今夜の寝床
今夜の寝床
「ふう……こっちのサウナもなかなか良かった」
サウナを出て冷たい風にあたってクーリングをしては、また灼熱の小屋に入っては汗を流す。
それを3度ほど繰り返した後、冷水を被って身体を拭くと凄くスッキリとした。
アティウラもサウナは結構好きらしく、燃料となる薪などが結構高くて結構な贅沢らしいが、身なりは気にしないと職を失うとかで街に居るときは数日に一度は入っているとのこと。
「さてと、どうやって寝るか」
二人で寝床となるテントに戻っていた。
それほど広くはないので二人で入ると結構手狭である。
今はまだサウナの余韻で身体が温まっているが、夜は寒いのでテントの中に入ってさらに寝袋にくるまって寝ないと凍えるかもしれない。
だが少しだけ問題があった。そう寝袋が一つしかないのだ。
「慣れてるから気にしないで」
彼女の言うとおりだろう、俺よりも身体的にタフな造りをしているはずだ。
それは分かっている……分かっているけど……。
「やっぱりお姉ちゃんが寝袋使って、明日の重労働を考えたら少しでも休めるようにしないと」
その言葉に彼女は鳩が豆鉄砲を食ったよう顔をして俺を見ていた。
「あ、あれ、俺何か変なことを言っ……むぎゅ!?」
「……可愛いっ!」
なんか思い切り抱きついてきた。だが今回は固くない。凄く柔らかいお姉ちゃんだった……だったが力一杯抱きしめられるとさすがに……。
「いや……ちょ、ちょっと……ぐ、ぐぐぐ……ぐるしぃ……」
「あっ、ごめんごめん」
こ、これがアマゾネスの腕力か。気をつけないと殺されかねないな。
「気持ちだけで十分」
「だけど、これからもっと寒くなるし」
「主様の方が凍えるでしょ」
アティウラは寝袋の感触を確かめつつ、俺のことを見ながらそう言った。
確かに10代の俺はヒョロくて体脂肪率も低くて寒さにめっぽう弱い。実際あれだけサウナに入ったのに既に少し寒くなってきている。
「……これなら二人とも入れる……よっ」
「はい?」
アティウラはそのまま寝袋の中に入ると広さなどを確認していた。
「凄く暖かい……これなら二人で入れる」
寝袋に空間を作って、ポンポンと誘導してくる。
「そ、それはさすがに、は、恥ずかしいって」
「そういうのは明日があるから我慢して」
その言い方だと明日以外は問題ないって言っているようなのですが、お姉ちゃん。
「身体が冷える前に入って」
彼女の言っていることは確かに間違っていないが、だが俺の理性の方は間違っていると感じている。何故ならまだ出会って一日も経っていない男女が同じ寝袋で寝るなど普通ではない。
「……やっぱり私じゃ嫌……だよね」
ごそごそと寝袋から出ようとするアティウラを思わず手で制してしまう。
「分かったってお姉ちゃんの言うとおり、これだけの寒さだと身を寄せて寝た方が良さそう」
するとアティウラはだよねと笑顔で寝袋を開いて出迎えてくれる。
意を決して中に入ると既に彼女の匂いが充満していて、全く落ち着けそうになかった。
なんとか二人入るとやはり狭く、どうしても身を寄せアティウラは横に向いて俺に抱きつくような形なった。
「うん、暖かい。じゃあお休み」
「あ、うん、おやすみ」
何か余計なことをしてくるかと思ったが、そのまま目を瞑ってしまった。
それにしても直ぐ目の前にアティウラの顔があるのが気になってしまうし、身体が結構密着しているので彼女の柔らかな感触と温もりがなんともソワソワしてしてしまう。
確かにアティウラの体温のおかげで寒さは感じないけど、現代日本に比べて人間の距離が近すぎて本当に戸惑ってしまう。
俺は今夜、少しでも眠れるだろうか。
直ぐ目の前のアティウラの寝顔をこっそりと見る。長いまつげに筋の通った鼻、本当に綺麗な顔をしている。
こんなに綺麗なのに家事も万能で、戦闘も凄く強いなんてどんなチートなんだろうな。
まあちょっとポンコツだけど。
それにしても今日は一日歩き通しだったな。大きな虫に追われて川には流されるし、挙げ句にトロルの襲撃で対峙する羽目になったりとなんとも忙しくて怖い一日だった。
あ、やべえ……一日を振り返り何度も身体が命の危険があったことを思い出したのか指先が自然と震えてきた。
その時その場ではアドレナリンが出ているからか恐怖を感じるよりも先に行動に移ってしまうが、こうして寝る直前になると思い出したかのように身体が恐怖で震えだす。
やばい……いつもならセレーネかデルに抱きついたりして震えを抑えているが、出会って一日も経っていないアティウラにさすがにそれは出来そうもない。
しても怒らないような気はするけど、女性ってここまでOKでもそれ以上はNGとかのボーダーが分かりづらいから変なことはしない方が吉である。
「……あ」
その震えが止まらない手に彼女の温かな手が重なった。
「恐怖は弱者の証じゃない……それを感じなくなったら戦場であっさり死んでしまう」
アティウラは俺を引き寄せるように抱きしめてきた。
「ありがとう……」
「お安い御用。このくらいならいつでも」
全くこの程度のものじゃないんだけどね。でも……確かにこの温もりと柔らかさ……癒されていくと同時に意識がなくなっていくのだった。
辛うじて薄らと月明かりが差しているが、脚元は何も見えない中を彼は歩いていた。
「ふう……」
毛皮に身をくるんで寝ていたが目が覚めてしまった。
それに寒さからか、どうにもトイレが近い。
「寝る前に少し水分を取り過ぎたのかも……」
オークが何度も温かいお茶を出してくれ、あまり美味しくはないが寒いからかどうしても飲み過ぎてしまったようだ。
ぐちゃ……。
「え……」
トイレを終えて寝床に戻る最中に何か柔らかいものを踏んでしまう。
嫌な予感しかしなかった。だからあえてそれが何かを考えないようにした。
「うえぇ……くっさ!」
だが踏んだことで臭いが余計に出てしまい、たまらず吐きそうになってしまう。
「もう……なんなんだよ、勘弁して……」
その後闇夜の中、必死になって臭いの元を擦り落とそうとするが、それが終わる頃には空は白み始めていたのだった。
「なんか僕の扱い酷くない?」
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