第16話 いうことをきかない息子 そして夫

「慧もけっこうワルなんやなあ。」夫は笑った。


「そうなのよ。こないだのよもぎつみのときも、全然言うこと聞かないでたっくんやかっゃんたちとふざけてばっかりだったんだって。」 


こどもたちを寝かした後、保育所の連絡帳を夫は手にとっている。


保育所での慧の生活記録。こどもたちが昼寝をしている間に保母さんたちはこの連絡帳と向かい合い、こどもたちそれぞれのその日の様子と行動と親へのメッセージを綴る。


私は続けた。「それでね先生たち、今日はよもぎを十こ摘んだらいいからって、そしたら遊んでいいよって男の子達には申し渡したんだって。

女の子たちはそれは一生懸命に摘むんだってよ。汗一杯かいて。」


私はため息をついてしまう。

「こないだ、かすみ台から勝手に帰ってきちゃったから大騒ぎだったでしょう?だいぶ今日は先生も気をつけてくれてたみたい。」


「こっぴどく怒られたらしいな、こないだは」

「そうよ、かすみ台からだと畑をつっきるだけだから車の心配はないけど。でも何が起こるかわからないじゃない。先生も気がつくの遅すぎよねえ」


「かっちゃんとふたりだし、じょうずに逃げたんやなあ。島先生ものすごくあわてたやろなあ。」

「うん、それは気の毒だった。慧が悪いのにね。」


「慧の様子は?」

「それがさあ、別にどうも感じてないみたいなのよ。」


「いや、わかってんじゃないのお。園長さんも一緒に叱ってくれたんやろ」

 迎えに行った時、島先生にその話を聞いて、がっくりした。

けいに帰ってきちゃったんだって?と尋ねると、だってつまんなかったからって。

つまんないことからいつも逃げてたらほんとにおもしろいことに出会えないんだよと叱ったけど、わかってんのかなあ。 


「あさちゃん!あしただんご作るよ。来るー」とけろっとしてた。


「ま、な元気がよくていいさ。」と苦笑いの夫の言葉で肩の力が抜ける。


 神経質で回りのおとなの顔色伺う子よりはいいし、たくましい子に育ってほしいんだからけっこういい線いってるかも。そんなふうにけりをつけよう。


「あしたはね、よもぎだんごつくりが始まる前に、らいおん組の男の子たちだけはもういっかいよもぎ摘みにいかされるんだって。それでちゃんとまじめに摘んだらだんご食べさせてもらえるということらしいよ。」

「けっこうしつこいねえ、先生も。かっちゃんと慧だけじゃないのか?」


「男の子全員ふざけてたらしいから。」

「先生たちも大変だねえ。だけど、おれ、よもぎなんて全然わかんないよ。」


「そうよね。私も自信ない。私たちみたいな親じゃこどもになんにも伝えてあげられないね。」

「まあな、でもべつによもぎつまんでもえーけどな」いつものごとくの発言。


「でも、自分たちで苦労してつんだよもぎをおだんごにしてみんなで食べるって、その味って最高だと思うな。」


 私が力んでる傍らで夫は大あくびをした。


「そういえば、佐野先生ってうるさいなあ、こないだも朝送ってったときに、おとうさん、もう少し余裕もってきてください。って言われたよ。」

「朝、ぎりぎりに行くと、遊びにスムーズに入っていけないし、エンジンがなかなかかからないっていうことらしいよ。」


「ええやんか、別に。」

「でも、頭と体の働きがいいほうがいいじゃない?」


「そんなの、早起きと関係あらへんわ。」

「佐野先生は慧のこと思って言ってくれてるのよ。」


「押し付けんでほしいわ。」


以前連絡帳に、『おとうさんにも、慧君にとって生活習慣がいかに大切なことか、 早くわかってほしいです。』って書かれたことがあった。

保育園に慧を送っていったとき、洋が先生に逆らうようなことを度々言ってるんだろうなあ、きっと。困ったなあと一時は思っていた。

しかし、悪気があるわけではなく、ストレートに思ったままを言う夫に対して、先生たちが、慧に注意するのと同じように、夫にも良かれと思って意見してくれてる様子がなんとなく可笑しくて、攻防を面白くながめているところがある。


 私の言うことはきかないし、佐野先生、よろしくご指導お願いします!


っていう感じで 今はいる。








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