落書き大作戦

落書き大作戦

 交渉が決裂したことで最初のプランを実行に移した。


 今は夜が明ける直前、薄らと空が白み始めた頃合いに俺と紋様族は魔物の森にいた。


「ふわぁぁ……」


 俺達は軍隊のキャンプからほど近い場所で隠れるように様子を伺っていた。


「ちょっと、これから襲撃だってのに締まりがないわよ」


「すまん、色々と考えていたら寝るのが遅くなっちゃってさ」


 まだ森の中は真っ暗で少し霧がかっている。

 なんとも良い感じだな。視界も悪いから余計にこっちにとって好都合だ。


 3時間くらいかけて30人を転送し、いずれも若くてちょいとやんちゃなのを選んでみた。


「それじゃあいいかな。打ち合わせ通りにこの炭で人間達の顔に落書きをしまくってくれ」


 セレーネが紋様族達に炭を渡して回る。


「絶対に誰も傷つけたり殺してはダメだ。もし偶発的に起きている相手に出会ったら出来る限りスリープで眠らせるか、不可能なら逃げてくれ」


 紋様族は全員、静かに親指を立ててOKの合図を出す。


「さて、それじゃあデルちゃん、一丁頼むわ」


「ちゃん付けとか止めてくれる? なんかキモいし」


 さり気なく距離を縮めようとしてみたが、あっさりと拒否されてしまった。

 そんな少し悲しむ俺など気にもせずデルは紋様を輝かせ始めた。


「“コーマ”!」


 睡眠系最強の範囲魔法の一つ。

 要するに昏睡。これにかけられるとちょっとやそっとじゃ起きない。その代わり効果時間はそれほど長くない。

 ワイバーンのときに聞いたら使えないと言っていたのは単純にMPが足りなかったからだった。


 兵士達が眠るキャンプの辺りに薄い雲のようなものが浮かび上がった。

 一応計算ではこれで全員を眠らせられるはずだが……。


「なんだこれ……」


 ばたっ。ばたっ……。


 見張りに立っていた人間が次々と倒れていく。


「よし、上手く行ったみたいだ。じゃあ作戦開始だ」

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