やっぱり試験は

やっぱり試験は

「あー……五月蠅い」


 酒が入った大声に、ラッパや太鼓などが鳴ったりでとても賑やかで騒がしかった。

 デルはうんざりした顔で耳を塞ぎながら歩いている。


「あ、いた。おーい」


 そんな人だかりを避けながらダンジョンの入口に行くと、アティウラとセレーネが見えたので声を掛けた。


「え、あ、勇者様!?」


「主様!?」


 俺とデルがあらぬ方向から現れて驚く二人。

 すぐさまセレーネが走り寄ってきて抱きしめてきた。


「おおう……」


「も、もう、罠にかかって消えたって本当に驚いていたんですよ。連絡の一つでもいれていただければよかったのに」


「あ、そっか。ごめん、一応大丈夫だったし、別件でちょっと忙しくて」


「別件? 仲間を不安にさせておいて?」


 アティウラがぷんすかと言った顔で怒っている。


「ごめんて、一同試験だから、それで直ぐにお姉ちゃんの力を借りるのはどうかなって」


「……そ、そう。お姉ちゃんは信じてた」


 アティウラはそれだけでご機嫌になり、いつも通り俺の頭を撫で始める。


「それで勇者様、一体なにがあったのでしょうか?」


「色々とあって簡単に説明するのは難しいんだけどね」


「お怪我とかは大丈夫なんですね?」


 セレーネは傷を確かめるように俺の身体を弄ってきた。


「ちょ……、だ、大丈夫だって」


 さすがに人の目が多い場所なので、二人の手を取っていったん離れさせる。


「それよりも俺とデルの試験は……」


「ごめんなさいっ!」


「むぎゅぅ!?」


 近くにいた女戦士がもう耐えられないと謝りながら抱きついてきた。

 鎧はほとんど溶けて無くなっていたため、お胸の柔らかさがなんともいい感じに……。


「ちょー!? あ、貴女! どさくさに紛れてなんてことをするんですか!」


 セレーネが思い切り突っ込んでいる。


「本当にゴメンね……。ごめんなさい」


「聖女様、破壊メイド様、申し訳ありません……今回の件私が説明します」


 ここまでかと真実を話し始める魔術師。


「ちょっと待って、その前に破壊メイドは止めて、お願い」


「分かりました。お話を伺いましょう」


「ちょ!」


「ありがとうございます。聖女様、パーティクラッシャー様」


「だ、だから! 私だけバカにしてない?」


 アティウラの通り名って残念なのばかりなんだな。


「ちょ、ま……待て……」


 魔術師を止めようとする盗賊、だがその手をアティウラが掴む。


「え、あの……」


「大事な話のチャチャを入れるな」


「……うわ!?」


 すると掴んだ腕をくるりと回転させて転倒させた。


「我が主に一体何をしたのか。事と次第によっては……覚悟して」


「うわぁ、大の男を片手であっさりと……、なるほどだから破壊メイドって言われるんだ」


「あら、貴女も同じ目に遭いたいんですか?」


「出来るかな?」


 デルとアティウラが軽く睨み合う。


「遊んでんな」


「あ、その前に! あの私達の……仲間……は? やっぱり……」


 女戦士が仲間と言うのに間があった。どうやら見捨てたと一応思っているのか。


「攻略した勇者一行と一緒に戻ってきていると思うけど」


「生きているんですね!?」


 噂をすれば影、急に周りがいっそう騒がしくなった。五月蠅いとばかりにデルが指で耳を塞いでいた。

 どうやら攻略パーティが戻ってきたらしい。


「勇者一行のご帰還か」


「あ、おーい!」


 一緒に戻ってきた俺様男が手を振りながらこちらにやってくる。


「やべえよ! すげえよ! すげえもの見たんだよ!」


 なかなかの低い語彙力である。

 しかも状況も空気が読めないこいつは一人興奮気味によく分からない話を続けている。


「あ……やはり、君達か」


 攻略パーティの勇者が俺に気が付いて近づいてくる。

 あんまり隠すつもりも隠れるつもりもないが、出来ればスルーしたいところ。


「あのときの2人は君達なんだろ?」


「えーっと、た、多分人違いじゃないでしょうか。僕等は駆け出しで最終試験の真っ最中ですし」


「で、でもだな……」


「は、なに言ってんだよ! お前等が……ぐえ!」


 デルが俺様男の脇腹に一撃を加える。


「まあまあ、本人が違うって言っているんだ。違うんじゃろ」


 困っている俺を見かねたのか、ドワーフのおじさんが勇者をたしなめてくれた。

 冒険者には訳ありが多い。何かと隠したい事情はお互いに不可侵が無言のルール。


「そ、そうか……どうやら早とちりだったらしい……済まない」


「いえ、気になさらないでください」


「ところで君も勇者なんだよね? 地球に帰りたくはないのかい」


「今のところは」


「……そうか」


 そういって勇者一行は去って行く。


「…………」


 去り際に一瞬だけ勇者の顔が恐ろしい形相をしているように見えたが、もしかして怒らせたかもしれない。


 一応玉さんの忠告もあるし出来る限り自分の能力は黙っておくに越したことはない。

 ましてやこんな沢山の人間が居るところでバラされたくはない。


「で……俺とデルは合格なの? 不合格なの?」


「いや、その前に何があったのかを話していただきたいのですが……」


「あ、そうだったっけ」

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