第79話 vsキング・オー・ランタン(上)

『ホッチャーン! ホ、ホーッ、ホアアーッ!! ホアーッ!!』

 キング・オー・ランタンが奇声を上げると、


「おわっ!?」

 キング・オー・ランタンを中心に、全周囲に向けて猛烈な爆風が巻き起こった。


 相当な威力だ。


 どれくらいかって言うと充分離れていたはずの俺ですら、その衝撃ですってんころりんしてしまう――その寸前で、俺はサクラに抱き寄せられるように助けてもらっていた。


「助かったよサクラ、危うく転倒して後頭部を打つところだった」


 そしてさすがはパワー自慢のバーサーカーだな、これくらいじゃビクともしていない。


「ケイスケ、範囲攻撃っぽいのを持ってるみたいだから私の後ろに隠れてて」


「悪い、そうさせてもらう」


 俺は膝に手をついて少し屈んでサクラの後ろに隠れると、ひょこっと顔だけ出して戦況を見守ることにした。


「そうだ、アイセルは大丈夫だったのか?」

 アイセルは今の爆風を超至近距離で受けたはずだ。


 だけど俺の心配をよそにアイセルはピンピンしていた。


「アイセルさんなら心配ないわよ。魔法剣で斬ってたから」


「爆風を剣で斬ったのか?」


「向かってくる爆風を縦にザシュって斬ったら、ブワワッって左右に別れてったの。さすがアイセルさんよね」


「マジか。いまやSランクパーティの絶対エースとはいえ、改めてアイセルの成長は末恐ろしいな……」


 俺とサクラがそんな会話をしている間にも、アイセルとキング・オー・ランタンの戦いは続いていく。


 アイセルは度重なる爆風攻撃を斬り裂いて防ぎながら、一瞬の隙を突いてキング・オー・ランタンの懐へと飛び込むと、


「セイヤァッ!」


 魔法剣で鋭く斬りつけた。

 文句なしのクリーンヒットだ。


 さらにそこから、


「『連撃乱舞』!」


 強力な連続攻撃スキルで斬り刻むと、たちまちキング・オー・ランタンはボロボロのズタズタになり果てた。


「なーんか、でかくなった割にはあまり強くない感じ? 爆風攻撃は強烈だけど脅威ってほどでもないっていうか?」


 サクラのその見立てには俺も同意だった。


「そう見えるな。範囲攻撃できるようになっただけで、それ以外はあまり強くないのかな?」


 戦っているアイセルは、俺たち以上にそう感じているはずだ。

 でかい図体の割に思ったよりは手応えがない相手だって。


 だけどそこはやはりSランククエストの新種ゴーストだった。

 アイセルが勝機と見て一気呵成かせいにトドメを刺しに行こうとした時、


『ホッチャーン! ホ、ホーッ、ホアアーッ!! ホアーッ!! ホアーッ!! ホアーッ!!』


 キング・オー・ランタンが再び奇声をあげると、どこからともなく大量のジャック・オー・ランタンがわらわらと沸いて出てきたのだ――!


 突然の出来事に、だけどアイセルは慌てることなく冷静に、かつ瞬時に距離を取って対応してみせた。

 追ってくる数体のジャック・オー・ランタンも、危なげなく返り討ちにしている。


 だけどその隙に、出現した無数のジャック・オー・ランタンたちが、飛んで火にいる夏の虫のごとく次々とキング・オー・ランタンへと吸いこまれていったのだ。


 そしてその直後、キング・オー・ランタンの傷ついた個所が、時間を巻き戻したみたいに全て元通りに修復されていって――!


「わわっ、元に戻っちゃいましたよ!?」


 さすがのアイセルも驚いた声をあげた。


「まさか呼びだしたジャック・オー・ランタンを吸収して、ダメージ箇所を修復したのか!」


「なにそれズルっ!? もうちょっとで倒せそうだったのに、また最初からやり直しってこと!?」


 サクラが思わずといった様子で振り返って尋ねてくる。


「恐らくそうだろうな。しかも回復しただけじゃなくて、なんとなくさっきより一回りでかくなってるような……」


「確かにちょっと大きくなってるかも。ううっ、こんな目茶苦茶なズルするのがゴーストなのかぁ……」


「実体を持たないからこそできる芸当だな」


 なんにせよ、戦いは完全に仕切り直しとさせられてしまった。


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