第10章 信頼と裏切りと③
廃工場に入ると、襲撃に備え俺達は銃を構えながら前進した。
(…まさかこんな事をすることになるとは、一ヶ月前までは想像すらしてなかったな。)
狭い通路を通って扉を潜ると広い部屋に出た。以前はここで大勢が働いていたのだろう。
部屋の真ん中で、男が目隠しされ、椅子に座らされている。
口には猿ぐつわに手足は結束バンドで拘束されていた。
間違いない、間中だ。
俺が注意深く近づく。
「んー--っ」
気配に気づいたのか何かを言っている。
猿ぐつわを外してやった。
「-!皆、だめだ!ここは囲まれてるよ!」
…やっぱりか。
バン!!
一斉に電気が付いた。
「諸君、ようやく会えたな!」
二階の踊り場を見るとスーツ姿で小太りなサングラスをした男が一人立っていた。
ん?コイツどこがで見たことがあるような…
あ!コイツ外務大臣の!
「てめぇ、外務大臣の大倉だろ!」
小太りの男は仰々しく両手を広げた。
「光栄だよ、君達のような若者に知っていてもらえるとは。」
「うるせぇ!研究所で偉そうにしゃべってたのもてめぇか!」
「そうだ。」
「テレビで見ていた通り…あなたはやはり賢い人ではないようだ。」
林さんの言葉に大倉はサングラスを外した。
「ほぅ。どうしてかな?」
林さんは自分のヘルメットを差した。
「ここにカメラが付いていますし、そのままライブで本部に送信されているのを知りませんでした?」
「なるほど。では君達のカメラがしっかり動いていることを切に願おうじゃないか。」
…何?
「黒衣さん!ここは妨害電波が出ていてカメラが役に立ちませんよ!」
間中が叫んだ。
「なるほど、それであのおっさんは余裕なんだな。」
「だが、君達が生きて帰ると少々厄介だ…」
大倉はそう言うと、スマホをいじりだした。
ガタンッ!!
何かが倒れる音がすると、ゆっくりと何かが這い出てきた。
「_ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙…」
化け物の群れだ。
(くそっ!軽く50体はいるぞ…)
「…あんたのせいでどれだけの人が犠牲になったの?」
「お嬢さん、この国のためなのだよ。彼らを使って他国の驚異となる指導者を潰せば本当の意味での平和が訪れるじゃないか。」
「本当の意味?殺すことが?」
「ふん、君達にはわかってもらおうとは思っていないがね。」
こうしてる間にも化け物は迫ってきている。
「クレア、もういい。数が多すぎる、一旦退くぞ。」
?!
クレアが俺の手を振り払った。
「…絶対に許さない…っ」
「え?」
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
なんだ?!
クレアの叫び声に呼応してドーム型の障壁が俺達を大きき包み込む。
次の瞬間。
バリィィィィィィン!!!!!
障壁がものすごい勢いで割れ外側に向かって破片が飛び散る。
?!
砂ぼこりが収まり、周りを見ると化け物は消え失せており、クレアは気を失っていた。
…すごい。これがクレアの本当の力か。
俺の力よりよっぽど危険なじゃないか…
「クレア!大丈夫か?!」
俺が彼女を揺り起こす。
「あ、晃。…どうしたのこれ?」
「覚えてないのか?」
「すごく頭に来て怒った所までは覚えてるけどその後の事はわかんない…」
「そうか、もういい。話しは後だ、脱出するぞ!」
「黒衣さん!!」
林さんが二階の踊り場からこっちを見ていた。
俺達も林さんの元へ行った。
「このオヤジまだ生きてるな。」
大倉は全身に細かい傷はあるが、致命傷には程遠いようだ。
「こんなことくらいで気ぃ失いやがって。」
「黒衣さん、城田さんが言うように誰も信用できないなら、本部に連れていくのは危険じゃないですかね?」
…確かに。
「じゃあ僕の家に来なよ。江東区だからそんなに時間もかからないでしょ?
パパとママは海外にいるし、家の中はハイテクの巣窟だから拠点にするならちょうど良いと思う!」
パ、パパ?ママ?
…ここは本当に日本か?
間中の家に着くと、広々とした二階建て戸建てで、いわゆる豪邸の部類に入るだろう。
「ここに大倉を閉じ込めておく部屋なんてあるのか?」
「あぁ、地下室を使ってよ。電波も遮断するしwi-fiも入らないから安心だよ。しかもカギは外からしか開かないから。」
…そんな部屋、なんのために作ったんだ。
俺と林さんの2人で、気絶している大倉を運んだ後、リビングでようやく一息付いた。
俺は間中に許可を取りたばこを吸いながらこれからのことを考えてた。
「晃、これからどう動くの?」
「信用できるのはここの4人と、本部にいる徹くらいか。捜査官も怪しいものだしな。」
「城田さんも当分は入院でしょうしね。」
「とにかく、大倉のスマホは手に入れたから、何かないか調べてみるよ。」
「あぁ、頼む。」
「後、相良さんを呼ぶなら無線式のイヤホン持ってきてもらって。本部が信用できないなら僕らだけでも情報を共有しなきゃでしょ。」
そういって、間中は二階へと上がっていった。
ヤツが起きたら尋問開始だ。
リビングに置いてあるPCに大倉がいる地下室の映像が流れている。
よく寝るヤツだ。
プルプルプル…
電話か。
着信は徹からだ。
「どうした?」
『どうした?じゃねぇよ!出ていったまま何の報告もねぇじゃん!!』
…あ、報告忘れてた。
「わりぃ、バタバタしててさ。間中は無事保護したし、黒幕っぽいおっさんも捕まえてここに拘束してる。座標送るからお前もこっちに来てくれ。」
「それと、無線式のイヤホンを4つ持ってきてくれると助かる。」
「…わかった。すぐ行く!」
うーん、怒ってんなアイツ…。
程なくして、徹が到着した。
「それで?一体どう言うことなんだよ。」
間中の救出や大倉大臣の事を全て話した。
「なるほど、大倉が起きなきゃ瀬戸さんも助けられないし、化け物の事が今どうなってるかもわからないってことだな。」
「あぁ、そういうことだ。」
「そうか、なら…」
バシッ!
徹が立ち上がり、休憩で一階へ降りてきていた間中の頭を叩いた。
「痛!!なっなんですかいきなり!」
「あ、わりぃ。俺、金持ち見ると無性に叩きたくなるんだよ。」
「め、めちゃくちゃな人ですね!」
そういうと間中は俺の後ろに隠れた。
…お前は小学生か。
「徹もそれくらいにしろ。間中のお陰で俺達も安心して作戦をたてられるんだからな。」
「…わかったよ。」
俺は監視カメラの映像に目を向けると、ようやく大倉が起きたようだ。マイクの音をミュートにされているのか、なにも聞こえないが、何やらカメラに向かって叫んでいるようだ。
対応の為俺と徹が地下室で尋問すること担った。
最初こそ大倉は威勢がよかったが、それも長くは続かなかった。
「霊体兵器(奴らは化け物をそう呼んでいるらしい)の製造はもうしていない。原料となる人間がしばらく届いていないからな。」
人間が届くだと?
「協力者がいるのか?」
「…」
「残りは後、何体いるんだ。」
大倉は首を振った。
「…さあな。」
「徹、クレアを呼んできてくれ。」
「…クレアだと?あ、あのときの娘か!」
あの爆発がよっぽど怖かったみたいだな。良い気味だ。
「わかったからやめてくれ!!
協力者のことは私は詳しく知らん。和田に任せてあったが、その和田がここ数日連絡が付かんのだ!」
「徹…」
「嘘じゃない、本当だ!」
「なら、化け物の数は!」
「残った個体はあと10体そこそこだ。まだ基地の装置に入ったままだ」
「嘘だったらわかってるだろうな?」
「嘘じゃないと言っているだろう!」
ピピッ
さっき受け取ったイヤホンから着信だ。
「なんだ?」
「間中だけど、大倉のスマホから和田の居場所を追跡できたよ、端末に送るね。」
「ああ、助かる。」
俺はスマホを見ると、地図上では川崎にある埠頭のコンテナ倉庫近くの建物だ。
「皆出動だ。」
「俺達こんな人数で大丈夫なのかよ?」
林さんが運転する車内で徹が不満を漏らした。
「ぶっちゃけキツいだろうけど、何処に敵と通じてるヤツがいるかもわからんからな。」
「それにしてもよ…」
「相良さん、着いたみたいですよ。」
「みんな、準備を怠るなよ。」
…見張りはゼロか。
「ここに和田って人がいるのかな?」
「わからん。少なくとも和田の携帯はあるはずだ。」
「それじゃ意味ねぇよな。」
「携帯だけでも間中さんがいれば有益ですよね。」
俺達は隊列を組ながら慎重に建物の入り口まで進んだ。
…電子ロックか。
俺は耳に装着しているイヤホンのボタンを押す。
「間中、電子ロックだ。そっちから開けられないか?」
「もうやってる。ちょっと待ってて。」
優秀にはちがいないんだけどな…
「開いたよ!」
ピピッ
ガチャッ
扉が開いたようだ。
建物の中に入ると薄暗く雑然としていた。
以前はこの建物の窓にはガラスがあったであろうその残骸がコンクリートの床に散ら張っている。
潮の匂いと共に、錆びた鉄のような臭いも感じた。
…これ、血の臭いだな。
ライフルに装備されたフラッシュライトで周囲を探索すると、数人の武装グループの死体と、武装をしていない50代くらいの男の死体があった。
俺はスマホでその男の写真を撮影して間中に送った。
ピピッ
早くも間中から着信のようだ。
『画像届いたよ。すぐ照合するから待ってて。…おっと、もうわかったよ。誰だと思う?』
「いいから、早く教えてくれ。」
『…なんだよ。和田外務副大臣だよ。』
「だろうな。だが、そうすると黒幕は誰なんだ。」
『難しい質問だね…ねぇ、その建物の中にもう一人いるよ!』
「了解。どこだ?」
『そのまま南に向かって。』
「晃!あれ!!」
…あれは!
クレアの指を追うと、椅子に座ったままの瀬戸さんだ。
「大丈夫ですか!瀬戸さん!」
俺は彼女に急いで近付いた。
…?!
不意に風を切る音が聞こえ、反射的に後ろに飛び退いた。
『晃!』
「黒衣さん!」
クレア、徹、林さんの声が同時に響いた。
「…大丈夫だ。」
俺がさっきまで立っていた場所には化け物の手が張り付いていた。
これは一体…。
「ふふ…惜しかったですね。」
瀬戸さんはゆっくりと立ち上がった。
「…これはどういうことですか?」
瀬戸さんはいつも通り穏和な笑みを浮かべて、こう言い放った。
「ようやく私のところまで辿り着きましたか。待ちくたびれましたよ。皆さん。」
瀬戸さんは背筋が凍えるような視線を俺達に向けた。
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