恋チューブ! ~俺の推しのVが可愛い後輩だった件~
空恋 幼香
第1話 始まりの予感
「……結局チャンネル登録者は998人か」
パソコンの画面に映る数字。それは大手動画サイトであるユーチューブで活動していた俺のアカウント……風月のチャンネルを登録してくれている人数だ。
3年前、俺はとある人の動画を見て刺激され、自分のチャンネルを作り動画投稿を始めた。
はじめは純粋に楽しんでいた、ただ動画が作るのが楽しくて、たった1回でも自分の動画を見てくれる人がいたらそれだけで喜んで……。登録者は1000人を超えていたときもあった。
だけど途中から更新すれば登録者が4増えたり、再生数もかなり稼げる……そんなのが当たり前になり、動画を更新できないときは危機感を感じ、なんとか登投稿しても再生数が伸びず、登録者も増えず、気が付けば俺は生放送を開いて愚痴を零したりしていた。
後日、冷静になりやばいと思った時にはすでに遅かった。
生放送は終わった後消さずに残してしまっていたせいで、それが今まで応援してくれていた人たちを遠ざけてしまった。
それからは必死に登録者だけ増やせるようなものを作り、投稿し、そして前と同じく再生数が伸びず、落ち込む。
こうしたことが続き、元々1000人いた登録者は半分である500人まで落ちていた。そして俺はあることを決心した。3月31日までに1000人いかなかったら、チャンネルを消す、と。
それが去年の12月の話。
そして今日は期限の3月31日の23時55分。もう少し待てば2人くらい……なんて考えはとっくに消えていた。
何故なら998人になったのは先週の話、そして今日にいたるまで3本の動画を投稿したが新規登録者はおろか、再生数でさえ……。
まあ俺が作っていた動画は今や前時代的とも言えるゆっくり実況と呼ばれるもので、その次のブームとなったボイスロイドでさえ置いて行かれているほど今は変わっていた。
ユーチューバーとは違う、バーチャルの人物を使った新しいもの……バーチャルユーチューバー……通称ブイチューバーと呼ばれるものが流行りを握っていた、
そんなこんなで俺はすでに3日前の時点で諦めていた。
これをする必要があるのか? という疑問も抱いていたが、それでも今まで自分のチャンネルを応援してくれていた人たちへの感謝の気持ちを込めて一本の動画を作った。
3年続けていたものに終止符を打つ、風月としての最後の動画。
慣れた手つきでその動画を投稿する。
「説明欄にはなんて書こうか……」
自分の気持ちはすべて動画の中に込めた。今まで応援してくれてありがとう、と。
ならばここに書くのは最後らしくさっぱした感じに『これが最後の動画です』なんてのもいいかもしれない。
あれこれ考えてみたものの、結局考えはまとまらずただ一言だけ書くことにした。
ありがとうございました。またいつか。
*
それから一年後の春。
俺、
「あー、つまらない……」
今は4月中旬。明日から俺の通っている学校が始まる。
つまり今日は春休み最後の日。明日から高等部の二年生として後輩を迎える。
……といっても、俺の通う学校──塩崎学園は中高一貫の学園だ。
高校になってここに入ってくる人もあるが、それでも大半は中等部から上がってくるので見たことのあるような人が多い。実際に自分もそうだった。
なので、別に先輩になる心構えとか必要ない。
まあそもそも俺は後輩とかかわることはないだろうから。
「……ふぅ」
なんでこんなにも無気力になってしまったのだろう。
動画のことは関係ない、俺は去年のあの日、きちんとお別れを告げた。だから絶対に未練などない、はずだ。
いや、違うな。こんなことを考えている時点できっと……。
「──おっ」
そのとき、スマホに一通の通知が入る。
通知欄にはユーチューブのアプリアイコン。つまり俺が通知設定しているチャンネルが新しい動画を更新したのだ。
ちなみに俺が通知登録しているのは一つだけ……。
俺は心躍らせながらユーチューブを開き、サムネなどを確認せずに動画を再生する。
そして俺は……。
「なん、だと……」
そのままスマホを落としてしまう。
画面には白猫をモチーフにした可愛らしいキャラがごめんなさいのポーズをしていた。
彼女の名前は天野かいり。俺的にこれから絶対に伸びると確信しているブイチューバーで、現在の登録者は3000人なのだが、それが100人くらいの時からずっと応援している推しだった。
時折あげる歌動画や、俺もやっているゲーム実況……歌は超絶上手いのだが、ゲームはそこまで、しかし不思議とずっと見ていられるだけじゃなく応援したくなるような彼女の動画。いや、彼女に心を奪われたのだ。
最近更新のペースや心なしか元気がなかった気がしたが、まさか、まさか……。
『──と、いうことでしばらく活動休止しちゃうけど、ごめんね☆ でもぜったい、ぜーーったいに戻ってくるからそれまでみんなかいりのこと待っててね……? それじゃまったねー!』
こうして動画は終わり、自動再生によって次の動画へと移る。
しかし、俺は暫くその場で固まったまま放心状態になっていた。
──何もせずぼーっとしたまま時間がたち、日も暮れてきたころ。
「……帰るか」
一言そう呟いて立ち上がる。
いまだにショックを受けたままだったが、いつまでもここにいるわけにもいかない。それに4月とはいえ、夜は冷えるからな。
スマホは……そうか、あのあとすぐに拾ったんだっけ。
沈む気持ちのまま歩き出そうとした時だった。
「「はぁ……」」
思わず出たため息が別の誰かの物と被る。
きっとその主が男の人であったら気にはしなかっただろう。
だが、聞こえてきたため息は決してそんなものではなく……。
「……えっ」
知らぬ間に隣のベンチに座っていたまるで地上に舞い降りた天使のような純白のワンピースを身に着けた銀髪の小柄な少女だった。
どうやら相手のほうも俺の存在に気が付いていなかったらしく、目を丸くしてこちらを見ていた。
一見すると、小学生にも見える彼女だったがどこか落ち着いていて、瞳の輝きはなんとなく昔の俺に似ている気がした。
だからだろうか、このとき、この少女に声をかけたのは。
「えっと、どうかしたの?」
「……ふぇ?」
自分が声をかけられていることがわからなかったのか、いったん少女は後ろを向き誰もいないことを確認する。
そして少しずつぎこちない様子で再びこちらに視線を戻し、
「あ、あの……もしかして、私、に言ってましたか?」
と、少しでも風でも吹こうものならかき消されてしまいそうなほど、小さくか細い声で尋ねてきた。
この状況下で少女以外に話しかけることなんてあるのか? という疑問を抱きつつも俺はあくまでも優しい声で、
「そうだけど……」
「ひぃ、ごめんなさい……」
なぜか謝られてしまった。
自分の中では最大限にやさしく言ったつもりだったから地味に傷ついた。
「いや、別に怒っているわけじゃないから!」
「え、あ、ご、ごめんなさい」
「……俺ってそんなに怖いのかな」
確かに去年のあの件を境にイメチェンして体育会系の髪形にしたり、一人称も僕から俺に変えてみたりと色々したが、それでも元々……というより今でも陰の者ではあるからそんなに怖いはずが。
……いやむしろ陰の者だから怖い説。
(……なんて考えだけ巡らせて肝心なことは何も話せていないのは昔から変わらないな)
どうしたもんかと頭を悩ませていると、
「あの、もしかしなくても私のことを気にかけてくださったんですよね。」
「えっ、ああ、うん。そうだけど……」
「すみません、すぐに気がつけなくて。それと、こんな私のために気遣ってくれてありがとうございます。ふふっ♪」
「……はい」
何気ない少女の笑顔に俺は完全に見惚れていた。
あー、かわいい。顔もかわいいけど、この幼さと白のワンピースのマッチが本当にやばい。前々から思ってたけど、こういう胸元の緩いタイプの服は小さい子が着るほうがいいよなぁ。鎖骨にちらっと見える綺麗な肩……。え、何この子? やっぱり天使なんじゃないの? 背中とかよく見てみたら羽とか生えてないよね? いやしかし、こうやって天使なふりをして近づいてくる小悪魔かも……。
いや、ないはずだ。別にイケメンですらない俺にそんなことをするメリットなどあるのだろうか。
なんて考えてしまうのは俺が完全なる陰の者だからだろう。
「……?」
などと考えながらではあるものの、じっくりと見つめていたせいか、少女は首をかしげながら目で「なにか?」と訴えかけてきた。……本当にそうなのかは知らないが。
ともあれこれ以上、考え事をすると変なことになりそうなので話題転換もかねて話を元に戻す。
それも慎重になるべく怪しくないように丁寧に。
「えっと、それでこんなにもかわいい子がため息だなんてどうしたのかなーなんて」
「きゃ、かわい、か、かわいいですか?」
「うん。こんなにもかわいい子はみたことないよ」
「う、うぅ……。そんなことないです、私、地味だし声も小さいしそれに何やってもダメダメで……。今日だって逃げてあんな……」
「逃げて?」
「とにかく、そんな私なんて全然ですよ……」
「……」
しくじったな。あまり人と会話なんかしないような俺が衝動的に話しかけてよいタイプの女の子じゃなかった。
空気が重くなるばかりのこの状況で俺はそんなことを考えていた。
同時に彼女から昔の俺と似たようなものを感じ取った。
「君、甘いものは好き?」
「え、あっ、はい。好きか嫌いかで言えば好きですが……」
「ならちょっと待ってて!」
「あ、あのっ!」
「すぐに戻るから!」
そう言い残し、俺はダッシュである場所へと向かった。
公園から少し離れた場所に位置する、この街の時計塔に並ぶ人気な場所。
かつて潰れかけたそのお店だったが、新しく入った一人の男性店員がそのお店のパティシエではないはずの女性店員と共にこの街で行われた大会に出て、大手スフィールの社長に認められたという、そっちの業界に詳しくない俺でさえ知って言るほどの有名店。
ゆえに休日などは混んでおり、この時間ともなれば完売していることも少なくないのだが……。
「あった!」
急いでお店の中に入ると、目的のものを見つける。
……だが。
「ひとつだけ、か」
ショーケースの中に入っていたのは一個だけ。でも奇跡的に一個だけはあった。
俺は急いでそれを購入し、名も知らぬ少女の元へと走る。
元より俺と彼女は知り合いではない。むしろ今日が初対面だ。
そんな彼女が無理やり話を中断させられ、待っててとは言ったものの、どこかへ行ってしまった男など待っているのだろうか。
いや、きっと待っている。このときの俺はなぜか確信めいたものを持っていた。
……だが。
「はぁ、はぁ……。あの子は?」
元居た場所についたはずなのに、そこには誰の姿もなかった。
まあこれが当たり前だよな。
知らない人に待っててと言われて待ってるお人好しなんているわけがない。それこそ天使だ。
「……本当になにやってんだろ俺」
再びベンチに座り、買ってきたケーキを隣に置く。
空を見上げれば夕日は沈み、星々が輝いていた。
少しでも待ってみたら、なんて考えもよぎったが来なかったときのことを考えると病みそうだからやめておこう。
ならば彼女のために買ってきたケーキだが、折角なので自分でいただくとしよう。
俺は買ってきたケーキの箱を取り出す。
「……これも久しぶりだな」
スイーツエンジェルのショートケーキ。
動画の作成は俺みたいな凡人だと結構頭を使う。ここのエフェクトがどうとか、サムネイルはどうするかとか。たった10分の動画を作るために何日か犠牲にしたこともよくあったし、どんなに調子が良くても1分の動画を作るのに1時間は費やしていた。
もちろんそのようなことをしていれば脳が疲れ切ってしまうのだが、そんなときによく食べていたのがこのショートケーキだった。
このお店のケーキはどれもおいしいのだが、それでも俺にはこのケーキが一番おいしく、そして暖かく感じた。
そしていつしかこれが俺の心の支えの一部になっていた。
だからこそ、あの子にもこのケーキを、と思ったけれど……。
「せめて名前くらい聞いておくんだった……」
聞いたところでまた会える保障なんてどこにもないけど。
それでも俺はあの天使のような女の子にもう一度……。
「……はぁ、また会いたいな」
「──もしかして、私のこと、でしょうか」
「うん、名前も知らないけどめちゃくちゃかわいい……って、えぇっ!?」
「ひゃう! ご、ごめんなさい驚かせてしまって」
振り返った先に立っていたのは帰ったと思っていた先ほどの女の子だった。
しかし彼女の格好は少しだけ変わっていて、白のワンピースのうえに藍色のカーディガンを羽織っていた。
「すみません、私寒いのとか強くなくて……。家が近くなのですぐに戻れば大じぉうぶかなと思って、カーディガン取りに行ってました」
「あ、いや、それはいいんだけど……」
なんというか、また違った可愛さがあって控えめに言ってやばい。
さっきまで肩とか鎖骨とか見えていたのに今はそれが絶妙に隠されている。着ているのではなく、羽織っているからこその破壊力。
16年間生きてきて
だが、あまりじろじろ見ていても失礼だし、不審者と間違えられかねない。
「帰っちゃったと思いましたよね。すみません」
「ううん、全然気にしてないよ! それに俺みたいなやつに待って手と言われたら逃げ……帰るのが普通だと思うし」
「そ、そんなことないですっ。私その……」
「あっ、そうだ、ほらこれを君に食べてもらいたくて」
悪くなりそうな空気にさせないためにもわざとらしく、大げさにケーキを取り出す。
「これは、ケーキ……?」
「スイーツエンジェルのケーキだよ。俺が元気のないときによく食べていたからさ」
「それを初めて会ったばかりの私のために、ですか?」
彼女は信じられないと言わんばかりに目を大きく見開く。
俺自身こんなことをするのは初めてだ。しかし、どうしてもこれだけは彼女に食べてほしいと思っていた。
「食べたらきっと悩みなんて吹き飛んで元気になると思うからさ」
「で、でもこれは……あぅ」
「どうぞ」
「わかりました。いただきます」
そう言って差し出したケーキを小さな手で丁寧に受け取る。
どうやら見た目だけでなく、人の気持ちまでしっかりと汲んでくれて、それも初対面の俺なんかの気持ちを。今まで異性に苦手意識があって、同性の友達くらいとしか話してこなかった俺でさえ、なんだかこの子となら話せそうな、そんな感じがした。
だからだろうか、もっと話がしたいと思うばかりに彼女がフォークでケーキを切り崩し、口元に運ぶまで一連のしぐさを目で追ってしまうのは。
「……んっ、おいしいですーっ!」
かわいい!!
え、なに、この可愛さ。確かにここのケーキはすごくおいしい。だが、実際に作っているのはお店の人であって俺ではないのに、なぜかそんな俺でさえこの笑顔の前には心の底から嬉しさがこみあげてくる。
「気に入ってくれたようで良かった」
「はい。もう私はこのケーキにメロメロですっ♪」
俺はそんな君にメロメロになりそうだよ……。
「あの」
彼女の持つショートケーキが半分に差し掛かろうとした時だった。
とつぜん彼女はフォークを置き、こちらを上目遣いで見つめる。
「私ばかり食べていますが、その、あなたは食べないのですか?」
「ん、俺?」
「は、はい。さっきから私の食べるところを見ているだけなので……」
「いや俺は別にいいよ。食べようと思えば食べられるし。それに今日はそれしかなかったからさ」
「えっ? わ、私そんな大切なものを……」
「これは俺が君に食べてほしくて買ってきたから気にしなくてもいいよ。それに二つあったとしても今日はそんなに持ってなかったし」
「ですが……。あっ、でしたら」
「ん?」
なにか思いついたようで、ショートケーキとフォークを手に取り、そのまま食べやすいように一口サイズに切ると、
「どうぞ♪」
「……えっ?」
一切のためらいなく、そのまま俺のほうへと差し出してきた。
しかもさっきまで彼女が使っていたフォークでだ。ここで間接キスがどうだとか言ってる時点で童貞丸出しなのはわかってはいるが、それでも意識してしまう。
なにせ俺には女性経験など皆無だからな。
……なんだか自分で言っていて悲しくなってきたけど。
「もしかしてご迷惑でしたか?」
「あー、その、俺的には嬉しいけど、その、君はそれでいいのかなって」
「はい。構いませんよ」
いい笑顔で返答されてしまった。流石にここまできて拒否するのはできないよなぁ。
「わかった。一口だけいただくよ」
「はいっ」
俺は覚悟を決めて差し出されたケーキを頬張る。
うん、おいしい。やはりケーキと言ったらここ一択といっても過言ではないほどに美味しい。
「どうですか?」
「……おいしい、です」
「ですよねっ! はむっ、んんー!!」
俺が一口食べたのを確認すると待ちきれなかったように彼女はそのままケーキを口へと運ぶ。
そんな様子を見ていると一人で間接キスがどうとか考えていた自分が恥ずかしくなってきた。
「はむっ、おいひいです」
「ははっ。どう? さっきまで悩んでいたことが少しは和らいだでしょ?」
「そう、ですね……。確かに少し軽くなった気がします」
とびきりの笑顔、というわけではないが、それでも彼女はまるでこのケーキのような柔らかくて優しい笑みを浮かべた。
と、そこでふと何かを思い出したように、彼女は俺に尋ねる。
「ところで、そちらもため息をついていたみたいですが……」
「あぁ、俺は多分だけど、君のに比べればそんなに重くないよ。好きだった……いや、心の支えの一部になっていた人がいてね。といってもその人はブイユーチューバーで俺なんか何千人もいるうちリスナーの一人なんだけど。その人が急にお休みするって動画を上げてね」
「…………えっ」
「びっくりするほどしょーもないでしょ? でも俺にはそうでもなくてさ、確かに最近は少しばかり遅れてきた感じはあったけど、それでもこの子はまだまだ伸びる! そう思って毎日楽しみにしていたから」
「えっと、ちなみにですが、その人の名前とかって……」
「ん? 天野かいりだよ。白い猫をモチーフにしたキャラを使ってる人なんだけど」
「そ、そうなんですか……。ちなみにですが、どこが良かったとかってお聞きしても?」
「全然かまわないよ! というか、いつか誰かに熱弁したいとさえ思っていたくらい! 頑張ってる感あるし、ゲームも上手で歌もうまい。あ、でもホラーゲームの時はビビッてなかなか先に進まなかったりしてたけど、それでも少しずつ進めてなんとかクリアしたときは俺感動して泣いちゃったりして……あっ」
「……」
やってしまった。彼女のほうを見ると、引いてしまっていた。
……ダメだな俺は。昔にも同じようなことをしたじゃないか。
「あ、あの、実は私も好きです」
「えっ!?」
「天野かいり、さん」
「あ、あぁ」
なんだそっちか。いきなり好きだなんて言ったから今度はこっちがびっくりしてしまった。
「その、ホラーゲームのときに色々書かれていて、それであまり話題にしたら……って怖くて」
「あー」
確かにホラーゲームの実況動画だけはやたらと低評価が多かったっけ。
とある動画企画の罰ゲームとしてやることになった、ホラーゲーム実況だったが、ビビりすぎてうまく進まずコメント欄で荒れたこともあった。
「それでも俺はきにしてないかな。逆に色々なゲームをやっているかいりが露骨にホラゲーだけやらない理由も知れたし。何よりかわいかった」
「そ、そう、なんですか」
「まあそんなこともあったにはあったけど、それでも俺はかいりが戻ってきて、本気を出せばすぐに時代が来るって信じてる」
「……ありがとう、ございます」
「えっ?」
「あ、いえ、私の好きなブイチューバーさんを褒められてうれしくなっちゃって。……くちゅん」
「ごめん話過ぎた! 寒いのが苦手って言ってたのに」
近くにあった時計を見てみれば時刻はすでに19時を回っており、比較的寒さに強いと思っている俺でさえ、自覚してしまえば寒くなってきたと感じるくらいだった。
「気にしないでください。私も、お話ができてうれしかったので……」
「えーっと良かったら家まで送ろうか? 遅くなっちゃったし」
「心配しなくても大丈夫ですよ。カーディガンを取りに行けるくらいには、近くにあるので」
「そういえばそうだったね」
すると彼女は立ち上がり、
「今日は、その、色々とありがとうございました。私の好きなお話ができたり、悩みまで解決してもらって……。よかったら、でいいんですが、また別の日にこうしてお話しませんか?」
「そ、それはいいけど……」
「やったぁ。では今度は私のおすすめのケーキご馳走しますね。あ、でも連絡先とか交換していたほうがいいですよね? ラインとかやってますか?」
「もちろんやってるよ」
「なら、こうして……。はい、QRコードです」
「う、うん。じゃあ登録するね」
なにがなんだかわからないまま、彼女のスマホに表示されているQRコードを読み取る。
すると、自分のスマホには彼女のアカウントであろう『ひかり』の文字と彼女のペットらしき白猫のアイコンが。
「これであってるかな?」
「はい、ばっちりです♪」
ここにきて彼女の笑顔に更にドキッとさせられてしまう。
とはいえ、俺のスマホに家族以外はじめての女の子の名前が登録された。
「立華さん……」
彼女は登録されている俺の名前を何回か復唱する。
「立華さん、今日は本当にありがとうございました。また連絡しますねっ!」
「う、うん。こっちもひかりさんから連絡くるのを楽しみに待っているね」
彼女、ひかりさんは嬉しそうにはにかみながら、最後にお辞儀をして去っていった。
「……というか、さらっとひかりさんって呼んじゃったけど大丈夫かな」
でも彼女は嫌な顔はしなかったし、なにより彼女の苗字なんて知らない。
「まあそれは今度連絡があったときにさりげなく聞いてみればいいか……」
はたして俺にそんなことができるのか、その問題は今は触れないようにしよう。
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