第50話 「だから応援していてください、わたしのすぐそばで」

 そうだよな、当然そういう結論になるよな。


 アイセルの成長がどうしようもなく嬉しいのは間違いない。

 だけど同時に胸にぽっかりと穴が開いたような喪失感があって。


 手塩にかけて育てた弟子を送り出す師の気持ちっていうのは、きっと今の俺みたいな気持ちなんだろうな。


 だけど――、


「だから応援していてください、わたしのすぐそばで」


「え……?」

 アイセルの発したその言葉に、今度は俺が呆気にとられてしまった。


「わたしはすごい冒険者になります。仮にケースケ様が足を引っ張ったとして何の問題もないくらいに、普通の勇者なんて相手にならないくらいの、ものすごい冒険者になってみせますので!」


「いや、あの、アイセル? ちゃんと俺の話を聞いてたか?」


 俺は思わず確認をしたんだけど、


「ねぇケースケ様。ケースケ様に一つだけ言ってもよろしいでしょうか?」


 アイセルはそれには答えず、そんなことを言ってきたのだ。


「いいぞ、この際だから思ってることはなんでも言ってくれ」


「じゃあ、言いますね、こほん――。あまりわたしを見くびらないで下さい」


「俺はアイセルを見くびってなんか――」


「いいえケースケ様は見くびっています」

 アイセルが問答無用とばかりにピシャリと言った。


「わたしはですね、それはそれは凄いんですよ? なんてったって勇者パーティの元メンバーのお墨付きなんですから。勇者になれる一握りの才能を持った、本当にすごい、ものすごーい冒険者なんですから」


 堂々と胸を張って言うアイセルだけど、


「それを言ったのは俺だよな? しかもついさっきだよな?」


「ケースケ様であろうと他の誰であろうと関係はありません」


「う、うん……?」


「これは揺るがない客観的事実ですから」


「確かにそう言いはしたけどな?」


「はい、確かに言ったんです。だからわたしは史上最高のものすごい勇者になってみせますし、だからパーティ『アルケイン』だってこの先も今まで通りに継続なんです。だってわたしはとてもすごいんですから、解散する必要なんてこれっぽっちもありませんよね?」


 にっこり笑顔のアイセルは、アイセルを送り出そうとしていた時の俺よりも、もっともっといい笑顔をしていた。


 それにつられるように、


「ははっ、そこまで自信たっぷりに言われると、俺もぐだぐだ後ろ向きなことばっかり言ってはいられないか。ほんとアイセルは普段は控え目なのに、俺のことになるととことん頑固で強引なんだから」


 俺はもう説得するのが馬鹿らしく感じてしまっていた。


「ケースケ様がいけないんですよ、前置きもなくいきなり別れようだなんて言い出すんですから。びっくりしちゃったじゃないですか」


「だから敢えて勘違いされそうな言いかたをするのは辞めような!?」


「だってほんとのことですもーん♪」


「まったくアイセルと来たら……ま、並の勇者じゃ相手にならない未来の大勇者アイセルから、パーティのメンバーとして是非にと指名されたんだ。俺ももうちょっと頑張ってみるかな」


「大勇者、ですか?」


「大昔にいたっていう伝説の勇者のことだよ。そういや伝説の大勇者もエルフの魔法戦士だったっけか。そう考えるとアイセルの野望も一気に現実味を帯びてくるな」


「野望ってなんですか、野望って。響きが悪いのでせめて目標とでも言ってくださいよ」


「いや史上最高の勇者になるなんてのは、これはもう目標って言うよりもっと壮大に野望って言った方がいいだろ? アイセルにしか為しえない壮大な野望だ。パーティ『アルケイン』の第一目標として、これから一緒に叶えていこうぜ」


「ケースケ様……! やっぱりケースケ様はわたしにとって最高に最高です!」


 そう言って飛びつくように抱きついてきたアイセルを、俺も優しく抱き返した。

 さらに負けじと、アイセルもぐいぐいと身体を押し付けるように抱きついてきて――。


 こうして無事にトリケラホーンを討伐した俺とアイセルは。


 パーティ解散の危機に本音で語り合ったのちに、アイセルが史上最高の大勇者になるという壮大な野望を定め、新たなる一歩を踏み出すことにしたのだった。



【ケースケ(バッファー) レベル120】

・スキル

S級スキル『天使の加護――エンジェリック・レイヤー』


【アイセル(魔法戦士) レベル36→38】

・スキル

『光学迷彩』レベル28

『気配遮断』レベル14

『索敵』レベル21

『気配察知』レベル35

『追跡』レベル1

『暗視』レベル14

『鍵開け』レベル1

『自動回復』レベル14

『気絶回帰』レベル14

『状態異常耐性』レベル14

『徹夜耐性』レベル14

『耐熱』レベル14

『耐寒』レベル14

『平常心』レベル21

『疲労軽減』レベル35

『筋力強化』レベル35

『体力強化』レベル35

『武器強化』レベル35

『防具強化』レベル35

『居合』レベル35

『縮地』レベル35

『連撃』レベル35

『乱打』レベル35

『会心の一撃』レベル35

『武器投擲とうてき』レベル35

『連撃乱舞』レベル14

『岩斬り』レベル14

『真剣白刃取り』レベル35

『打撃格闘』レベル35

『当身』レベル35

関節技サブミッション』レベル35

『受け流し』レベル35

『防御障壁』レベル14

『クイックステップ』レベル35

『空中ステップ』レベル35

視線誘導ミスディレクション』レベル28

『威圧』レベル28

『集中』レベル35

『見切り』レベル35

『直感』レベル35

『心眼』レベル35

『弱点看破』レベル14

『武器破壊』レベル14

『ツボ押し』レベル35

『質量のある残像』レベル14

『火事場の馬鹿力』レベル14



―――――――――


 お読みいただきありがとうございます。

 新たなスタートと共に、第三章終了です。


 続く第四章では新たなスタートを切ったパーティ『アルケイン』に、怪しい影が忍び寄ります。

 新キャラ&新職業が登場です!


 さらにアイセルが無敵転生でもお馴染み「あの必殺技(紫電〇閃)」を習得します!


 盛りだくさんの最終章をどうぞお楽しみに!

 乞うご期待です!(>_<)

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