第114話 vsリヴィング・メイル(下)

「シャーリー、適当な1体をスルーしてくれるか? 例のあれを試したいんだ」


「それはいいけど本当に大丈夫? ゴースト相手には、ケースケ得意のクサヤ・スカンク玉やマキビシは効かないんでしょ?」


 シャーリーが心配そうに尋ねてくる。


「だから一応見守ってくれてると嬉しいかな」


「そうは言ってもアタシはあの2人みたいに接近戦は専門じゃないから、ケースケも気をつけてよね?」


「もちろん分かってるって」


「じゃあちょうど弱そうなのが来たから、1体そっちに通すから」


「よし、頼んだ」


 シャーリーに見逃された、装備が貧弱なリヴィング・メイルが1体、俺の方へと向かってきた。


 他のリヴィング・メイルと比べて明らかに弱そうな個体だ。


「これなら俺でもワンチャンなんとかなるか……?」


 そいつを俺はある程度引き付けつつ、背負っていた塩袋を身体の前に持ってきて左手で抱きかかえた。

 そして右手を突っ込んで中の塩をごそっと掴むと、えいやと投げた!


「ソルト・ストラッシュ!」


 塩がブワッ!と貧弱なリヴィング・メイルに振りかかる。


 貧弱なリヴィング・メイルは塩にビクッと反応して、足を止めた。


「おおっ!? 効果あったか?」


 それを見て俺は喜んだんだけど――しかし足を止めたのは一瞬で、貧弱なリヴィング・メイルは再び俺に近づいてきた。


「くっ、ならばもう一発、ソルト・ストラッシュ!」


 再び塩がブワッ! と貧弱なリヴィング・メイルに振りかかり、ビクッと反応して足を止める。


 しかしやはり足を止めたのは一瞬で、ついに目の前にまでやってきたリヴィング・メイルが剣で斬りかかってきた。


「ひいぃっ!?」


 俺は慌てて後ずさりしたものの、


「うげっ!?」


 思っていた以上に深く踏み込まれてしまい、貧弱なリヴィング・メイルの剣が容赦なく俺を襲う――!


 ザシュ!っと斬り裂かれる音がして――身体の前に抱きかかえていた塩袋が真っ二つになり、中の塩がズザァッ!と地面にこぼれて山を作った。


「ケースケ様!?」


「ちょっとケイスケ、さっきからなに遊んでんのよ! ソルト・ストラッシュとかバカじゃないの!? っていうか早く逃げないさいよね!」


 しかし俺は貧弱なリヴィング・メイルがみせた意外に勢いある踏み込みに気圧けおされて、尻餅をついてしまっていて。


 そんな俺の前で貧弱なリヴィング・メイルが大きく剣をふり上げて――だめだ、やられる!

 どうにか星の聖衣で守られてる部分に当たってくれ――!


「――させません! スキル『連撃乱舞』!」


 しかしあわやという寸前で一直線に俺の元へと戻ってきていたアイセルが、強烈な連続斬りを背中からお見舞いした。

 そして貧弱なリヴィング・メイルは一瞬でバラバラになってその場に崩れ落ち、俺は事なきを得たのだった。


「悪いアイセル、助かったよ。恩に着る!」


 あわやの危機(完全な自業自得だったけど)を脱出して俺はホッと一安心、胸をなでおろす。


「いいえ、わたしはケースケ様の剣であり盾ですから、どうかお気になさらず。ただ――」


 そこでアイセルは言いにくそうに言葉をためらった。


「ただ?」

 俺が続きを促すと、


「ゴーストに塩はあまり効果はなさそうですね。それでもわずかに反応していたので、まったく効果がなくはないんでしょうけど」


 やや申し訳なさそうに言ったのだった。


「……だな。俺もそう思った」


 俺は「効果がなくもない」というなんとも曖昧な言葉の意味を、身をもって理解したのだった。


「それとケースケ様、これからはこういうことはわたしが試しますので」


「うん、俺もそっちの方がいいと思ったよ。正直、俺がこのクラスのゴーストに相対するのはちょっと無理だ。正直死んだと思った、次があれば今度は頼むよ」


「どうぞお任せあれ」


 ああ、ほんとバッファーって戦闘じゃ役に立たないなぁ……塩も撒くことすらできないなんて……。

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