この世界のメイドさんは戦えるのか

この世界のメイドさんは戦えるのか<Ⅰ>

「ううっ……、酷い……」


 結局素っ裸にされ、身体を拭かれた挙げ句に替えの服を着させられてたのだが、もちろん全部見られました。


「……可愛いかった」


 何が可愛かったのかはあえて聞かない。


「どうして流されてきたの?」


「あ、え、えーっとさっきの虫に追いかけられて仕方なく川に飛び込んだんです」


「泳げるんだ」


「それって何か変なの?」


「……別に」


 どうやら俺が泳げることに不信感があるらしい。

 この世界では泳げたら罪なのだろうか。


 それまでの笑顔がなくなり脚元の巨大な武器を拾い上げると、足先から頭の上まで再度俺をよく見るメイドさん。


「もしかして……わざと?」


「え、わざとって……」


「わ、私が用を足しているところに」


「ええ!? そんな偶然ですよ! あんな大きな虫に追いかけ回されながらそんな器用な真似出来ませんて!」


 重たそうな武器を片手で持って微動だにせずじーっとこちらを見ている。

 これ以上怪しいと感じたら、あの鋭い穂先でぶっすりと刺されるのか?


 ご、ごく……。


 かくなる上は恥も外聞もないか。

 ここは一つ、必死になって謝ろう!!


「本当に怪しい者じゃないんです!」


 俺はメイドさんの脚元にしがみつくようにして必死になって訴えた。


「きゃっ!? こ、こら……」


「本当なんです! ただ川に流されて必死だっただけなんです!」


「わ、分かったから、は、離れて……」


「お願いです。信じてください。お姉さん!」


「お、お姉さん!? え、あ……わ、わ、わわ!?」


 しがみつく俺を剥がそうとしてメイドさんが足を滑らせて転倒しそうになった。


「え……うわ!?」


 なんとか踏ん張ろうとしたメイドさんだが、結果的に力が入りすぎた反動で俺の方に倒れ込んできた。


 どすんっ!


 俺は押し倒される形となり後頭部を打ち一瞬目の前が暗くなった。

 いや……一瞬じゃなかった。ずっと真っ暗だった。


 それに、なんだか顔に妙な生温かさを感じる。


「これは一体?」


 少しく顔を動かすとヌルッとした感触がする。


「ひゃんっ!」


 なんだか可愛らしい声が上の方から聞こえた。


「え、これってもしかして……」


「もしかしなくても、そ、そこはスカートの中!」


「ええ!?」


 どうしてかは謎だが、メイドさんが俺の方に倒れ込んできてこうなったらしい。

 ヌルッとした感触はおそらく……メイドさんのあれだと思われる。


「ひゃっ! こ、こら!」


 顔を少し動かしただけだったが、敏感な部分に当たったらしく再び可愛らしい声を上げて怒った。


「だ、だから、う、動か……ない、でって……い、いい加減に!」


 ごすっ!


「ぐえ!」


 思い切り脳天にチョップを食らったのだった。


「痛い……」


「自業自得」


 はぁと呆れた様子でメイドさんが離れると、立ち上がって再度説明をしていた。


「……ですからあの大きな虫に追い詰められて川に飛び込むしかなかったんです。そ、それで思ったよりも川の流れが速くて、なんとか岸に辿り着いたところに貴女が……」


 腕組みをしてじーっと見ているメイドさん。


「辻褄は合うかな」


 仕方ないと言った感じでメイドさんは一応の警戒を解いてくれた。


「分かるんですか?」


「あの虫は雄がテリトリーに入ったら、執着して追ってくる」


「まじっすか!?」


 だから俺ばかり追いかけてきたのか。サーチもディテクトもする暇が無かったから全く調べられなかったし。まあ二度とあんなのに追いかけられたくないな。


「怖かったよね……よく頑張った」


 それまで冷たい態度を見せていたメイドさんが何故か優しく俺の頭を撫でてくれた。


「……あ、ありがとうございます」


「うんうん」


 また笑顔になるメイドさん。

 よかった。どうやら話は分かってくれたっぽい。


「それで、この落とし前はどう付けてくれるの?」


 姿勢を正して正面から笑顔でそう伝えるメイドさん。


「え!? お、落とし前って……具体的にはどうすればいいのでしょう」


 なんか怖いことを言い出したぞ。

 この笑顔、絶対に信用しない方が良いヤツだ。


「私は魔物退治で生計を立ててる」


「あ、はい、って魔物退治? えっと、家事代行とかじゃなくて?」


 ギロリと睨みを利かせてくるメイドさん。


「で、ですよね……。つまりあの虫を退治した分の報酬くらいは払えと」


 クビを上下に振るメイドさん。


 この世界のメイドってのは家事の合間にあんなゴツい巨虫とかを倒せるのか。

 それとも、魔物退治の合間に家事をしているのか?


「それは分かりましたが具体的においくらぐらいでしょうか」


「それは……」


 うーんとあごに手を置いて考え始めた。もしかして高額請求なのか?


「……さすがに金貨は……、銀貨50……いや30枚?」


 銀貨30枚って……確か銀貨一枚が100円くらいって設定だから……3千円くらいか。

 え、さ、3千円!? 訂正前の50枚だって5千円じゃないか。セレーネなんてちょっと覗いた賠償で金貨200枚だったし、さすがに安すぎるんじゃないか。


 支払う方が心配になる金額というのも難儀な話である。

 もしかして金換算が苦手なだけだったりして? いや違うか、このメイドさん、さっきからそんな気はしてたけど俺のことを子供扱いしているんだな。

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