77話―闇霊『八つ裂きの騎士』ゾダン

「クッハッハッ! 兄弟の力だぁ? くだらねぇ、実にくだらねぇな。そんなもので倒せるほど、オレは弱くはねえ! 邪戦技、ブーメラントマホーク!」


「くだらなくなんかない! ぼくたちのコンビネーションを見せてあげます! スケルトンガーディアン、防御体勢!」


 アゼルとカイルを嘲笑いながら、ゾダンはトマホークを投げつける。対して、アゼルはスケルトンを前面に出し守りを固める行動に出た。


 さらにその後ろで、カイルは魔力を練り上げて弾丸を作り、装填リロードを行う。骨の守護者がトマホークを受け止めた直後、カイルは二丁の拳銃を構える。


「今度はこっちの番だ! 戦技、ガンマニー・ブラスト!」


「あーんど、サモン・ボーンビー!」


 合計十二発の弾丸が連射され、ゾダンへ襲いかかっていく。そこに畳み掛けるように、アゼルも無数の骨のハチを呼び出して突撃させる。


「フン、ムダムダムダムダムダムダ、ムダぁ! どれだけ攻撃を叩き込もうが、オレには無意味だ! 邪戦技、スライサートルネイド!」


「本当にそうかな? お前の手の内は、あらかた知ってんだよ、ゾダン!」


 弧を描きながら戻ってきたトマホークを掴み、ゾダンは両腕を広げて身体を回転させる。斬撃の嵐が乱れ飛び、弾丸とハチを切り刻んでいく。


 しかし、同志として共に戦った経験のあるカイルからすれば相手の行動は想定の範囲内。あらかじめ、弾丸にはを付与していた。


「何を……これは!?」


「わりぃな。あらかじめ、ヒーリング効果を付与してたんだわ。アゼル、ハチどもで奴を刺してやれ!」


「はい! ボーンビー、一斉攻撃! 戦技、スティンガースピアー!」


 切り裂かれた弾丸の欠片がボーンビーに当たると、両断された骨のハチが元通りに再生した。カイルはらゾダンが全方位へ攻撃する戦技を使うことを見越していたのだ。


 アゼルの指示の元、ボーンビーたちはゾダンに向かって突き進み、鎧の隙間を狙って鋭い針を何度も何度も突き刺す。しかし、そう簡単にダメージを与えることは出来ない。


「チッ、プスプスうざってぇな。だが、オレは霊体。このハチどもの針には毒が仕込んであるようだが……効かないねぇ」


「やっぱり……もしかしたら、と思いましたが、霊体に毒は効き目なし、ですか」


「その通り。言っておくが、オレの本体を探して始末しようって思ってんならムダだぜ。オレの本体はこの近辺にはない。つまりだ、オレは無敵ってことなんだよ!」


 そう叫びながら、ゾダンはスケルトンガーディアンへ斬撃を飛ばし、バラバラに切り刻む。そして、その勢いのままアゼルへ飛びかかる。


 大鉈とトマホークで相手挟み込むように、勢いよく振り下ろしながら。


「死にな、末裔のガキ!」


「そうはいきません! いでよ、凍骨の大斧!」


「おもしれえ、オレとつばぜり合いしようってか? てめえの膂力をよぉ、買いかぶりすぎてんじゃあねえのかあ!?」


「確かに、あなたには勝てないでしょう。でも、こっちには!」


「オレがいるんだよ、ゾダン! バレットスキン、パワーアクセル!」


 自身の足では避けきれないと判断したアゼルは、凍骨の大斧を呼び出しゾダンの攻撃を受け止めることを決める。嘲り笑うゾダンに対し、兄弟はニヤリと笑みを返す。


 カイルは再度装填リロードを行い、一時的に筋力を増加させる力を込めた弾丸をアゼル目掛けて発射する。弾丸が命中した直後、アゼルの身体に力がみなぎった。


「これなら……お前を、返り討ちに出来る! 戦技、アックスドライブ!」


「舐めるんじゃねえ! 邪戦技、デモンスライサー!」


 鉈と斧がぶつかり合い、激しい火花が散る。両者共に一歩たりとも退くことはなく、一進一退のつばぜり合いが繰り広げられていた。


「むぐぐぐぐ……!」


「この、ガキィ……!」


 凄まじい力により、二人が乗っている石畳がヒビ割れ、へこんでしまう。膠着状態に陥るなか、カイルは魔力をチャージし、必殺の一撃をゾダンに叩き込もうと狙う。


「いいぞ、アゼル! もう少しだけ耐えてくれ! あと少し、魔力のチャージが終われば……特大の一発を、叩き込ん、で……?」


「兄さん!」


「バカめ、隙だらけだ!」


 次の瞬間。突然カイルが横っ飛びに吹き飛び、炎の壁に叩き込まれた。何が起きたのか分からず、混乱したアゼルは思わず力を緩めてしまう。


 その隙に、ゾダンはアゼルの胸板に蹴りを叩き込み、床に転がす。動けないよう腹を踏みつけ、凍骨の大斧を遠くへ弾き飛ばした後高笑いをする。


「うう……」


「ハハハハハ! 残念だったな。オレにはまだ、切り札があるんだよ。ほぉら、よく見てみろ。カイルがいた場所をよ」


「な、に……」


 言われた通りアゼルが目を向けると、石畳の上を細いなにかがカイルのいた場所へ伝っている。よく見てみると、それはドス黒く変色した血だった。


「オレはな、殺した獲物の血を鎧の中に吸収し……自在に操る力があるのさ。この能力を使うまでもねえ、と思ってたが、予想以上に粘るんでな。遠慮なく使わせてもらったぜ」


「この、卑怯者……あぐっ!」


「ハッ、卑怯? クッハッハッ、そいつぁオレたちにとってこの上ない誉め言葉だなぁ! なかなか楽しめたが、そろそトドメを刺させてもらうとするか」


 大笑いした後、ゾダンは腰を折り曲げこれでもかとアゼルに顔を近付ける。右手に持ったトマホークをゆっくりと、恐怖を煽るようにアゼルの首筋へ止せていく。


「さあ、どうやって死にたい? すこーしずつ、動脈を切られるか? それとも生きたまま腹を捌かれるか? 選ばせてやるよ、お好みの死に方を」


「ふっ……ふふっ。あははははは!」


「お? なんだ、とうとう壊れたか? それとも、演技でもしてるのか? どっちみち、お前を殺すことに変わりはないぜ」


 突如笑い出すアゼルに、憐れみと呆れがない交ぜになった表情でゾダンはそう声をかける。そんな相手に、アゼルは話しかけた。


「生憎、ぼくは諦めが悪いので。このまま殺されてあげるほど、優しくはありませんよ! 戻れ、凍骨の大斧!」


「なっ……ぐはっ!」


 アゼルが叫ぶと、石畳の上に転がっていた斧が浮かびあがり、主の元へ飛来する。すっかり油断しきっていたゾダンは斧の直撃を受け、吹き飛ばされた。


「このガキ……!」


「おっと、そこまでだぜゾダン! さっきはよくもオレをぶっ飛ばしてくれたな、お返しだ! 戦技、フルバーストスリンガー!」


「ぐおあっ!」


 即座に立ち上がり、アゼルへ再び飛びかかろうとしたゾダンだったが、炎の中から出てきたカイルの渾身の一撃を食らい、またしても吹き飛ばされる。


「兄さん、無事だったんだね!」


「ああ。念のために炎を防ぐマントを着ててよかったぜ。ま、すっかり燃えちまったけどな」


 マントを失ったものの、幸いカイルには傷一つなく無事戦線に復帰することが出来た。胴体の八割を失ったゾダンが再生しているなか、カイルはアゼルに声をかける。


「アゼル。今ここでゾダンを滅ぼすのは無理だ。本体が近くにないからな。だが、お前の仲間……リリンだっけか、そいつから預かったコレを使えば、奴をしばらく封印出来るだろう」


「それは……護符、ですか?」


「ああ。お前の仲間と別れる時に、これでアゼルを守れと渡された。ここまで温存しといてよかったよ」


 カイルはシャツの中から、渦を描く鎖の絵が描かれた一枚の護符を取り出す。リリンによって作られた、封印の力を持つ魔法が込められたもの。


 現状、ゾダンを完全に滅ぼす手段がない。そのため、封印する以外この戦いを終わらせる方法がないのだ。


「なら、ぼくにいい案がありますよ。ごにょごにょ……」


「……なるほど。それなら、いろいろ手順を省けるな。よし、早速やるか!」


「なぁにを、やろうってんだ? お二人さんよぉ」


 作戦が決まったのと同時に、ゾダンが復活し立ち上がる。鎧の肩の部分から、カマキリの腕のような長いブレードを生やし、アゼルたちへ先端を向ける。


「オレを本気で怒らせたのは、お前らで三人目と四人目だ。これまで、オレを怒らせた奴は皆殺した。お前らも、ここで殺し手やるよ!」


「アゼル、来るぞ!」


「分かりました! 食らえ、ゾダン! ジオフリーズ!」


 突撃してくるゾダンに、アゼルは凍骨の大斧から発せられる魔力の吹雪を浴びせかける。魔力の氷に覆われ、身体が凍り付いていくのも構わずゾダンは突き進む。


「ムダだっつってんだろうが! 多少動きを鈍らせたところで、オレは止まらねえ!」


「だろうな。だが、そろそろお前に止まってもらわねえとうざったくてしょうがねえんだ。封印の護符を食らえ!」


「何を……!?」


 全身を氷でコーティングされ、動く氷像と化したゾダンに向かって、カイルは護符を投げつける。動きが鈍っていたゾダンは避けきれず、身体に護符が触れた。


 すると、護符に描かれていた鎖が実体化し、あっという間にゾダンの全身を包み縛りあげていく。何が起きているのかを理解したゾダンは、歪んだ笑みを浮かべる。


「ああ、なるほど。オレを封印しようってのか。だが、こんなものは一時しのぎ。いずれ、オレは封印を破り復活するぞ。その時こそ……お前らを、ころし、て……や……る……」


「……封印、完了だ。これで、しばらくゾダンは活動出来ない」


「そうみたいですね。炎も無事消えましたし……行きましょう、兄さん」


 ゾダンの動きが止まると、炎の壁が消えた。これで、アゼルたちもシャスティらの後を追えるだろう。今優先するべきは、教会の真実を暴くことなのだから。


「ああ。行こうか」


 微笑みを浮かべながら、カイルはアゼルの言葉に頷いた。

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