二階層
一階層はスライムしか出ないようだ。
ここにきて一時間ほど経つが、未だにスライム以外の生物は見ていない。
手記にはダンジョンの構造についても大方の記述があった。まず、世界中に存在するダンジョンの入り口は全て同じ場所に繋がっているということ。
しかし、ダンジョンの形状と言うのは特殊な物で、何故か他の人物と出会う事は無い。同時に同じ入り口から入った場合を除き、内部で人間に遭遇する事は決してないらしい。そしてそれは事実だと身をもって体験した。全世界で調査が行われている筈のダンジョンで誰とも出会っていない事が何よりの証拠だろう。
恐らく空間系統の魔法に近いのだろう。亜空倉庫の魔法の様に、圧縮複製した特殊空間を複数個別次元に設置する事で、全ての人間に対してオリジナルのダンジョンを提供している。まさか、再現術式では無いと思うが、もしもそうならダンジョンを作った人物のテクノロジーは末恐ろしい。いや、異能が存在する現在でそれを考えるのはナンセンスだろうか。
スライムを数十匹程度捕食した事で、俺の魔力最大量は800まで増えた。ただ、それ以上の上昇は見込めないようで、魔力量の拡張が完全に止まってしまった。
ダンジョンという構造物には、階層を進むにつれてより強いモンスターが現れるらしい。既に二階層への扉は見つけている。第三一術式の龍眼を使ってみた結果、その扉には空間系の魔力が読み取れた。やはり、このダンジョンの根幹部分には空間属性の魔力が使われている事は間違いない様だ。
「二階層か、見てみるか」
捕食があれば魔力を気にする必要は基本的にない。
敵の力が俺の魔力全てを使っても倒せないような物になっている可能性が無いわけではないが、どちらにせよもうスライムを幾ら倒したとしても、魔力回復ができるだけで総量を増やす事はできない。結局早いか遅いかの問題だ。今の俺の魔力があれば二番台の魔法も使えるが、それがもしも通用しないようなら逃げるしかない。
そう考えながら、ダンジョンに入るために開いた扉とはまた違った形をした石造りの両扉を開く。
「草原かよ……」
二階層の景色は、一階層の洞窟とは打って変わって草原と呼ぶべきものだった。
日光すら差し込んでいるというのだから、もう何が何だか分からない。仮想世界とでも言いたげな景色だな。
『第二階層への転移が許可されます』
「なんだ!?」
声、それも耳への音ではなく、脳に直接響くような音。
異能の中には、そう言った類の能力もあるという話があったな。
まさか、他の人間が居るのか?
そう考え、辺りを警戒してみるが、人影もなく気配もない。
第一二術式の視界拡大を使えば解決できる問題かもしれないが、それをする場合魔力をごっそり待っていかれることになる。
流石にそれは避けたい。
いつまで経っても人が現れる様子もない。まさか、人の言葉を発するモンスターなのか?
「なんなんだよ全く」
そう呟いた時、草をかき分けるような音が耳に届いた。
「やはり居たか!!」
その方向へ掌を向ける。
「GRUUU」
そこに居たのは子供程度の体格の鬼だった。俗にゴブリンなどと総称される魔物だ。
「RAAAA!」
そいつは、手に持った斧のような武器を振りかぶり俺へ直線的に迫ってくる。
「舐めるなよ」
無詠唱。それは本来よりも多くの魔力を消費するが故に、咄嗟の場合しか使わない魔法使いの奥の手の一つ。
スライムと同じように、ゴブリンにもその魔法に耐えられるだけの耐久性は存在しなかったようで簡単に燃え尽きた。
魔力を吸収し、死体を亜空倉庫へ収納する。
「「「GARUUUUU!!」」」
「なるほどな、ここからは徒党を組んで襲ってくるって訳か」
魔力を吸収し終わり、最大魔力量が拡張されている事が感覚的に解った。
「へえ、お前等スライムよりも魔力を持ってるじゃん」
なら、それを、
「寄こせ」
第二二術式、
植物促進の魔法は辺りの草を使ってゴブリンたちを縛り上げ、その形状を変形させ天然のナイフを作り出す。
紙だって素は植物だ。その切れ味は現代科学が証明しているし、それを真似て発動するこの魔法はそれ以上の切れ味を有する。
耐久性能が低い事が難点だが、この戦闘だけにしか使わないのであれば、何の問題も無い。
第四一術式、
「
ナイフは更に尖り、磨き上げられ、研ぎ澄まされる。
「ナイフなんて、使ったことないんだけど、」
それでも、縛られている相手の首を飛ばす事など容易な程に、このナイフの切れ味は鋭かった。ゴブリンの皮膚が単純に柔らかかった事も関係するだろうけど。
「捕食」
出来上がった死体を捕食していく。
青白く見える魔力が俺の口目掛けて吸い込まれていく。
一定範囲内にあれば触れる必要すらなく魔力を吸い上げられるとは、全く便利な物だ。
亜空倉庫は触れる必要があるからな。
コインがどさりと落ちる。一枚550か。易っ。
コインは統合して一枚のコインにする事が出来る。俺もその機能を使っていて、持っているコインの数字は5200となった。これで、5200セントと大体同じ価値って事だ。別に欲しい物も無いから貯めておくけどさ。ダンジョン内部だろうが自分の部屋だろうが、いつでも交換できるってのは便利な話だ。
「ガンガン行こうか」
ゴブリンの魔力量は大体1200前後ってとこか。つまり、俺はここでゴブリンを倒しているだけで、そこまでの最大魔力量を手に入れる事ができるって事だ。魔力が1000あれば三番台の魔法を使えるようになる。そうすればもっと強いモンスターにも挑める。
「「「「「GYARUUUU!!」」」」」
仲間を殺されて怒っているのだろうか、さっきよりも多くの群れで現れたゴブリンは怒り狂ったような形相を浮かべていた。
「悪いが、儂はお前等を殺したくないなどと言う感情も無ければ、生かしてやる慈悲も持ち合わせて居らんぞ」
おっと。
「
炎の弾丸が飛んでいく。
続けて氷の魔法球が。
最後に雷が炸裂する。
「後二匹」
偉大なる研究の糧となるんだ、光栄だろう?
第二術式、
「
地中の石が隆起し、ゴブリンの足場を崩す。
その隆起した石は全て俺の意思の中だ、俺がその振動に足を崩す事など在り得ない。
「接近戦闘の技術も磨いておかないとな」
バランスを崩した二匹のゴブリンを、草で作ったナイフで切りつけていく。
魔法使いに接近戦を挑む者は少ない。だが、異能の世界となり果てた今の地球で俺の常識がどれほど通用するかは未知数だ。
上げられる能力は全て磨く。
少なくとも、手記に書かれていたようなSS級と呼ばれるトラベラーを相手に出来るまで。
「捕食」
転がったゴブリンの死体を捕食する。
戦えば戦う程に俺は強くなれる。それが俺の異能力だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます