久々に登場した女神

久々に登場した女神

「あふっ……」


「眠そうだね」


「あっ、こ、これは……はしたないところを見せてしまいました」


 朝になって教会に行こうとセレーネに案内を頼んだら快く引き受けてくれた。

 だが、昨夜は遅くまで女子トークに花が咲いたらしく寝不足らしい。もちろん俺は先に寝たけどね。


「まあやっと人里にまで辿り着いたんだし、たまにはいいんじゃない」


「よろしいのでしょうか……」


「そりゃ聖女様と言っても女の子なんだし、同世代の同性が集まれば話が盛り上がるのも普通でしょ」


 まあその話の内容についてはあえて何も言わないでおこう。


「んふふ♪ そうやってわたくしを普通に扱ってくださるのですね」


 いつも拝まれたり崇められたりされている彼女にとって普通に扱われるのが特別なのだろう。


 ドガの村では教会が中心の方にあったが、ここでは教会は端の方にひっそりと建っており建物自体も小さいが、掃除は行き届いているようでぱっと見ではわりと綺麗であった。


「この教会には複数の神様が奉られております」


 小さな村で複数の教会を維持するのは難しいため複数の神を同居させているんだろう。


 そのまま彼女の案内で中に入ると礼拝堂としてはかなり小さめだった。

 俺は神々の像の中で女神の前で跪くと目を瞑って祈るようにして女神を呼び出す。


(女神様……出てこいや!)


「……どうなさいましたか、賢き勇者よ」


 聞き慣れた声がしたので目を開くと、そこは見馴れた何処までも広がる空間だった。


「面倒なんで、あのおっさんを呼び出してくれない」


「おっさんとはなんでしょうか?」


 融通の利かない女神に少しだけイラッとする。


「もうさ、そういう面倒なのは必要ないだろ。それともまた調子が悪くなっているのか?」


「いったいなんのことでしょうか?」


「そうくるなら仕方がない。俺が今持っている謎の光線銃は他の神様に相談してみることにしよう。ついでに何で知っているかも説明しないとならないだろうけど」


「ま、まて、待つんだ!」


 突如の声がするとアーモンド状の目をした小さな身体につるつるお肌のリトルグレイが現れた。

 しばらくぶりに聞くその声やはり渋くて格好良いものであった。こいつ声優とかやれば凄く人気でそうだよな。


「落ち着け、どうしてお前は様式美と言うのを分かろうとしないのだ」


「何が様式美だ。面倒くさくて女神に任せているだけだろ」


 感情エミュレーターを書き換えて、前よりは落ち着いた感じのおっさんになったが此奴らは不測の事態にとことん弱い。


「くそっ、一話で出番が終わったと思っていたのに……」


「俺だってお前等とは二度と絡みたくないって思ってたよ。だけどそうも言っていられないんだ」


 コンソールを使って件の光線銃の映像を映す。


「これなんだが伝説の武器とか勇者の持ち物じゃないだろ」


「……何故これが地上にあるんだ?」


「知るかよ! あるものはあったんだよ! これを使ってそれなりに高位の魔物とかテイムして悪さしようとしたのがいたんだよ」


「ナイス地球ジョーク! なかなか面白い冗談だ。これはデータベースにも登録されていないもので存在していいはずはずが……いやまて、そもそもなんでお前がそれを知っている?」


「俺が本物を持っているからに決まってんだろ」


「……どういうことだ? 一体何がどうしてそれが地上に存在しているんだ」


 おっさんは小さな腕を組み首をかしげる。相変わらず顔のパーツは一切動かないけどね。

 彼らは相当なことがない限り嘘はつけないらしいので、一応本当に分かっていないと思われる。


「レベルやステータスに回数まで制限のないテイムアイテムなんて下手なヤツの手に渡ったら大変な事になるぞ」


 それこそ魔王の手に渡ってみろ。バランスが大きく崩れて世界が一変してしまう。


「いや、この光線銃はそれだけのものではなく中のカートリッジを交換すれば他にも様々な使い方がある例えば、対象を分子レベルにまで粉々にする元々は削岩などが目的だが、これを生物に使うと勇者ですら復活不能となる」


「は?」


 まじか……、って何をさらりと恐ろしいこと言ってんだ。


「それ以外にも、生命維持の停止や麻酔と同等の昏睡などもあって……」


「分かった分かった。この光線銃の危険性は良く分かったから、これの弾切れとかはどうなっているんだ」


「あるぞ。たしか……10万発も撃てば切れるはずです」


 それもうほとんど弾切れおこさないってことだよね!

 じゃあ説明のカートリッジを使ったら理論上10万人くらい灰に出来ちゃうってことじゃねーか。


「とにかく、こんなものが出回ったら世界が変わるかもしれないだろ」


「大袈裟だな」


 なんでコイツはこう……本当に管理者なのか?

 いや、こいつらは星に起こる事柄など全く興味を持たない。


 そのくせ事が自分の責任に及び出すと急に慌てるけど。


「お前達の言うところの上位の存在に怒られないのかよ」


「……ぬっ、厳重注意は言い渡されるかもしれない」


 それまであまり感じられなかった感情が表れる。

 だが彼らは基本的に顔の形が変わらないので、そこから読み取るのは難しい。


「怒られるだけかよ」


「場合によっては今の管理者全てが罰せられ感情エミュレーターを書き換えることになるだろう」


「それでもいいのかよ」


「……困る」


 前のおっさんと同じで書き換えられる恐怖というのは同じく存在するらしい。


「結局はそうなんじゃねーか。たまたま見付けたのが俺だったからよかったけど、アイテムの管理くらいちゃんとしておけ」


 本当になにをやってんだか。


「これ以外にも無くなっているものがあるかもしれないから全部チェックしておけ。伝説の武器なんて玩具に見えるレベルの代物なんだからさ」


「了承した。今すぐに調べておこう」


「それでこの光線銃はどうすればいいんだ」


「物体の転送はポータルでないと出来ない。だからポータルまで運べ」


「運べ? 俺は荷物運びじゃねーぞ」


 だが、おっさんは黙ったまま微動だにしない。

 こいつ、そうやって黙っていれば何とかなるって思ってないか。


「はぁ、面倒くさいから、他の神様に頼んでみるか」


「ちょ! ま、待て! た、頼む……運んでくれ」


「運んでくれ?」


「お、お願いします。ポータルまで運んで……く、ください……」


 ここで声が小さくて聞こえんなと言いたかったが、このおっさんはあまり追い込むと後が怖いのでこれくらいで引いておく。


「分かった。その代わり俺の武器をくれ」


「クレクレ厨は逝ってよし、お前は自身の武器を持っているはずだ」


 うわ、なんつー古いネット用語使ってんだ……。


「い、いや落としたていうかなくなったんだよ」


「アイテムの管理くらいちゃんとしておけ」


「ぬぐっ……」


 意趣返しを喰らってしまった。

 仕方がない。今回は諦めよう。


「俺の武器って回収は出来ないのか?」


「お前自身がポータルで紛失を届ければ戻ってくるはずだ」


 なにそれ、すげえ便利じゃねーか。

 よし決めた。ポータルに向かおう。そしてマイ武器を取り戻そう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る