高級宿屋
フレアの手を引いて、人混みの中を縫うようにして大通りを歩いて行く。
すれ違う人々は〝魔女を討伐した噂の勇者さま〟の顔を一目見ようとギルドへ向かっているようだ。だが、中にはギルド飯をタダでありつこうという卑しい考えの奴もいるだろう。俺が言えた義理じゃないがな!
大通りから1本道を外れると、ようやく人通りもなく、閑散としていた。
そこからは手を離し、フレアは後ろをとことこと付いてくる。
端から見れば、おっさんと子供が仲良く散歩しているように見えるんだろうが、鎖に繋がれて前を歩かされているこの状況は、ペットというよりも奴隷になった気分になってくる。
まあ、街の連中には鎖も首輪も見えないのだから、どうでも構わないのだが。
「レン、あれは?」
フレアが杖の先で指す方向をたどると、大きな煙突が立っている。
ユニドナの街には見渡す限り大小様々な煙突が立っていて、けむりがモクモクと空へ上がっている。
「あれは煙突だ。鉄を作る工場や、鉄を加工して何かを作る工場から出る煙を、空に逃がすためにあるんだが……もしかしてお前、初めて見たのか?」
こくりと頷く。
目と鼻の先ほどの距離にある森に住んでいながら、こいつは本当に街のことは何も知らないんだな……
「なんなら帰りに鉄工場にも寄ってみるか? 何か欲しいものがあったら、金を貯めてまた買いに来ようぜ!」
まあ、それもセシルに会って、無事に冒険者カードを取り戻せたらの話なんだが――原始人と鉄器文明の出会い――なんて想像しただけで、思わず苦笑しちまうってもんだ。
そのセシルの行方だが、俺にはある程度の目星はついている。
一般的には冒険者が街へ帰ると、冒険者ギルドに直行するものだ。
クエストの成果報告をし、一日の稼ぎをもらい、翌日のクエストを予約する。
そして最後は酒場での交流会というのがだいたいの流れ。
しかし、ロベルト達の様子を見るに、パーティは夜通し歩き続け、命からがら街へ辿り着いたという感じだった。
すると、当然体は生傷だらけの上に、汗もギトギトにかいていることだろう。
それも冒険者の勲章とはいえ、セシルはまだお年頃の女の子。
こんな朝の人通りが多い時間に、そんな格好のまま街中を歩くのは嫌なはず。
だから、立ち寄る場所といえば――
「レン、ここは?」
「高級な宿屋だ!」
「こうきゅう……?」
「そう。俺らが昨夜泊まった怪しい宿屋とは違い、シャワー室は当然のこと、すぐ乾く服洗浄機や、小さいながら教会まで備わっている高級宿屋だ!」
セシルなら、ここに来るはず。
俺はそう確信している。
「今日はここで寝るの?」
「いや、俺たちは金が無い」
自分で言ってて、ちょっと悲しくなるな。
大層立派な造りのドアを開けると、広いホールに大きいカウンターがある。
そこには二人の男が立っていて、俺らを見るなり顔を見合わせて一人は奥へ下がっていく。
俺はカウンターに肘を乗せ、帽子をクイッと上げて話しかける。
「あー、ちょっといいか?」
「お客様、大変申し上げにくいのですが……ここはそういう宿屋ではありませんので……」
「はあーっ!? またかよ! いったい宿屋業界のあんたらには、俺がどういう奴に見えているんだよ!」
「申し訳ございません」
「いや、謝られても困るんだが。まあ、いいや。俺らは客ではなくて、人を探しているんだ。薄汚れた神官服を着た若い女の子なんだが……」
「客ではないですと?」
フロント係がチッと舌打ちをした。
おいおい、この街はどうなっているんだ?
男達の態度が悪すぎるだろーが!
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