第9話 七海の後悔 2
――ピンポーン
突然なったインターホンの画面を白雪が見ると、担当編集の女性が立っていた。
「ふぇ!? ちょ! 今はダメ……あっーもうタイミング……って空哲君どうしよ!? え? あれ? ん? 空哲君じゃなくて……えっと……」
予期せぬ訪問に白雪の頭が完全にパニック状態に陥る。
だが出ないわけにはいかない。
「は、はい?」
「昨日のメール見ました。調子が悪そうでしたので様子を見に来たんですけど大丈夫ですか? 後原稿の事でご相談があるのですが今からお時間いいですか?」
「……?」
原稿? この人は一体何を言っているんだ?
と思い、とりあえず頭の中でしばらく考えて見るとようやく頭が正常に働き始める。
「無理です! 原稿は仮締め切りには間に合いません! 本締め切りまで待って下さい! 以上! 何かご質問は?」
つい興奮しているあまり強気になってしまった。
これには流石の担当編集者の女性もモニター越しではあるが苦笑いをしていた。
今まで本が出せなくなる前の余裕を持った締め切りに間に合わせてきた白雪が昨日寝る前に最後の力を振り絞りメールで無理だと言った。それを心配して朝早くからこうして来てくれたのだろうが、今白雪の心の中は本よりも大事な恋心で一杯なのである。
「まぁ、最終の締め切りに間に合わせてくれるのでしたら――」
「私は今空哲君の事で頭が忙しいので仕事の話しは後日お願いします!」
「空哲君……?」
熱が入った白雪に困り始める担当編集者。
そして何かを納得したようにため息交じりで呟く。
「……あっ、もしかして恋の病ですか。なら締め切りギリギリまでは何も言わずに信じて待ちますから自分で解決してください。では失礼します」
そう言って担当編集者は帰って行く。
白雪は気付いていないが最後に私は絶対に巻き込まないでくださいオーラを担当編集者は出していた。
白雪はインターホーンの受話器を戻すと、イルカのぬいぐるみを拾い抱きしめる。
「うぅぅぅぅ。振られた……けど振られる前以上に……今は――」
白雪はその場で女の子座りで座り込んで、顔を真っ赤にして。
「――更に大好きになっちゃった」
そうなのだ。
恋は理屈じゃないのだ。
その時、ある事に気付いた。
「そうよ。空哲君は悪くない。悪いのはあの義妹(いもうと)よ。きっと優しい空哲君の心を利用したに違いない。それにあの義妹は大好きだと言ってくれた空哲君を振った。つまり二人はまだ付き合っていなければ今二人の関係は少なからずギクシャクしているはず。そこに私が大好きアピールをあの義妹にされたようにしていけば再び空哲君の心を盗めるはずよ!」
義妹は大好きアピールそして熱心に寄り添う事で空哲の心を最後掴む所まで来た。つまり言い方を変えれば空哲と言う人間は愛情を無償でくれる女の子にトキメキやすいのかもしれない。ならば積極的にアタックすれば再び振り向いてくれるかもしれない。
「そう! 絶対にそうよ! 絶対に私の空哲君を振った事を後悔させてやるわ! 空哲君には私の隣で幸せになってもらうんだから!」
そうだ。空哲は悪くない。
だって悪いのは人様の幸せを邪魔する女――義妹――住原育枝が悪いのだ。
一度は大好きになってくれた、つまりは嫌われたわけでないのなら、女としての魅力は十分にある事が証明された。後はもっと良い女だとアピールすればいいだけなのだ。
だけど問題点が一つある。
「きっかけがないとやっぱり話しかけずらいわよね……。重たい女とかしつこい女だとか思われたら嫌だし……」
多分だけど私は大きくは負けていない。
だってあの日屋上で空哲を見た時はまだ私を異性として少なからず意識して見ていた気がする。これは女の勘で確証はない。だけどそんな気がする。そう考えると、逆転は十分にできる。後はそのきっかけがあれば問題ないわけで。大丈夫。これは一瞬の気の迷いで空哲の心が義妹に揺らいでいるだけですぐに元に戻る。よね? そうよね? 私そう信じていいんだよね?
「あぁーでも私の事好きだったんだ……えへへ。私幸せ者だな」
今度は顔がほてってニヤニヤが止まらなくなる。
朝から怒ったり、落ち込んだり、泣いたり、ニヤニヤしたりと大忙しである。これも恋の病のせいなのだろう。だってなんだかんだ振られても許してあげたくなるんだもん! それにあの状況下でも自分の意見を真っ直ぐに言える男の人って素敵。
「あぁーーーーもう大好き過ぎるよ! なんで振り向いてくれないのよ。そうやって意地悪するからこの想いが大きくなる事に気付け、この大馬鹿鈍感野郎-----!!!!! そして私のバァーカァー……」
声は部屋中に響き渡り、徐々に静かさを取り戻していく。
素の白雪は学校とは全然違い、本心に忠実な人間であった。
――そして三人のGW(ゴールデンウイーク)物語がついに明日から始まる。
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