完全武装
リズが説明した通り、地下通路の出口は隣の工場の倉庫に繋がっていた。
すれ違った工場の従業員からすると、見知らぬ男と少女が突然職場の倉庫から出てきた訳だ。当然のように訝しがられてしまったのだが、俺は得意の愛想笑いを浮かべて何とかその場を通り抜けることに成功した。
もちろん、フレアにはフードを深く被らせて、一言も口を開かせなかったのは言うまでもない。
――で、再び訪れた冒険者ギルドなわけだが、俺たちが出てから相当な時間が経っているはずなのに、まだ宴会場状態が続いていた。
さすがにお祭り気分な一般人の姿は減ってはいるが、その分冒険者たちの割合が増えているようで、パーティごとに席を陣取り、豪快に酒を飲んで騒いでいる。
ウエイトレスはトレーいっぱいに酒や料理を乗せて運んでいく。
「ご~は~ん~」
料理の方に吸い寄せられそうになるフレアを、頭に被せたフードを引っ張って止める俺。
辺りを見回すも、セシルの姿は見当たらない。
長い杖を持つ神官服の女となれば、いればすぐに目に飛び込んで来るはずなのに。
「くそっ、また行き違いにでもなったか?」
「ご~は~ん~」
「あ~もうっ! あとで好きな物食わせてやるから、今はおとなしくしていろ!」
「ご~は~ん?」
「冒険者カードを取り戻せたら、金を稼いで何でも買ってやれるんだ。だから、セシルという女神官を探しているんだよ」
「昔の女……なの?」
「え」
突然声のトーンが変わり、俺はフレアを見下ろした。
フードの奥から左目がギラリと光っているのが見えてギョッとした。
でも、すぐにまた「ご~は~ん~」とか言い出した。
今のは何だったんだ?
一瞬ビビッちまったじゃねーか!
こうしている間にも、次から次に酒や料理が運ばれていく。
冒険者は大きな仕事を成し遂げると、報奨金の一部をこうして街に金を落としていくのが習わしとはいえ、ここまで派手にやっているのは見たことがない。
いったいロベルトのパーティにはどれだけの巨額の報奨金が入ったというんだろうか。
くそっ、だんだんとムカついてきたな。
「な、なぜあんたがここにいる!?」
会いたい女にはなかなか会えないというのに、どうしてこうもいらぬ奴には会えてしまうのだろう。
全身を甲冑で固めた元仲間のタンクが声をかけてきた。
「ドロテア達はどうしたんだ?」
タンクの隣に立つ長身の剣士が訊いてきた。
こいつには突然剣を向けられたりした嫌な思い出しか残っていない。
あれが剣の稽古のつもりだったなんていわれても、どう考えても納得できないぜ。だが俺は立派な大人だ。昔のことはもう水に流してやろう。
「ドロテアって……あー、あの下っ端連中のことか? あいつらなら、工場の前で会ったけれど、運悪く雷に打たれてノビていたぜ!」
「カミナリだと!?」
「ああ。大自然の驚異の前に人間はいかに無力なのか~って感じでバーンってな!」
手のひらを上にあげ、わざとらしい仕草で言ってみた。
「くそっ! つくづく運の悪い連中だな!」
「だが、相手が雷なら、しかたがねぇーか……」
自分で言っておきながら突っ込みどころが満載の嘘をころっと信じやがった。
こんな脳筋な奴らがパーティの中心人物だったのかよ!
内側からだけ組織を見ていると分からないことも、いざパーティから抜けてみると色々と分かるもんだな。
そして今の会話でもう一つ分かったことがある。
こいつらがドロテアという奴らを差し向けた張本人であるということだ。
「まあレン、積もる話もあるだろうからよ、奥に行って話そうぜ!」
「今日は俺たちパーティの魔女討伐達成祝いだ。あんたも片足ぐらいは突っ込んでいたわけだからよ、一緒に飲んで騒いで、嫌なことは忘れようや。なあ、レン!」
俺の肩にグイッと腕を回し、強引に奥に連れて行こうとする二人組。
すると、フレアがグイッと他の奴らには見えない鎖を引っ張りそれに抵抗する。
フレアの雰囲気が変わった。
嫌な予感がする――
その時、ドアがバーンと勢いよく開いた。
入口には、神官服の上から真っ赤なプロテクターを装着した、完全武装のセシルが立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます