第25話 道具屋の常連
「で、ここをこうして、こうしたら…出来上がり!」
道具屋の店先で、手のひらほどの大きさの機械をカチャカチャと弄っていたこげ茶色の髪の少女がぱっと顔を上げて赤い瞳をきらめかせた。ベリーショートの頭はどこから見ても少年のようだが、年齢は22歳というのだから驚きだ。
どこから見ても子供にしか見えない。
彼女は隣家の三女カナリナだ。
隣の家に越してきてからすっかり店に入り浸って常連になっていた。
「すごいだろ?」
「ああ、すごいすごい」
頷いて見せれば、さらに満面の笑みを浮かべた。
「カラクリのおもちゃなんだよ。変身できて格好いいだろう?」
「確かに、金属の箱を開いていくと人形になるのはすごいが、なんでゴーレムなんだよ。あんまり、人気ないだろう」
子供に人気といえば、魅惑のスライムとか神秘的なユニコーンだ。もしくは暴れ馬なバイコーン。竜系も人気が高い。その点でいくと単なる岩の塊たるゴーレムは人気がない。
そもそも鉄の箱が原料なので固いものしかできないのはわかるが、ゴーレムは売れ筋になるとは思わない。
「ラーナが、染料で土色くらいしか塗れないってイジワルしてくるんだよっ」
「ああ、前にカレンさんが言ってた話か。二人で部屋にこもって何か作っているって…」
「兄ちゃんに仕掛けを教えてもらっただろ。このバネ入れて頭が飛び出すやつ。加工しやすい道具ももらったし、箱が変形するのって格好いいと思ってさ。でも、ここの腕が稼働しにくいんだよな」
「滑りをよくするなら、ここの金属を少し削って、こっちに曲げたらどうだ」
「そうすると収まりが悪くならない? それに削る道具がないんだよ。一度組み立てたらばらせなくなっちゃって。こんな細い隙間を削れるものがないんだ」
「ああ、はいはい。道具ならあるぞ。ええ、とこれかな?」
店のカウンターの後ろの棚を見上げて、小さな金属の箱を取り出す。
中には工具類がぎっしりと入っているが、そのうちの一つをカナリナに見せる。
一見普通の針のように見える。
「なんだこれ」
「ふふん、これはな。ヤスリだよ」
「こんな小さいので削れないだろ。負けちゃって折れちゃうぞ」
「それがコイツの凄いところだ。金属にグリフォンの毛を織り込んでるからそこらのくず鉄なんて簡単に削れるんだよ」
「すげぇ、兄ちゃん! そんなの王都じゃ売ってないぞ」
「そりゃあ、王都の外れにある店が王都と同じもの売っていたら商売にならないだろう」
「そりゃそうだけど。変わったものばっかり売ってる変な道具屋だよな」
「そんなこと言うなら、売らないからな……」
思わずヤスリを引っ込めれば、カナリナはひどく慌てた。
「わああ、ごめんなさいいいっ」
「ところで、お前はこんなおもちゃ作ってて大丈夫なのか?」
彼女の本職は、魔法道具の開発とメンテナンスだと聞いていたが、こんなものを作っている時間はあるのだろうか。
「うう……息抜きって大事だよね?」
息抜きばかりしているように見えるのは気のせいだろうか。
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