騎士様、それは……
騎士様、それは……<Ⅰ>
「これはこれは騎士様方、この様な辺境にわざわざお越しいただき誠にありがとうございます」
馬に乗ってやってきた3人の騎士達は村の中央辺りで止まっている。
旦那様が慌てて騎士達の元に行くと丁重な挨拶をして出迎えていた。
外の声がした後、全員が屋敷から出て行ってしまったので俺とアティウラも状況を見ようと外に出ていた。
外はすっかり暗くなっていたので俺は魔法のカンテラを取りだしてそれを照らす。
「それ凄く明るい」
「魔法の灯りなんだ」
へえ、とアティウラは興味深げにそれを見る。
「騎士様! 騎士様ー!」
全身甲冑の3人は軍馬に跨がったまま歓声で出迎える村人達に手を上げて応えている。
真ん中に女騎士……そして男の騎士が二人。
んー、んー!? あれ……あ、あの三人てどこかで……。
三角がなんとかの騎士達じゃねーか!
「何故この様な辺境の村に起こしに?」
旦那様はなんとなく強ばったような声で騎士に話を聞き始める。
「うむ! 我ら3人は巨悪を倒すために諸国を巡っている最中だ。お前達何か困りごとはあるか?」
「なんという行幸! 騎士様、是非ともお願いしたいことがあります! 実は魔物が村の近くに現れておりまして、難儀しているのです」
「そうかそうか、ならば我ら3人に任せるが良い」
まじか!? 戦う相手も聞かずにあっさりと引き受けたぞ……というか旦那様も分かっていて“魔物”って言い方しやがったな。
「ありがとうございます! で、ですが報酬のほうは如何ほどをご用意すれば」
「我らは君命により臣民の為に戦えと言われているのだ! 当然報酬などいらん!」
「なんと! さすが騎士様です!」
マジか……、さらに無料って大丈夫なのか。
「それで魔物はなんだ? コボルドかゴブリン……それともオーク辺りか? まあなんであろうと我らにかかればモノの数ではないがな」
だからゴブリン舐めんな! そうやって舐めてかかった初心者パーティは全滅するんだぞ!
お前なんて油断して、大変な目に遭うのがオチなんだからな!
「さすが騎士様! ここに向かっているのはトロルでございます」
「トロル? 今、トロルと言ったか? オークやゴブリンの間違いではなく?」
「はい、トロルにございます」
それまで自信満々だった女騎士の顔が一瞬して素に戻り、周りで見ている村人からも笑顔が消えた。
だが村人達はずっと騎士達を見ていて、3人の騎士は目線を合わせようとせずにいる。
「そ、そうか、ま、まあトロルは久々故少し驚いたが……だが我ら三人のトライアングルフォーメーションは無敵だ! トロル如きに遅れはとらん!」
「さすが騎士様! 亜人の冒険者とはえらい違いだ!」
「ま、任せておくがいい……」
引くに引けなかった女騎士はあきらかに勝てない相手に勝てると言い切ってしまった。
ちなみに後ろの二人の顔は引きつっているように見える。
「よし、ではお三方を寝屋まで丁重にご案内しろ。簡単な宴席もご用意致しますので今夜は我が屋敷にお泊まりください」
3人の騎士を旦那様は自分の家へと案内し、俺達を無視するように横切っていった。
ふむ、どうやら俺とアティウラはお役御免になったみたいだ。
「はぁ……全く、それならそれでいいけどさ」
散々揉めた挙げ句に結局他の人間が来たことで何も言わずにお払い箱な扱いにされ深めのため息が漏れた。
「大丈夫?」
「あ、うん……なんか俺のせいで色々と話が拗れちゃってごめんね」
「こんなのよくあることだから」
俺の言葉に、アティウラは笑顔で返してくれた。
「むしろ……ありがとう」
今日何度目になるか分からないアティウラの手が俺の頭を撫でた。
「だってお姉ちゃんは危ないって忠告までしたのに……、あの態度はないって!」
それにしてもなんて現金な連中なんだ。騎士達が来たからって彼女に支払うのが惜しくなったのか何も言わずに鞍替えとは。
「失礼すぎだろ。お姉ちゃんに一言くらいないのかよ」
「彼らは身勝手だから」
見た目の差なんてほとんどないのに人間は亜人を下に見ているってのはこういうことか。亜人相手ならどんな礼儀を欠いても問題ないってか。
なんか妙に腹が立ってしょうがない。
……いや、こういうときこそ冷静にならないと。
「そうだ。この後はどうしよう」
既に日が完全に落ちているが、この村に宿屋のようなものはなさそうだった。
朝になって二人を迎えに行くことにするとしても今夜はどこで過ごさないとならない。
雑嚢にはテントが入っているので、それを何処かに設置すればいいか。
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