第76話 ジャック・オー・ランタン討伐クエストの依頼(下)

「じゃあ簡単に説明するな。ゴーストの最大の特徴はズバリ、非接触型存在であることだ」


「ひせっしょくがた・せんざい?」


 俺の説明にサクラが首をかしげた。

 ふむ、ちょっと言いかたが難しかったかもしれないな。


 あと「せんざい」じゃなくて「そんざい」な。

 お前はゴーストで服でも洗うのか?


「実体を持たない、触れたりできない存在ってこと。つまりゴーストには通常物理攻撃は全く効果がないんだ」


「ええっ!? じゃあこっちから手が出せないじゃん!?」


「そういうこと。だからやっかいなんだよ」


「ってことはまさかゴーストって無敵? 討伐不可能的な?」


「それこそまさかさ。討伐できるからクエストとして依頼があるわけで」


「じゃあどうやるのよ?」


「定番は高ランクのプリーストの『祈り』で昇天させることだな。それかプリーストの祝福を受けた武器で攻撃すれば、ゴーストにもダメージは与えらえる」


「ふーん、そうなんだ。でもでも私たち『アルケイン』には、高ランクどころかそもそもプリーストがいないわよね? ダメじゃん?」


「もう一つダメージを与える方法がある。特殊なスキルによる攻撃だ」


 そう言うと俺はアイセルを見た。

 するとアイセルは「はい、なんでしょう?」って顔を見せる。


 ご主人様の命令を待つ子犬っぽくてちょっと可愛いかった。

 尻尾があったらパタパタ振ってる感じ。


 それはそれとして。


「アイセルはこの前レベルが上がった時に『剣気帯刃・オーラブレード』を覚えたって言ってただろ? あれならゴーストにもダメージを与えられる」


「あ、そういうこと! なるほどなるほど、さすがはアイセルさんね、すごいわ!」


 サクラが満面の笑みで、俺を見ながら言った。


「おいサクラ、なんでそのセリフを俺を見ながら言ったんだ? 俺になにか言いたいことでもあるのか? ん?」


「気のせいよ。やーね、男の嫉妬って」


「嫉妬なんてしてねーよ。サクラの意味深な態度を問いただしてるんだよ」


「はいはい、そういうことにしといてあげるわ。ほら真面目な話をしてるんだから、小さいことにこだわってないでとっとと話を進めなさいよね!」


「まぁいいけど……。話を戻すんだけど、アイセルの『剣気帯刃・オーラブレード』ならゴースト系魔獣のジャック・オー・ランタンにもダメージを与えられるってわけだ」


「それじゃあ今回はわたしが前衛ワントップで戦うわけですね」


「そうなるな。今まで通りといえば今まで通りだけど、なにせ今回の相手は不慣れなゴーストで、しかもSランクパーティへの特別指名クエストだ。通常はありえないイレギュラーも起こってる。今まで以上に気を引き締めていこう」


「もちろんです」

 アイセルがやる気満々の顔で答えた。


 さすが優等生のアイセルだな。

 気を緩めて手を抜くという発想自体、アイセルはきっと持ちあわせてはいないのだろう。


「でもあーあ、せっかくうんこ拾いと違ってSランクパーティっぽいクエストが来たかと思ったのに、私はまた戦力外かぁ」


 そして今回も役に立てないと知って、サクラは少し残念そうだった。


 でも実を言うとサクラも戦おうと思えば戦えるんだよな。

 サクラたちバーサーカーのスキルは全て、怒りの精霊『フラストレ』の力を借りる特別なスキル体系だから。


 精霊の力をわずかに暴走させれば、精霊と似たような存在であるゴーストにも攻撃が通るのだ。

 だけどバーサーカーの暴走は一歩間違えれば手が付けられないことになるし、ゴーストとの戦いはサクラにはまだ早いと俺は考えて、敢えて伝えなかった。


 サクラはアイセルと比べてまだまだ経験が浅いし、すぐ調子に乗るし、注意力がやや散漫なところもある。

 サクラに関しては、ゆっくりと少しずつステップアップしたほうがいいだろうと俺は考えていた。


 まぁ今回はイレギュラーが起こっているから、もしもの場合には当然サクラにもそのことを伝えて戦ってもらおうとは思っているけど。


 そういうわけで。

 俺たちSランクパーティ『アルケイン』は、ゴースト系魔獣ジャック・オー・ランタンの討伐&調査クエストに向かうことになった。

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