第2話 ヒキコモリなケースケ=ホンダム
しかし時の流れとは無情なもので、ヒキコモリ生活にすっかり慣れた俺にも外の世界に戻る時がやってきた。
その理由はというと――、
「やばい、金がなくなりそうだ」
金欠だった。
いくらギルド運営の割安の宿とは言え、約3年ひきこもり続けた俺は、ついに宿に泊まるための資金すら尽きてしまったのだ。
情けのつもりか手切れ金のつもりかはしらないが、勇者が置いていってくれた金が尽きてしまい。
もともとの俺の手持ち分も使い果たし。
その後は勇者パーティのメンバーに相応しい最高クラスの装備を、出張買取で質屋に入れて、どうにかヒキコモリを続けてきたのだが――、
「この調子だと、もって後1週間か……」
俺は働かないといけなかった。
当たり前だけど、宿の主人は俺が金を払うから泊めてくれてるわけで、金が払えなければここを追い出されてしまうのだ。
「せめて『暴虐の火炎龍フレイムドラゴン』討伐の報奨金を貰った後だったら、一生ここで誰とも関わらずに一人で過ごせたのになぁ……」
だけど後悔しても始まらない。
今の俺は可及的速やかに金を稼ぐこと、なによりもそれを考えなければならなかった。
「それにあの時はもう、ヒキコモって心を守るしかなかったもんな……」
今でこそ少しは心も落ち着いたけれど、最初の1年ほどはこの世の何も
かもが嫌になって、このまま死んでもいいとまで思ってしまっていたのだから。
「結局、死ぬ勇気もなくてヒキコモって生きることにしたんだけどな……」
俺は久しぶりに風呂に入って体を清めると、仕方なく、本当に仕方なく、ほぼ3年ぶりに宿屋の外に足を踏み出した。
向かう先は、この宿から近いところにある冒険者ギルドだ。
金を稼ぐならアルバイトよりも、ギルドの依頼をこなすのが効率的だろう。
なにせ俺は元勇者パーティの冒険者なのだから。
「そのために、まずはパーティを組まないとな」
支援専門のバッファーという職業は、パーティを組まないと全く力を発揮できない。
一人では何もできず他人を頼らないといけないのが、不遇職と言われる理由だった。
「前衛系の戦士、剣士、騎士あたりが必須だな」
でもま、なにせ俺は超一流の高レベル冒険者なのだ。
その気になればなんとかなるはずだ――そう思ってたんだけど、
「く……っ、照りつける太陽がやけにまぶしいぞ? まるで肌がフライパンで焼かれているようだ……」
昔の俺は、こんな過酷な環境で生きていたというのか?
とても信じられない。
「も、もしかしてこの3年で太陽が急激に活性化したんじゃないか?」
このまま外にいては死んでしまうのでは?
怖くなって思わず周りを見回して見ると、しかし街の人間は特に気にすることもなくみんな普通に歩いていた。
「馬鹿な!?」
これが正常だと!?
ありえない!
「……うん、無理だな。無理無理。これは無理だよ、宿に帰ろう。俺には外の世界はまだ早すぎたんだ、ステイホーム……」
確かに金はなかった。
だがしかし宿を追い出されたら、森で野宿したら冬まではなんとかなるんじゃないか?
っていうか、もういい加減生きていても仕方なくね?
ダラダラとヒキコモって生きてきたけど、今の俺ってなんのために生きてるの?
結婚を誓った幼馴染を勇者に寝取られて。
さらにパーティのお荷物だとまで言われて。
そんな俺が生きてる意味なんて、なくね?
「はぁ……ま、なるようになるだろ」
俺は回れ右をすると前よりさらに無気力になって、宿の自分の部屋へと戻ることにした。
「発想を転換しよう。1週間しか泊まれないんじゃない、まだ1週間も泊まれるんだ。その後のことは1週間後に考えればいいんじゃないだろうか?」
足と、そして心が重かった。
俺が肩を落としてトボトボ宿屋に戻っていると、
「あの! ケースケ=ホンダム様ですよね、勇者パーティの!」
俺は宿のすぐ近くで、いきなりそんな風に声をかけられていた。
振り返るとそこには見知らぬ少女がいて。
勇者パーティ時代の習性というか、半ば本能的に俺は相手の戦力分析を行っていた。
まず耳が長い、エルフだ。
性別は女――女の子。
年は15,6歳くらいか?
かなり若いな。
腰には安物の剣を差し、動きやすそうな、でも剣とは違ってかなり値の張りそうなビキニアーマーを装備していた。
このビキニアーマーという鎧は極めて露出が多いものの、別に性的な目的があるわけではない。
筋力や攻撃力、防御力などを増加させる身体強化スキルの効きをよくするための特別な装備なのだ。
これは冒険者としては一般常識なんだけど、久しぶりだったの一応再確認しておいた。
つまりこの子はエルフの魔法戦士だった。
エルフは人間と比べて筋力が劣る分、様々なスキルで補助しながら戦うのだ。
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