淡い恋心

 艶めいた唇が

 ひどく大人に見えた

 年上のあの人


 僕は手招きされて

 お姉さんと

 二人で喫茶店に入る


 ほのかなオレンジの灯り

 やや暗がりの店内

 ゆったりとかかるミュージックは

 ジャズだろうか


 ブラックの珈琲なんかは

 飲んだことないくせに

 カッコつけて

 彼女と同じ

 キリマンジャロとかいう豆の

 珈琲を頼んだ


 砂糖もミルクも淹れて良いのよ?

 クスッと笑った彼女

 僕は形の良い唇に

 またも見惚れていた


 焦げ茶にも黒にも見えた珈琲

 傾けると少しだけ

 色が薄まり

 透きとおった琥珀色に見えた


 苦くて

 渋くて

 舌が喉が痺れたような

 気がした


 でも匂いだけは

 ひどく良い

 あゝかなり良い

 香りだ


 何度か彼女に

 誘われて

 通った喫茶店


 いつかの帰りに

 僕は

 君に

 ファーストキスを

 奪われた


 君とはもう

 別れてしまったけれど


 思い出の喫茶店は

 僕の行きつけになった


 バカだなぁ


 また会えるかもなんて

 期待して


 もう違う道を歩んで

 いるというのに


 ここに来ると思い出す

 いや

 思い出したくて

 ここに来るのだろう

 僕は


 可愛い

 伴侶も得たくせに


 ふと

 あの頃に

 浸りたい


 ここの

 珈琲だけは

 変わらない味






 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る