仮面の正体
仮面の正体<Ⅰ>
ダンジョンマスターの案内で裏道を歩いていた。
「よく強酸魔法とか知ってたね」
ああ言うのって炎や電撃とかと違い即効性では劣るので攻撃魔法としてはあまり好まれないような気がしていた。それになんか見た目がエグいし。
「あれは故郷で邪魔な石とかを退かすのに使ったりするの。まあ僕は魔力が足りなかったから使ったことはほとんど無かったけど」
なるほど、そういう使い方があるのか。
「むしろ、あんたのいつもながらのぶっ壊れ性能に驚かされるわ。一体どうやったらダンジョンを掌握するなんて出来るのよ」
「そこは色々とね……」
「色々ね……それにしても、本当に付いていっても大丈夫なの?」
「大丈夫だと思うよ」
「でも、このダンジョンのボスなんでしょ?」
ボスにしてはなんとも弱そうな感じだけどね。
それ以上にこの人に聞きたいことがあった。
それにこのダンジョンマスターは一見すると悪者のように見えるが、実はなにもしていないんじゃないかと考え始めていた。
「ダメだと思ったときは悪いけど頼むよ」
なんとも呆れたといったため息のデル。
「ふう……ここですよ」
そう言いながら彼は仮面を脱いだ……。
特になんてことはない。40代くらいの本当に普通の人間のおっさんだった。
案内された先は例のエレベーターのような部屋だった。そこに3人揃って入ると何処かに転送されたのだった。
「え、ここ……は?」
どこかの建物の中の様だが、外は人々の声で五月蠅かった。
「攻略されてしまったか……」
「ああ、残念ながらな」
「え、あんた……入口に居た……」
声を掛けてきたのはダンジョンの入口にいた案内役の人だった。
「え、どういうことなの?」
デルは意味が分からないと頭に“?”を浮かべていた。
このダンジョンの上に造られた小さな施設の店主やダンジョンの案内役など5人が持ち回りでダンジョンマスターをしていたのだった。
彼らはいずれもこの国の人間ではなく、ここよりも南の隣国“ロンロール”の人とのこと。
そこは大きな湖を中心とした小さな国家群で交易で経済的に潤っているという。そこは常々この国に狙われており、特に近年鉱山の産出量が減り一部の諸侯は南下政策を掲げているらしい。
もし戦争になれば国力差から自分達の故郷は一溜まりもないと困っていたところに、神の使いを名乗る変な人物がじゃあこの国にダンジョンを作るからそこの管理人となれと言われたのだとか。
なんで自分達がそんなモノをと当然最初は思ったが、ダンジョンが出来たことでいつそこからモンスターが溢れ出すか分からないため、南下政策が思うように進まないようになった。
「なるほどね」
この人達は、そうやって戦争を回避していたのか。
「でも、そんなんで戦争を回避出来るものなの?」
「我々はダンジョンマスターになったときにただ『ダンジョンを構えた奴が現れた』という噂を流しただけです」
するとちょくちょく冒険者が来るようになると強いモンスターがゴロゴロいると分かり、もしかしたら国に攻めてくるんじゃないかと為政者達は考え防備だけは整えた。
おかげで20年間何処にも攻めることは出来なかった。
「やっぱり、このおっさん達は何も悪いことをしていないんだな」
そう、国にケンカを売ったわけじゃない。ダンジョンが出来たと言っただけ。
「え、どうしてよ? このダンジョンで冒険者は沢山死んでいるんでしょ」
「別に冒険者達が勝手に群がってきただけだし」
徴兵されて嫌々戦っている兵士とは意味が全然違う。
無許可にダンジョン造ったって罪になるのか? でもこの人達が造ったわけじゃ無いし。
「彼ら冒険者は一攫千金を求めて、死ぬかもしれないと分かってダンジョンに入ってきたんだ。それで死んだとしても誰を責められる話じゃない」
そうダンジョンに入らなければ死ぬことはなかったんだ。
「それもそっか」
デルの方も一応分かってくれたらしい。
「軍隊を釘付けにしたみたいだけど、その実一度もモンスターが外に出たことは無いみたいだし」
「そうなんだ。モンスターは外に出られないようになっているんだ」
やっぱり。
「噂に踊らされ続けたってことね」
「でも君達は、どうやってメンテ用の道に入れたんだ?」
「さっきみたいに“探す”ってことに特化しているんだ。だから秘密の扉も見つけられたんだ」
仮面を被っていたおっさんはなるほどと納得したようだった。
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