第22話 「えへへ、来ちゃいました……」

 クサヤ・スカンクの臭いを落としてすっかり身綺麗になった俺は、むしろ石けんの清潔な香りに気持ちよく包まれながら、宿のベッドで手足を伸ばしてだらーっと寝転がっていた。


「あ"ぁ"ー……馬車に乗れなくて歩き詰めだったせいで、足が棒みたいだ……」


 『体力強化』も『疲労回復』スキルも持たないバッファーは、こういう時にも漏れなく不遇職っぷりを発揮する。


「ヒキコモリ生活で筋肉も体力も落ちてたしなぁ……。アイセルと冒険するようになってだいぶ戻したとはいえ、こりゃ筋肉痛が確定だな……」


 一応、冒険者に復帰するにあたって腕立てや腹筋、スクワットとかの各種筋トレは毎日してたんだけどな。


 というのもアイセルが、


「全然知りませんでした、さすがですケースケ様!」

「そうなんですね、すごいですケースケ様!」


 などなど事あるごとに尊敬の目で俺を見つめてくるんだもん。


 だから俺も元・勇者パーティのメンバーとしてあまりカッコ悪いところは見せられなくて、最低限は動けるようにと身体づくりはしてきたんだけど。


「さすがに復帰して3カ月かそこらじゃ、付け焼き刃なのは否めないか……」


 一度獲得すれば死ぬまで残るスキルを持ってさえいれば、苦労も少ないんだけどなぁ……。


 なにせバフスキル以外は1つもスキルを獲得しないというのが、不遇職のバッファーであるからして……。


「しかも帰りは2日も歩き詰めだったからそりゃ疲れるよな……」


 無事にキングウルフ討伐クエストを完了した充実感と、やっと臭いがとれて真人間に戻れた気持ちよさが、今日はもう何もしなくていいんだよと俺にささやいてくる。


「いつもより早いけど昨日今日と頑張って疲れたし。うん、もう寝るか」


 でも立ちあがって部屋の明かりを消すのがダルイな~、もうこのまま寝ちゃう?

 でも俺、暗くないと寝ても疲れが残っちゃうタイプなんだよな。


 ――とかなんとか、そんなどうでもいいことをグダグダと考えていると、部屋の扉がコンコンと小さくノックされた。


「夜分に申し訳ありません、アイセルです。ケースケ様、まだ起きてますか? 入ってもよろしいでしょうか?」


 扉の向こうからはアイセルの声が聞こえてくる。


 今回の討伐クエストの祝勝会&反省会(つまり今回の冒険の話で盛り上がりながら、ちょっと奮発した晩ご飯を食べた)をさっきやったばかりだけど、なにか伝え忘れたことでもあったのかな?


「まだ起きてるから入っても大丈夫だよ」


 もはや上半身を起こすのすらダルかった俺が、「ラッキー。アイセルが出ていく時についでに部屋の明かりを消してもらおう」とか思いながら、寝ころんだまま行儀悪く答えると、


「で、では、し、失礼します――」


 なぜか変に緊張した声と共に、アイセルがドアを開けてしずしずと入ってきた。

 入ってきたんだけど――、


「ブフゥ――ッッ!?」


 アイセルの姿を見た俺は思わずベッドから上半身を起こすと、吹き出してしまっていた。


 というのもだ!


「えへへ、来ちゃいました……」


 そう言ってはにかんだアイセルは裸だった――わけではないんだけど。

 むしろ裸の方がマシだったかもしれないというか。


 アイセルは超ミニマムな布地で、しかもスケスケでエロエロなアダルトなネグリジェを着ていたからだ――!


 まさかアイセルがこんないやらしいネグリジェを着て寝ていたとは……。


 ふと俺は、アイセルの魔法剣を買った時に店主からアイセルが何かを受け取っていたのを思いだした。


 あの時アイセルはなにを買ったのか教えてくれなかったけど、あの時の反応を見るにもしかしなくても「これ」だったのか……。


 スケスケを通して見えるアイセルの肌は、真っ白で綺麗できめ細やかだった。

 さらに出るところもしっかりと出ていて、それがほとんど隠されていないときたもんだ。


 そういうわけだったので俺はすぐにアイセルから視線を逸らした。

 まぁ当然の行為だ、俺は年長者だからな。


「おいこらアイセル、年頃の娘が男の部屋に来るってのに、なんちゅうカッコしてるんだ。親しき中にも礼儀あり、男はみんな狼なんだからな?」


 そして年長者の義務として俺はやんわりと教育的指導を行ったんだけど、


「えへへ……すみません」


 分かってるのかいないのか、アイセルは曖昧に笑いながら謝ってきた。


 そしてアイセルはと言うとなぜか何も言わずに部屋の明かりを消すと、俺の隣にひっつくようにして座ってきたのだ。


 さらには俺の左腕を、自分の胸にぎゅっと押し当てるようにしながら抱えてきて――


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