真の友情
真の友情
「はぁはぁ……こ、ここまで来れば、とりあえず追ってはこないみたいだな……」
森に入ってしばらくして脚を止めると、オークは鼻の呼吸を荒くしながら後方を何度も確認していた。
「……はぁはぁ、ああ良かった。大将を助けられて」
ノールの方も荒い呼吸を整えようと適当な木に腰掛けた。
「な、なんで助けて、く、れた……の?」
「何を言ってんですか。最初にあっし等を助けたのは大将じゃないですかい」
馬鹿なことをとオークが平然とそう言ってのけた。
「そうですよ。俺っち達はあのとき死んでもおかしくなかったんですよ」
ノールも同様に助けるのが当たり前とばかりだった。
「だから大将がピンチなら助けるのが当たり前じゃないっすか」
笑顔で二匹。
「そ、そう……か……、ごめん……ごめんね……」
それは卿御洲にとって、たまたまでほんの気まぐれなことだった。
だが、この二匹はずっとそれに恩義を感じて付いてきてくれる。
彼らの友情と自分の浅はかさに涙が溢れ出してきた。
「ええ!? た、大将どうしたんですかい!? もしかしてどこか怪我でも?」
いきなり泣きだした姿を見て、オロオロする二匹。
「ううん、ち……違うんだ」
結局、女の子の愛を手に入れることは出来なかったが、本物の友情は既に手に入れていたのだった。
そう……僕は、他人じゃない誰かが近くに居て欲しかっただけだった。
僕はバカだった。もう既に手に入れていたのに、それに気付かなかったなんて。
「え、えーっと……そうだ。そういえば二人の名前ってなんて言うの?」
それすら知らなかったなんて、なんて薄情だったんだろう。
「え、俺っちたち魔物に名前なんてありやせんぜ。名前があるのは相当強い奴らだけです」
ノールは少し困ったような顔で額の辺りをポリポリと掻きながら言うと、オークも苦笑いをする。
「そ、そうなんだ……じゃ、じゃあ……それだと不便だから……、君はカツドン、君はホットドッグって呼ぶね」
オークにカツドンと名付け、ノールにはホットドッグと名付けた。
幾ら何でも安易で、どちら食べ物なのは如何なモノかと思ったが、ぱっと思いついたのがそれだったので勢いで思わず言ってしまった。
「え!? ええー!?」
二匹の魔物は大きな声を出して驚いた。
「え、だ、ダメだった?」
「い、いや、あっし等の様な魔物に名前を付けてくれるんですか!?」
「そ、そうですよ! 俺っち達は、普通のコモン種なんですぜ?」
どうやら魔物に名前を付けることは相当特別なことらしかった。
「で、でも、ないと不便だし……、ダメなのかな?」
「う、うう……ぐず……うおー!!」
ノールが遠吠えの如く天に向かって吠えた。
「ぶひぶひっ! ううおおー!」
すると今度はオークが鼻を鳴らしながら泣きだした。
「ど、どうしたの? な、名前を付けるのは、そ、そんなに失礼だったの?」
卿御洲はよかれと思って付けた名前が悪かったのだろうかと狼狽える。
それとも名前がふざけすぎたのかもしれない。
「じゃ、や、やっぱり……止めておく?」
「そんな! なんてことを!」
「そうでやんすよ! あっし等は凄く嬉しいんですよ!」
「俺っちは大将に一生付いていくっすよ!」
「あっしもです!」
どうやら相当嬉しいことだったらしい。
魔物は怒っても喜んでも吠えたり暴れたりするので、この辺りは判断がまだまだ難しいと思う卿御洲だった。
「わ、分かったよ。じゃ、じゃあこれからもよろしく……、カツドン、ホットドッグ……」
二匹はそう言われて、一瞬驚いて目を白黒させるが、直ぐに笑顔になった。
「はいっ、大将!」
「もちろんでさあ!」
その後一人と二匹は共に旅を続け、色々なところで出会いゴタゴタの種になっていくのである。
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