよ」


「なんにせよ気に入られてるのは良かったわよね。アタシみたいにお父さんの出した条件を攻略する必要もないわけだし」


「だな」


「わたしもこんなに嬉しそうなお父さんを見れて、ほんとうに良かったです。お母さんも村の皆も喜んでくれたし、なにより貧しかった村がこんなに裕福になったんですから」


「裕福だよなぁ。これならもう仕送りもしないでいいんじゃないか?」


「はい。ここが観光スポットになってからの短期間で、もう人生5回分くらいは稼げたってお父さんが嬉しそうに言ってましたから」


「あはは、そりゃあ良かった。でもアイセル、今日の夜くらいご両親と親子水入らずで過ごさなくていいのか? 明日もう一泊したら、すぐ『妖精の森』のクエストに向かうんだぞ?」


 俺はそれだけがちょっと気がかりで、改めてアイセルに問いかけたのだった。


「今日だけでいっぱい話はできましたので、それは大丈夫です。それにわたしの冒険の話を、まるで一緒に冒険していたみたいに知っていましたから。それもこれもケースケ様がわたしを立ててくれたおかげですね」


「ふふふ、俺の計画通りアイセルの故郷までちゃんと活躍が伝わってるし、アイセルをひたすら有名にする作戦は、文句なしに大成功だったな」


「本当にありがとうございました。ケースケ様が自分の分の名声を、全てわたしにくれたおかげです」


「いいっていいって。ほら、木を隠すには森の中って言うだろ?」


「えっと、何かを隠したいなら、似たものがいっぱいある中に隠すのがいいってコトワザですよね?」


「そうそう。逆に1本の木を目立たせようと思ったら、それ以外の余計な木は全部伐採するのが一番手っ取り早いんだ」


「単一化、ワン・イシューってやつね」

 俺の言葉に、シャーリーが補足説明をしてくれた。


 もちろん余計な木っていうのは、戦闘でまったく活躍しない俺のことね。


「やっぱりみんなが興味あって知りたいのは、胸が躍る冒険譚なんだよ。入念な事前準備や、作戦で貢献とか、そういう地味なことは仲間内の話でとどめておくに限る」


 アレもコレもではなく、大多数の大衆が見たいもの・知りたいものをそのものズバリ提供することこそが、なによりも重要なのだ。


「勉強になります……!」


 アイセルがうんうんと頷いた。


「結果的にパーティ『アルケイン』は、アイセルのワントップでSランクにまで駆け上がって、俺もその恩恵をガッツリ享受することができたわけだし。誰も損した奴はいない、みんなハッピーだ」


「ウィン・ウィンの関係って奴ね」


 最後にシャーリーがにっこり笑って話を締めたのだった。


「さてと、話も一段落したしそろそろ寝るか」


 俺はそう言うと布団に入った。

 するとアイセルとシャーリーが当たり前のように布団をひっつけて、俺に身体をくっつけてくる。


 場所は変われど今日もいつも通りに、俺はアイセルとシャーリーと3人で眠りについたのだった。

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