生放送は滞りなく

 そう現実はこうだ。


「キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」

「早く変身しろぉぉぉ!」


 回し蹴りの勢いで回転し、飛んでいたコウモリにめり込ませた右足を軸に空を舞う。

 急降下してホリィを襲おうとしていたコウモリを、跳んだ勢いを利用してバレーボールのスパイクのように叩き落とす。


「キッキッキィ! ぐだぐだおしゃべりしやがって!」


「俺もヴィランと同意見だ! 早く変身しろぉぉぉぉ!」


「やはり……分かり合えないのですね」


 激しさを増すコウモリの猛攻。

 変身せずに済む戦いなどないとホリィは悲しそうな瞳を浮かべたあと、決意に満ちた表情で右腕を高く掲げた。


「ご覧ください! とうとう世界展開リアライズを発動するようです!」


「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーー!!!!!」」」」」


 この時ばかりは期待の声と飛彩の咆哮が重なった。


世界展開リアライズ! コネクト、聖なる未来へーーーーーー!」


 一匹のコウモリを掴み、光の柱の範囲外へと飛んでいく飛彩。

 ホリィを取り囲もうとしていたコウモリは光の柱、さらにそこから発せられた展開力によって一気に消滅していく。


「これがホリィ氏の変身! すごい! すごすぎます! あの聖なる白い光からファンタジーな幻想空間が広がろうとしています!」


 自分を運ばせたコウモリを切り落とし、地面に着地した飛彩はホリィの変身に五分かかることを思い出した。

 これをどう誤魔化すのだろうか、と思った瞬間に蘭華が務める偽リポーターは叫ぶ。


「それでは一旦コマーシャルです!」


「それでも二、三分しか稼げねぇだろ……」


 画面の向こうの人間は騙せても、この場にいるテレビクルーは欺けないだろうとホリィの後方にいたクルーを眺めると呆然と立ち尽くしていた。


「彼らはバイザーからの電気信号で気絶と同じような状況に陥っている。つまり逃げも隠れもしない」


「おい! そういうことは早く言えよ!」


 テレビクルーへと群がろうとするコウモリの群れへとヘリコプターから銃撃が飛んだ。


「飛彩! こっちは全員関係者だから安心して! この人たちも私たちで守る!」


「ありがてぇ! サンキューな蘭華!」


 ヒーロー以外の警護を蘭華たちに全て任せ、光の柱に群がるコウモリへと腰に携えていたハンドガンで狙い撃つ。


「オラオラ! 今度はこっちが相手だぜ!」


 ワザと個人領域パーソナルスペースを解除して、ヴィランの注目を集める飛彩。

 光の柱の前へと躍り出た飛彩は飛来するミサイルのようなコウモリたちを次々と切り飛ばし、撃ち抜いて黒い灰へと変えていく。


「キィ? 何だお前は……?」


「こいつが戦いやすいように頭数削らせてもらうぜ?」


「キッキッキ! 面白い! 餌の反抗を楽しませてもらおう!」


 他の人間へと回していたコウモリも飛彩へと集中させていく。

 好都合だと言わんばかりに制限から解き放たれた常人離れした戦いを天とヴィランへと披露する。


 ヒーローを陰ながら守る戦士の戦いは誰にも届くことはないのだ。

 飛彩の視界にも新しいおもちゃや、なりきりセットのコマーシャルが流れてくる。

 さらにはホリィや他のヒーローが務める飲食物などの宣伝が滝のように次から次へと入り乱れた。


「あー、腹立つ。宣伝が終わる前に全滅させてやろうかなぁ?」


「飛彩、お前本気でやる気だな? そんなことをすれば上層部が……」


「俺が知ったことかよ!」


 的確にコウモリを撃ち落としていく上に、その射線を潜り抜けてきた相手には目にも止まらぬ閃斬をおみまいする。


「これで終わりか? やっぱコウモリ怪人ってのは序盤に出てくる雑魚って決まってんだよ!」


「何だと貴様……!」


「当たり前だろ! そこそこ悪っぽくてそんなに強そうじゃないってなるとお前らみてえな雑魚がちょうどいいんだよ!」


「愚弄しおって……一滴残らず絞り尽くしてやる!」


 簡単な挑発に乗った親玉のコウモリヴィランは、飛彩を配下のコウモリたちで取り囲んだ。

 この同時攻撃を受けては間違いなく歯が立たないだろう。


「はっ、やっぱ動物の脳みそじゃ何もわかんねぇよな」


 だが窮地を脱したのはあまりにも単純な方法だ。

 飛彩は自分の進行方向のコウモリたちだけを切り刻んで包囲網を突破する。

 仕掛けられる前に仕掛けろ、というやつだ。


「何ぃ!?」


「置き土産……もらってくれたか?」


 凄まじい勢いで包囲から抜けて行った飛彩を追おうとするも、カランという金属音が手榴弾だということに気づいたコウモリたちは悲鳴を上げて方々へと散っていく。


 だが、全て逃げ切れるはずもなく爆風と共に大量の手下たちが黒い灰へと変わっていった。


「ほらみろ。テメェなんてヒーローのチュートリアル怪人なんだよ」


「黙れ……黙れ黙れ黙れぇ!」


 とうとう痺れを切らしたバイトバットの首領が飛彩へと突撃する。

 待ってましたと言わんばかりに小太刀二刀流へと持ち替え、首領を援護しようとするコウモリたちを引き裂きながら進んでいく。


 羽根を根本から落とし、飛べなくなったコウモリを鷲掴みにして他のコウモリへと投げつける。

 その行為に腹を立てた他のコウモリがどんどんと安直な軌道に変化し、易々と攻撃を読み切った飛彩が空中で死へと縫い付けていく。


「それ以上はやらせん!」


「おっと!」


 突撃からの羽根を利用した真空波。

 胴体がいとも簡単に真っ二つにされそうな攻撃を小太刀を滑らせるようにして飛彩は攻撃をいなした。


「キィイェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!」


 だがコウモリたちもまた狩人。真空波を囮にして再び飛彩を取り囲み、超音波を発生させる。

 脳を直接揺さぶられたかのような衝撃に飛彩はたまらず片膝をついた。


「ぐっ……汚ねぇぞ!」


「一口目は女にしようと思っていたがね……まずは貴様からだ!」


 配下達に攻撃を任せ、にじりよるバイトバット。

 常人なら発狂するほどの恐怖にも関わらず、飛彩は依然として番組をバイザー内に放送したままにする余裕があった。


 するとちょうどコマーシャルが終わったようで、再びこの場の風景が映し出される。


 大きく伸びた光の柱にドローンカメラが飛び込み、ホリィの変身している様子を映し出した。

 白い光に包まれたホリィの髪はより長くなり、かしこまった軍服のような服装がどんどん再構成されて魔法少女のようなフリフリの衣装へと変貌していく。


 何カットもあるような変身だけでも一分以上かかるのだ。

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