夜襲の準備

夜襲の準備<Ⅰ>

 朝食の後、セレーネにデル、カトリナに族長さんと必要な人達に集まってもらった。


「集まったけど何をするつもりなの?」


 カトリナが一番に質問をしてきた。


「ああうん、今日の深夜……いや早朝に襲撃を掛けてみようかなって」


「勇者様!? それはもしかして……」


 驚いた顔のセレーネに俺は手で大丈夫と制する。


「物騒なことはしない。穏便にそれでいて相手にこっちが怖いんだと分かってもらう方法を思いついたんだけど、それにはみんなの協力が必要でなんだ」


「そういうことでしたら、わたくしはいくらでも協力致します」


「戦いが回避出来るのなら妾もなんでもしよう」


「私ならいつでもおっけーだよ」


 一様にみんな協力的であったが、その中で一人だけ微妙な顔をしているのが居た。


「えーっと……僕はちょっと嫌な予感がするから考えさせて欲しいんだけど」


「むっ、なんて勘のいい……」


「いやアンタが今からしようとしていること全員分かってるわよ。僕以外は何とも思ってないだけで」


「そうじゃの、妾はそういった実験は面白そうだから大いに構わん」


「わたくしも問題ありません」


「私も、あ、でも、初めてなので優しくしてくれると嬉しいです」


 カトリナだけは桃色っぽい紋様を浮かばせて恥ずかしそうにしている。


「カトリナよ勇者殿はなかなかのテクを持っておるから、身を任せておけば大丈夫じゃ」


「って、何を言っているんだよ!」


 そして俺はデルの肩に手を乗せる。


「まずは君に協力してもらいたいんだけど」


「イヤです」


「なんでだよ!?」


「だ、だって……キスをするんでしょ」


「だめか?」


「だ、ダメに決まっているじゃない……」


「そうか」


 うーん、困ったな。出来ればデルの協力が一番大事なんだけど。


「勇者さん、ここはもう一押しですって」


「ば、バカ! 何を言っているのよ!?」


 デルの紋様がうっすらと浮かび上がる。


「頼む……戦争を回避するにはお前の力がどうしても必要なんだ」


「ぬぐっ……う、うう……、わ、分かったわよ。すればいいんでしょすれば、どうせ一度しちゃったんだから二度も三度も同じよ!」


「それは助かる。何回か実験したいからさ」


「ええ!? 本当に何回もするつもりなの!?」


「そのつもりだけど」


「う、嘘でしょ……」


 凄く困った顔をしているが、どうしても必要なことなので一旦彼女の気持ちは棚上げにさせてもらおう。

 後で謝って、何か美味しいものでも用意しよう。


「それじゃあ早速始めてみようか」


「あ、あう……」


 う、うーん……そう思ったが、さすがにここまで嫌がっている女の子とキスをするのは躊躇うな。


「そ、そんなにイヤかな?」


「私知ってるよ。朝起きてヴェンデルが一生懸命歯を磨いていたの!」


「な!? ば、ばかなことを言うんじゃない!」


「なんじゃ、こうなることは最初から分かっておったのか。なんのかんのと言っておいて期待していたのじゃな」


「どうしてそういう話になるんですか! 確かに嫌な予感がしていたけど、僕も女だから口の中が臭いとか思われたらイヤだなって……それで」


 えーっと……そこまでイヤではないと考えていいのだろうか?


「じゃあ、するけど……」


「ほら早くしなさいよ」


「え、えっと……」


 とはいえ、やはり躊躇ってしまう。


「ああもうっ!」


 デルは服を掴んで自分の方に引っ張り込んでキスをした。


「んちゅっ……ちゅうぅ……」


 デルの舌が少し乱暴に入ってきて、グチャグチャと音を立てて粘膜を触り唾液を交換してくと、ダイアログが直ぐに表示されOKをする。

 慌ててデルの肩を軽く叩いて終わったことを告げる。


「はぁはぁ……それで、僕はどうすればいいの?」


 すっかり紋様が浮かび上がった状態で口元を腕で拭うデル。


「とりあえず、昨日と同じマジックアローを頼む」


「いいけど、目標はどうするのよ」


「危ないから、上空に向けて撃つとか出来る?」


「多分出来ると思うけど……“マジックアロー”!」


 デルの頭上から輝く矢が浮かび上がる。


「って……なにこれ!?」


 予想と違うモノが出て来て、その場の全員が驚いた。


 昨日は攻城兵器同然の巨大な一本の矢が現れたが、今はどこぞの某俺様キャラみたいに彼女の頭上に無数の矢が現れていた。


「こ、これ、ど、どうしよう!?」


 動揺していたのはデルも同じだった。上空に撃ち出すのを忘れて焦っていた。


「ヴェンデル、上じゃ! 上に撃つんじゃ!」


 最も冷静だったのは、さすがに族長でデルに指示を出した。


「あ、そうだった! いけっ!」


 デルが指を上に指すと、無数の矢が一斉に上空に飛んでいく。

 輝く矢が飛んでいく様はまるで打ち上げ花火のようだった。


 少なくとも三桁はあったであろう矢は全てが飛び出すのに若干の誤差があったが数秒で全てがなくなった。

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